【プロサッカー選手 田中亜土夢(HJKヘルシンキ)× コラムニスト えのきどいちろう 特別対談 】3.道をつくること

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― 道をつくること ―

フィンランドで奮闘を続ける田中亜土夢選手。Jリーグ時代からその成長を見守ってきたコラムニスト・えのきどいちろう氏の目には、今の彼はどのように映っているのか? えのきど氏独自の視点で、田中亜土夢の”リアル”に、さらに深く迫っていきます。

えのきど:亜土夢に続く形で日本人選手がフィンランドに来てほしいって思う?

亜土夢:来てほしいですね。

えのきど:僕はアイスホッケーの日光アイスバックスの仕事をしてるんだけどさ、サッカーチームもあるILVES(イルヴェス)のアイスホッケーチームと業務提携してるんだよ。アイスバックスの若い選手を送りこんでる。

亜土夢:タンペレ(※フィンランド北西部の街)のIVLES。サッカーチームも人気ありますよ。HJKじゃなくてもいいからサッカーでも来てほしいですね。僕ももっと若い時に来たかったです。UEFAの試合も経験できるし、ステップアップの可能性もある。若い日本人の選手が来てくれたらいいなって思ってます。だから僕の役目は次に続く人たちへの道を作ることでもありますね。

えのきど:優勝のほかに目標は?

亜土夢:EL(ヨーロッパリーグ)の本戦に出たいですね。それとフィンランドでサッカー教室をね、こっちに住んでる日本人の子供、フィンランド人の子供に。教えることは難しいとは思うんですけど、感じてもらえることはあると思うんです。僕のことを知ってもらいたいし、サッカーをもっと知ってもらいたいし、スタジアムに来るきっかけになってほしい。

えのきど:海外でプレーしてみて、あらためて思った自分自身の強みはなんでした?

亜土夢:走れることは間違いなく。技術も負けてないなと思えました。

えのきど:ヘディングのゴールも目立ちます、ちっちゃいのに。

亜土夢:クロスに入る前の動きが大切だってこと、実感しましたね。

えのきど:相手はつかめてないよね、亜土夢のこと。もうね、忍者みたいだった。亜土夢のことが全然見えてない。

亜土夢:相手は大きいけど、動きの意識で勝負できまからすね。

えのきど:想像以上にフィジカルなリーグでその中で年齢も上の方なのにズバ抜けて動けてる。俊敏性、いわゆるアジリティがすごいね。

亜土夢:それで生き残ってきたので。大切なのは予測と準備。体がちっちゃいからそういうことを考えてやるしかなかったですね。

えのきど:それはさ、日本でやってる体の小さい子たちの夢につながるんだよ。亜土夢はそういう存在なんだと思うんだ。外国人の大きな選手たちの中で小さい選手が大活躍してる。だってさ、あの相手にヘディング決めちゃうんだよ。入り込む形で競り勝ってる。どうやったら勝てるか、どうやったら先にボールに触れるかを考えれば勝負できるってことだよね。

亜土夢:やれるかもって感じてくれたらうれしいですね。

えのきど:HJKではこれだけ自由を与えてもらってる。それは亜土夢くらいうまい選手が他にいないから。でもこの先、移籍することになったとしてね。そのチームが亜土夢に楽しくサッカーをやらせてくれるとは限らない。

亜土夢:そうでしょうね。

えのきど:亜土夢の良さを僕らは知ってるし、HJKもそれがわかってるからこんなにハマってる。でも、その「サッカーがわかってる」っていう亜土夢の特長は、単純に足の速さとかフィジカルとかとは違うから、わかりにくい部分でもあるしね。次のチームがその良さをわかってくれるか。

亜土夢:すぐにわかってもらうのは簡単じゃないかもしれませんね。

えのきど:たとえば、それがここよりもビッグクラブだったら、こうはならないかもしれない。HJKは亜土夢にとって絶妙なバランスでハマったチームだから。

亜土夢:こんなチームに出会えるチャンスはなかなかないと思いますけど、レベルを考えたらここにいてはいけないとも感じてます。出来るなら違う国へ行って、新しい挑戦をしたいですね。

えのきど:この2年間で自信がついた?

亜土夢:つきました。助っ人としてやれてること。CL(チャンピオンズリーグ)やELの予選で充分に戦えたこと。重ねてきた経験がありますからね。

えのきど:亜土夢ってさ、有名になりたいとかお金稼ぎたいとかそういう欲は無いの?

亜土夢:どっちもありますよ(笑)

えのきど:割とそういう事って言わない人じゃん。コメントもいつもまじめじゃないですか、あなた(笑)。「オレはヨォ」とか偉そうなこと絶対言わないタイプじゃないすか。

亜土夢:思ってはいますよ。僕はそういうふうに言葉にするタイプじゃないんで。

えのきど:プレーヤーならその気持ちが無きゃウソだよね。いいじゃない。

亜土夢:活躍することでしか叶わないですけど、そのために頑張ってるんです。

えのきど:そういう思いがあって自信がついてくとさ、コレできるぞこれもイケるって目標がどんどん湧き出てくるでしょ。あのままJリーグにいてもきっとたくさん試合に出て活躍してたと思うんですよ。でも、ここに来て意識もあきらかに変わったよね。努力するタイプの人だとは思ってたけど、自分でステップアップしながら考えているからすごいね。ケガはしたけど体は強いし、勇敢だし、気持ちは柔軟だし、新しい環境で結果出していくってそんなに簡単な事じゃないですよ。なかなか感心なプレーヤーだなー(笑)

亜土夢:体はホント親に感謝ですね。気持ちは…そんなに気にするってこと自体が無いんです。いい加減なのか、柔軟なのか。

えのきど:たいていの場合は神経質になるんですよ、日本でお山の大将だったようなプレーヤーは特に。「ホントはオレは出来るんだ」ってなって「オレの思うようにやらせてもらえないからだ」ってなっちゃう。それで殻に入っちゃうんだ。

亜土夢:いろんな人に出会えたこと、いろんな人に助けてもらったことが今の僕を作ってくれましたね。だから今があるんだと思ってます。

えのきど:体と心はくっついてるんで、プレーヤーは気持ちが壊れるとプレーもダメですね。亜土夢を温かく迎え入れてくれたこの町の人たちには、感謝ですね。

HIKで充実した日々を送りながらも、さらに”その先”を見据えていた田中選手。連載のラストとなる次回は、田中選手が「自身の未来」について、その胸中を語っていきます。

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