【プロサッカー選手 田中亜土夢(HJKヘルシンキ)× コラムニスト えのきどいちろう 特別対談 】4.記録にも記憶にも残るように

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― 記録にも記憶にも残るように ―

日本を離れ、フィンランドに渡り3年目。強豪HJKの中心プレイヤーとして活躍する田中亜土夢選手は、これからのサッカー人生をどのように思い描いているのか──。特別連載の締めくくりとなる第四回は、田中選手が「自身の展望」を語ります。

 

えのきど:今年30才になるんだってね。びっくりしたよ。

亜土夢:まだですよ、10月で。

えのきど:あのモクハチクラブ(※)の小学生が30才かよ!(笑)

※モクハチクラブ:毎週木曜夜8時に、アルビレックス新潟の事務所前のサッカーコートを開放して行われている自由参加のサッカー練習会。大人から子供まで参加制限はなく、田中選手も小学生の頃、大人を相手にサッカーをしており、彼のサッカー人生の原点といえる。

亜土夢:懐かしいですね(笑)

えのきど:30才っていう自分の年齢は考えたりする?あと何年できるかなとか。

亜土夢:んー、考えることもありますけど、体力はまだまだ気になりませんね。試合に出始めた6、7年前と変わらないです。

えのきど:今、本当にベストですよ。頭のキレも体のキレも。めっちゃ動けてるし。

亜土夢:どうしても海外では年齢を見られる部分があるんでカンタンではないんでしょうが、プレーを見て、わかってくれて、必要としてくれるチームがあれば行きたいですね。

えのきど:この先何十年も選手として出来るわけじゃないから、やっぱり勝負したい?

亜土夢:チームも選手も町も人も、ここにイヤな事なんて一つもないんですけど、環境変えて違う刺激がほしい気持ちは強いですね。違う自分になれたらなって。

えのきど:違う自分になりたい。

亜土夢:サッカーだけではなく、また違った国で文化や町や人を見たいんです。絶対に人生でプラスになることですから。サッカーの世界なんで移籍が成立しないと実現しないんですけど。次のチームに行くためにもチームが優勝するためにも、これまで以上に貢献して。

えのきど:優勝したら泣いちゃう?

亜土夢:泣かないとは思いますけど、ロッカーに飾ってある歴代の優勝カップを上げてる写真を見ると…。僕が来てから連続優勝が途切れましたからね。

えのきど:ヘルシンキでその思いに決着をつける気持ちと新しい戦いの場へステップアップしたいという気持ち。二つの気持ちがあるんだね。もうここは忘れられない思い出の町だからね。

亜土夢:第2の故郷ですね。

えのきど:新潟の人たちはキャリアの最後は戻ってきてほしいって言ってるよ。開幕戦の活躍もやっぱりすごく喜んでたし、新潟出身の亜土夢を誇りだと思ってる。活躍しててみんなうれしい。でもいつか帰ってきてくれってみんな思ってる。

亜土夢:契約の事ですからね、どうなるかりませんが…。僕のサッカー人生の中でも大切な時期を過ごした新潟なんで。そういうことも心の中にはありますね。

えのきど:ヨーロッパで勲章勝ち取って、帰ってきてくださいよ。

亜土夢:ダメで帰るんじゃなくて結果を残して、記録にも記憶にも残るようなことをやり遂げて。

えのきど:いつの日か、ですね。

(おわり)

 

― 対談を終えて ―

フィンランドでは「西側を向いた海沿いの家」の不動産価値がいちばん高いそうだ。ホテルの部屋のベランダが西向きに出来ていて、それでひょっとしたらと思ってフロントの人に尋ねてみた。ちなみに以前、ブラジルでも同じことをフロントマンに尋ねた。南半球のブラジルは「北向きの日当たりのいい物件」だそうだ。南半球では南北が僕らの感覚と逆になる。北へ行くほど赤道が近づいて暑くなり、南は太陽から遠くて寒いのだ。

フィンランドの人々は夏に恋している。何しろ国土の1/3は北極圏のなかにある。冬の間は陽が差さず、陰鬱な闇に閉ざされるのだ。首都ヘルシンキでさえ1月1日の日の出は9時20分頃、日の入りは15時20分頃だ。これが北極圏へ行けば太陽がまったく昇らない「ポーラーナイト」になる。少しでも冬を快適に過ごすため多様なキャンドルが売られる。だから日照時間の伸びる夏は西向きの家で残照を味わうそうだ。太陽を少しでも楽しもうとする。そして夏はサッカーの季節だ。秋冬制が一般的な欧州リーグのなかにあって、フィンランドリーグ(ヴェイッカウスリーガ)はJリーグと同じ春秋制を採用する。短い夏を惜しむように週2ペースで日程が組まれている。

田中亜土夢はそんな国にいるのだ。「HJKヘルシンキ」の10番を背負って、もう3シーズン目になる。ポジションはトップ下。チームの要、「司令塔」だ。2017年の開幕戦は2ゴール1アシストの大活躍だった。登録名「アトム」はスタジアムの人気者だ。よく異国の地でプロとして成功したと思う。

対談を終えて印象に残ったのは、その順応性だ。異国での生活はその風土や生活習慣を受け入れられるかどうかである。亜土夢は素直で理解力も高いし、北欧の人々の実直な気風にも合っていたようだ。

僕は「新潟出身」に国際競争力があることがとても嬉しい。亜土夢は素晴らしい経験を積んでいる。

えのきどいちろう