hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

“トンデモクレーム”でSNSがバズった話

こんにちは、ケルトの笛のhataoです。

読者の皆さんはビジネスにプライベートにSNSを活用していることでしょう。ご存知の通りSNSは効果的な情報発信・収集ツールです。当店でもSNS活動を重視し、専任の担当者を採用して積極的に活用しています。

楽しく便利なSNSですが、一方で誹謗中傷が社会問題になっています。自分の投稿を誰が見ているか分からないSNSでは、内輪ネタだと思って投稿したことが「炎上」したり一瞬で悪い噂が広まったりします。一歩間違えると身を滅ぼしてしまうSNSは、手軽でダイレクトなだけに扱いが難しいのです。

そんなSNSは、使い方次第ではハラスメントの対策にも有効かもしれません。今回は悪質なクレームをもとにSNSをバズらせた体験を読者の皆さんにシェアします。

ハラスメントのメールが届いた

9月のある日、当店の代表メールアドレス宛てに実名付きのメールが舞い込みました。

それは当店のホームページを見た方からで、「楽器紹介動画で演奏している私(hatao)の運指が素人臭いために、せっかくの素敵なホームページの信頼を損ねている」というご意見が書いてありました。

楽器を演奏しない方にはピンと来ないと思いますので、詳しく読みたい方はブログをご覧ください。

「指を高く上げるのはド素人だ」という指摘をいただきました 前編

このメールの趣旨は「だから運指を改善しなさい」という忠告だったのですが、理不尽な主張かつ、上から目線で人を不快にさせるような文面でした。

当店は気持ちの良いお客様ばかりに恵まれ、意地悪なご意見をいただくことは滅多にありません。このような的外れなメールには返答せずに捨て置くこともできたのですが、今回は管楽器の運指についてという個人的に興味がそそられる内容だったので、資料を用意して反論を送り、その資料をもとにブログ記事を書いて公開しました。

頂いたメールをブログに載せる際には、プライバシーに配慮して匿名にし、著作権法に配慮して原文を全体的に要約しました。これにより訴訟リスクや二次クレームを予防することができます。

ブログを書く際には、メールの送り主をやっつけてやろうという個人的な怒りの気持ちは控え、読者の好奇心をくすぐるような内容と冷静な筆致を心がけ、世界の有名な管楽器奏者の演奏動画を紹介しながら、「運指が高いことと音楽の上手い下手は無関係だ」ということを証明しました。

この投稿を書いた時点でこの話題は「バズる」という直感がありました。運指の話題はケルト音楽に限った話ではなく、楽器演奏に関わる人であれば誰しも興味を引かれるテーマだからです。たくさんのコメントが集まることを予測し、頂いたコメントを後編に載せますのでぜひどしどしご意見を書いてください、という締め方をしました。

 

予想を越える反響があった

 

ブログを投稿したその日のうちにTwitterではみるみる「いいね」と「リツイート」が付き、それは当日のうちに数百にも登りました。当店のSNS運用において初の「バズ」でした。

読者からはTwitterだけでも50以上のコメントをいただきました。中には批判もあるだろうと覚悟はしていたのですが、なんとすべてのコメントが当店に好意的でした。中には「クレーム処理のひとつのお手本」とまで言ってくださった方もおり励まされました。また記事は多くのプロ音楽家の目にも留まり、プロ視点からの理論的な補強もしていただきました。

これをもとに翌週に発表した後編ではプロ奏者からの反論およびこれらのコメントをすべて拾い集めて構成し、再び大きな反響を得ることができました。

「指を高く上げるのはド素人だ」という指摘をいただきました 後編

この一連の記事によって当店のSNSフォロワーは1週間で50人ほど増えました。

 

トンデモクレームも料理して食べてしまう

 

クレーマーやハラスメントの動機は良心ではなく、相手を困らせてやろう、思い通りにしてやろう、どんな屁理屈でも良いから言いたい放題してストレス解消したいという自分勝手なものでしょう。その証拠に、最初に反論を送った後に、言葉遣いの悪いますます理不尽な返信が返ってきました。

そんな相手とまともに取り合っても良いことはひとつもありません。論破したとしても相手には恨めしい気持ちや怒りの感情が残るだけです。

しかし相手とやりあうのではなく、プライバシーや著作権に配慮した上で「こんなことを言われたけど、みんなどう思う!?」とSNSのフォロワーに意見を求めてみてはどうでしょうか。私は、この方法には3つのメリットがあると考えました。

1つ目のメリットは、フォロワーとの結束がより強固になることです。SNSのフォロワーは発信者に興味や愛着などの好意的な感情があります。発信者が理不尽な攻撃にさらされていれば黙ってはいられないでしょう。そうしたフォロワーがSNSという公開の場で様々なコメントを発することでフォロワー同士の仲間意識が生まれ、発信者とフォロワーとの結束はさらに強固になります。

2つ目のメリットは、トンデモなクレーム内容がバカバカしいものであっても真剣に検証することで、それまで考えもしなかった新たな発想が生まれる可能性があるということです。おかげで私は今回の運指の件で、色々な考えを読んで新たな知識を得ることができました。それはレッスンや教材製作にも役立ちます。

3つ目のメリットとしては、理不尽な言いがかりをつけるとブログのネタにされて大々的に広まってしまうという結果を見せることにより、誹謗中傷には絶対に屈さないという当店の方針を表明し、クレーム予防の抑止力につなげられるということです。

 

文章力と影響力は強力な武器になる

当店にハラスメントを行った人は、当初は自分と当店だけの間だけで済む話だと思ってメールを送ったに違いありません。

言いっぱなしでスッキリしたいのか、反論が来たらやりあおうと考えていたのかはわかりません。しかし、まさかこんな風に自分の主張がブログやSNSで公開され、5000人以上の人目に晒されて、多数の無名の読者から自分を批判するコメントが付くことまでは決して想像できなかったはずです。

ネット社会において文章力と影響力は強力な武器になります。一人に向かって後ろから石を投げたら、投げた相手の周りの5000人もの大群がこちらを振り向き、文章力という武器でやり返されるのです。それが10万人や100万人だったら……? 考えただけでも、とても恐ろしいことです!

相手は1人なのにこちらは5000人以上。相手には何の発信力もメディアもないのに、こちらにはブログ、Twitter、Facebook、Instagram、メルマガ、YouTube、本誌Brewなどの発言するメディアがある。最初から力の差は圧倒的でした。

私は少々やりすぎてしまったのかもしれません。これからは、自分には使い方を誤れば人を傷つけてしまう恐れのある強力な武器があるのだという自覚をもって、SNS運用を続けていきたいと気持ちを引き締めました。