築古リフォームで好条件の店舗物件を契約した話

こんにちは! 楽器店を経営する笛吹き、ケルトの笛のhataoです。

個人事業として創業10年目、法人化へ。

今年も確定申告の締め切りがやってきますが、事業主の皆さんはもう提出されたでしょうか。私は税理士への記帳データの提出がやっと終わりました。あとは申告書ができるのを待つばかりです。

私の楽器店「ケルトの笛屋さん」は、もともと音楽家の副業として始まり、今年で10年目になります。これまで確定申告では演奏・レッスン・楽器店という私の仕事すべてを一緒にしてきました。当店には経理スタッフがおらず、記帳は自分で行い、チェックと申告書の作成を税理士に依頼してきたのですが、今や楽器店の売上規模が他よりはるかに大きく、年々書類の束が大きくなり、今までのやり方では無理を感じるようになりました。

そのため今年度から経理を効率化・強化する仕組みをスタッフとともにつくり、税理士と顧問契約を結び、個人事業から株式会社にすることにしました。

法人化は数年前から検討していたものの、これまでは時期ではないと見送ってきました。今回決断した第一の理由は節税です。昨年の業績はコロナ禍のステイホーム需要のため好調だったのですが、個人事業のままでは税金や保険料が本当に高いのです。また、ここ数年は卸売で会社とのお付き合いも増えてきましたので、当店も株式会社であるほうが信用があるのではと考えています。

偶然とご縁で実現した東京店の移転

前回の原稿では、東京店の移転の経緯についてお話しました。

前回は、東京の高い家賃に加えて、コロナ禍による来客減で東京撤退を検討していた折に、SNSを通じて紹介いただいた築古物件をリフォームして移転をしたことを書きました。

現在の物件の提供を申し出てくださったのは、なんと私と同い年の、神奈川県在住の女性です。趣味でアイルランド音楽を演奏する方で、私のTwitterをフォローしてくださっており、物件募集の広告を読んだようです。

同い年というだけでも偶然なのですが、さらに驚いたのは紹介いただいた物件が前の東京店から徒歩5分という立地だったことでした。

自治体はひばりヶ丘市から東久留米市へと変わりますが、最寄り駅は同じ西武池袋線のひばりヶ丘駅。こんな偶然ってあるでしょうか。ご縁を感じざるをえません。

ご紹介いただいた物件はその女性(以下、大家さん)のご主人のご実家です。お義母様が高齢になり一人暮らしが難しくなったため家財道具をそのまま残して退去し10年ほど空き家となっていたとのこと。住めるようにリフォームするにもサラ地にするためにも多額の費用がかかり、毎年、固定資産税ばかりかかり続ける負の遺産となっていました。

かなり傷みの激しい物件

間取りを教えていただいたところ、私が思い描いていた理想の店舗兼住宅が実現できそうだとわかり、私は契約に前のめりになりました。契約を決める前に現物を見なければと思い、見学をさせていただいたのは20年の夏のことです。

物件はひばりヶ丘駅の繁華街から10分ほど歩いた生活感あふれる住宅街にあります。外観は典型的な昭和中期の木造住宅で、隣の中華料理店と壁を共有する長屋。この中華料理屋もまた、古き良き日本の中華食堂といったとても趣のある店構えです。

大家さんのお義母様は離婚後にここで理髪店を営みながら女性一人でお子さん(つまり大家さんのご主人)を育てられたそうです。そのため、1階は洗髪台や理容イスが残されており、生活をしていた2階には家財道具が大量に残されていました。それを大家さんは、まだ私が契約を決めていないうちから業者に100万円を支払い回収してもらったと聞きました。私よりむしろ大家さんのほうが契約に積極的だったのです。

残置物があらかた撤去された物件に行ってみると、想像以上の傷み方でした。床の一部は腐り、水回りはかなり不潔な状態……。これをリフォームするのは本当に大掛かりな工事になりそうです。幸いなことに躯体はまだしっかりしており、東日本大震災でも無傷だったとのことでした。

写真はGoogle ストリートビューに今も載っている、リフォーム前の姿です(真ん中の家です)。

賃貸契約の交渉

物件を見てリフォーム次第では綺麗になりそうだとわかり、また立地が気に入り、大家さんもメールのやりとりのとおりの誠実そうな方だったので、契約を申し出ました。不動産や行政書士を通さず、素人二人での交渉です。

私は率直に予算や希望を伝えました。大まかな案は、リフォーム費用を私が出し、それを前払い家賃として長期間賃貸契約を結ぶというものです。契約期間終了後は、相場の家賃で契約を継続することができます。私には最初に大きな出費がありますが、その代わり家賃は相場よりもずっと安くするようにお願いしました。

私にとってはリフォームによって思い通りの間取りになり、きれいな店舗建住宅ができ、安い家賃で長期間借りられる。大家さんにとっては、持て余していた空き家を私の資金協力で蘇らせ、契約終了後は自分のもとに返ってくる。お互いにとってWin-Winになると考えました。

前払い家賃のしくみについては、具体的な数字は言えませんが、例えば1,200万円のリフォーム費用がかかるとして月家賃が10万円だと設定すると、120ヶ月分の家賃になります。つまり最初に支払っておけば10年間月々の家賃が無料で借りられる、ということです。実際にはこれよりもずっと安い家賃で10年間の契約を結ぶことができました。

大家さんもこの提案に同意していただき、結果的には大家さんもリフォーム費用で足の出た分を出資していただいた上に、想定よりもずっと安い金額で契約をさせていただくことができました。

フロアプランナーで、リフォーム・プランを思い描く

契約について交渉すると同時に、間取りも具体化していきました。この物件をどのように使いたいのか。どんなことができるお店にしたいのか。最初は手描きで図面を引いたのですが、無料の3次元プランナーが便利だと知り、作ってみました。それがこちらです。

https://www.floorplanner.com/

この無料のツールでは、ドアや窓の種類、床の高さや通路の幅など、かなり細かくデザインすることができ、図面を多方面から立体で見ることができます。自分のアイデアを整理するだけでなく、リフォーム会社にイメージを伝えるのにも役に立ちました。

間取りでこだわった点は、店舗スペースに防音室を導入したことです。住宅地にある楽器店なので、試奏する際にご近所に音が漏れてしまっては営業が続けられないと考え、100万円ほどする防音室を導入することにしました。

四角い防音室は広い部屋に置いたとしても、導線の邪魔になってしまいます。しかしまたもや偶然が。もともと理髪店だった店舗の奥にくぼんだスペースがあり洗濯機を置いていたとのことで、このくぼみが防音室を置くのにぴったりだったのです!

また、理髪店のころから、店舗スペースのお客様が土足で歩くスペースと奥の住宅部分に段差があったため、この段差を活かし店員が作業するスペースは20cmほど床を上げることにしました。こうすると、店員からは店内がよく見え、接客や作業もしやすくなります。

理想の物件というのはそうあるものではありませんが、現実に手に入る物件のもとの姿を活かして、理想に近づけることが大切です。

インテリアで重視したのは、美しい外観で入りやすい雰囲気であること。内装は白と木目を基調にした落ち着いた雰囲気で、ゆったりと過ごしていただけることです。

相見積もり、そして着工へ

リフォーム会社については大家さんが3社程度に相見積もりをしてもらい、最も合理的だと思える大手工務店にお願いしました。工務店は私が描いた3Dスケッチをもとに、店舗、店長の居住空間、倉庫、水回りなどの配置をしてくれました。

リフォーム・プランはインテリアを除きほとんど大家さんと私と工務店との三者で相談しながら決めていきました。大家さんがここまで関わってくださるとは思わなかったので、本当に頼りになりました。

また私が関西に住んでいる都合上、東京に通って現場を確認することができませんでしたが、現場の様子や寸法など確認が必要なことについては大家さんと東京店店長の丸山君に現場に行っていただくことができ、とても助かりました。こうして工事が始まったのは20年11月下旬でした。

交渉ではお互いにとってメリットある提案を

今回の移転では、Twitterでつながった思いもしないご縁がきっかけとなりました。普段からSNSで情報発信をしていたので、私の考え方に共感をしてくださっていたのだと思います。

しかしそれだけではこのような最良の条件でお借りすることは難しかったかと思います。リフォーム資金を一括で負担するという、一般の賃貸契約ではありえない大胆な提案を受け入れていただけたからこそ、大家さんにもメリットを感じていただき、破格の条件で合意を得ることができたのではないでしょうか。

この方法の再現性は低いかもしれませんが、この経験から得ることがあるとすれば、商売や交渉事においては自分だけが得をするのではなく、相互にメリットがあるように、時には慣習や常識を超えた発想をすることが大切だということです。

このシリーズ、次にインテリア選び、DIY、築古物件ならではの苦労した点や、築古リフォームの仕上がりについてもお話したいと思います。

□ ANOTHER STORY

maimorita

KIKUSUI

MASAKO TAKANO

hakko-bunka