輸入小売店がオリジナル商品を開発する理由

こんにちは! ケルト音楽専門の楽器店を経営している音楽家のhataoです。

この連載では、楽器ビジネスや貿易ビジネスに興味のある方、起業に興味のある方向けに、スタッフ10名以下の零細ベンチャー企業が熾烈な競争で生き抜いていくための私の試行錯誤をシェアしています。

当店は海外10カ国を超える国々の楽器職人やメーカーと取り引きして、日本では入手しにくい楽器を販売しています。今回は、当店が小売店にとどまらずオリジナル商品の開発に舵を切った経緯や、その進展についてお伝えします。

輸入ビジネスをおびやかす環境的な要因とは?

輸入ビジネスをしていると、自分ではコントロールできない要因によって、経営が左右されることがあります。

最も大きな要因は為替レートの変動です。

当店では年間に3,000万円くらいの仕入れをしますから、為替が10%変わるだけで300万円も仕入れ原価が変わるということになります。

10年くらい前に1ドル80円台を切る時代があり、そこから1ドル120円くらいへと急激に円安になりました。実に50%の円高です。円高の頃、ちまたでは「円高還元セール」としてワインやチーズなど輸入食品を安売りしており、海外旅行にも行きやすくなっていました。輸入業をしている私としても、原価が安く入荷できる良い時代でした。

円高還元セールとは、本来はレートの変動に左右されないように高めに設定している小売価格を、想定以上に円高に振れたときに値下げすること。しかし当店はレートがビジネスに及ぼす影響について無知だったため、よく考えずに、お客様を喜ばそうと円高還元セールを行いました。当店では一定の利益率になるように売価を決めていたため、円高になると得られる利益額は減り、円高の恩恵を受けることはありませんでした。今なら少しは賢くなり、円高の時に多めに仕入れたり先払いするなど対応ができるのですが、せっかくのチャンスを活かすことができなかったのです。

二つ目の要因は、相手先の都合に翻弄されることです。困るのが予告のない値上げ。良心的な取引先は年初から値上げする旨を価格表と一緒に数ヶ月前には送ってくれるのですが、ひどいメーカーは、毎年何回も取り引きをしているのに、あるとき注文して請求書を見ると価格が上がっている、なんていうことがあります。入荷後に原価計算してようやく値上げの事実に気づき、こんなに原価が高騰するなら数を減らせばよかった、と後悔することに。これはお互いの信頼を損なう行為なので、クレームを入れるようにしています。

また廃版や納期の遅れで入荷ができないこともしょっちゅう。当店の取引量は決して多くないので、メーカーに納品数や価格について強く言うことができないのが悔しいところです。

経営環境の長期トレンドを見据えよう

安倍政権になってから、日本政府の金融政策は大きく方向転換し、為替を円安に誘導しています。円安になることで主要産業である製造業が伸び、海外投資家が日本へ投資しやすくなるためだと言われています。しかし円安には副作用もあります。対外資産が目減りし、海外旅行が高くなり、穀物やエネルギーなどあらゆる輸入品が高騰します。このトレンドは安倍政権を引き継いだ菅政権になっても変わっていません。

その上、日本はバブル崩壊後30年に渡る低成長の国家です。世界経済を牽引する海外主要国では毎年最低賃金、物価が順調に伸びているのに、私達の賃金は下がる一方で、物価もデフレが続いています。私達と外国との差は大きくなる一方で改善の見込みがありません。

輸入業への影響を簡単に言えば、輸入品がどんどん高くなってゆくということです。それは経営者の実体験としても感じています。当店のあらゆる商品は毎年数%ずつ値上げしていっており、この10年では50%ほど値上がりしたものもあります。日本と海外の関係がこのまま続けば、いずれ輸入楽器は庶民の手に届かないものになってしまうでしょう。

高級車や高級腕時計のように高所得者を対象にしたビジネスであればそれでも良いかもしれませんが、ヨーロッパの庶民の音楽を日本でも手軽に楽しんでもらいたいという当店の趣旨とは異なります。その長期トレンドを見据えて必然的に生まれたのが、自社ブランドの製造販売という新たな路線でした。

ビジネスの主導権を取ろう

上記のような環境要因に左右されることなく、安定した価格・量の商品を市場に供給し、安定成長を続けるには、製造から自社でコントロールするしかないという結論に至りました。

輸入楽器ビジネスには二つの方向性があります。ひとつは伝統的な職人によって作られるもの。手作りなので量産できませんし、人件費が値上がりする傾向にありますが、一方で希少性があり価値が下がることはありません。

もうひとつは、中国やパキスタンなど人件費や原材料費が安い第三国で製造し自社ブランドとして販売するもの。安価で量産ができますが、品質管理が決め手となります。

楽器店として自社ブランドを作るにあたって、どちらの方向も実現は可能です。上記の少量生産の場合は職人や工房に投資するなど一から育てるつもりで長期の投資が必要です。量産の場合は、すでに設備や経験がある良い工房を探し、品質向上のために根気強く改善要求を出し続けることが必要となります。当店としてはどちらも行いたいと考えています。

いずれの場合も、アイデアやデザインにオリジナリティが無ければすぐにコピーされてしまいますから、自分が思い描く、市場に存在していない理想の商品を発想し、その実現まで責任を持って生産者とお付き合いすることが良い商品を作るポイントだと考えています。

こうして当店では、ヒット商品となったバグパイプ「どこでもパイプス」、低音の縦笛「イニシア」、OEM生産のアコーディオンやコンサーティーナといった商品の開発を行ってきました。それらについては、また次回にお話します。どうぞお楽しみに!

 

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