円安不況に強い輸入ビジネスを作ろう

こんにちは! ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営している、フルート奏者のhataoです。この連載では私のようなスモールビジネス経営に興味のある方に向けて、私の経験やアイデアを発信しています。

前回の連載ではスモールビジネスの価格の決め方について、「価値と価格の違い」「原価率と利益率」などの前提知識をご紹介しました。まだ読んでいない方はぜひそちらからお読みください。今回の連載では、弊社の価格決めをする際に考慮していることをシェアします。

なお、価格決めはビジネスの根幹でありマーケティングとも関わりとても深いので、ここでは輸入業に関する部分のみを取り扱います。

為替レートと価格


輸入業の業績に大きな影響を与える要素が為替レートの変動です。昨今は急激な円安が進んでいます。円安は輸出業者にとっては市場競争力が増すため追い風ですが、弊社のような輸入業者には仕入れコストが増すため逆風となります。現在は円安に加えてエネルギー価格や原料不足によるインフレもあいまって仕入れコストが上がり続ける一方で、市場のデフレマインドのため価格に転嫁できず悲鳴を上げている業者が多いそうです。

弊社も例外なく円安の影響を受けており、例えばアメリカ製のハープは昨年より30%ほどの値上げとなりました。

為替相場によって値段を変えるべきか


弊社では毎回仕入れのたびに原価計算をして、そのつど販売価格を決定しています。昨今のように為替レートが短期間で大きく動いた際に一定の利益を確保するためです。このことについて、頻繁に価格が変わるのは困るとお客様から不満を言われたことがあります。高額な商品を買うために貯金をしている人にとって、価格変更で予定が狂ってしまうのは理解できます。しかし、為替レートの変動に従ってその価格を変えることは、お客様に対して誠実であると考えています。

これは、住宅ローンの固定金利と変動金利にちょっと似た話かもしれません。

私の知るある輸入業者は、毎年の想定レートを設定して急な為替変動があってもその年は同じ価格で提供しているそうです。例えば1ドル100円でも110円を想定するということで、為替が動いても自分は損をしないように備えているのです。しかし、お客様の視点では、価格が変わらない安心を高い為替レートによって買っているということになります。

利益率を一定にするか、粗利額を一定にするか


昨今の円安のように急激に為替レートが動いた場合、原価率や利益率を基準に価格を決めると、売価はレートの変化以上に大きな値上がりになります。

例えば原価1,000円の商品で原価率を50%と設定した場合、売価は税抜き2,000円、粗利は1,000円です。同じ商品の原価が値上がりして1,500円になったとき、同じ原価率を保つのであれば売価は3,000円、粗利は1,500円となります。この場合、販売者の目線では500円の値上がりなのに、お客様の目線では1,000円の値上がりとなってしまい、値上がりのインパクトはお客様の方がより大きくなります。
このインパクトは高額な商品ほど大きく、2,000円が3,000円になっても大きな心理的な影響はありませんが、20万円が30万円になるとお客様にはかなり値上がりしたという印象を与えます。また、原価率ベースで売価を決めていると、輸入元の小売価格との乖離が大きくなり、お客様は個人輸入を検討し始めるかもしれません。

このように原価の高騰をそのまま売価に転嫁すると、値段が高すぎてお客様が離れるおそれもあります。

一方で、一定額の粗利を得られれば良いと考えることもできます。例えば原価が1,500円になっても、以前と同じ1,000円の利益を得らえれば良いので売価を2,500円にする、ということです。

弊社では基本的に同じ商品であれば同じ利益率によって売価を決めていますが、今回の円安のように急激な原価の上昇があった場合、高額商品においては客離れを防ぐために粗利を基準に売価を決める場合があります。

ただし、ビジネスは投資に対する収益率で良し悪しを判断するので、すべてを粗利額ベースで計算すると全体の収益性が悪化しますから、どこかでバランスを取る必要があります。

円安不況に強いビジネスを作る


円安は輸入業者を追い詰める大きな要因ですが、弊社では現在のところ円安の影響をそれほど受けていません。それにはいくつかの理由があります。

一つは、競合ないことです。弊社は国内では唯一のケルト音楽の楽器専門店であり、競合がありません。統計データはありませんが、この市場では大きなシェアを占めていると考えています。また、同じ商品を扱う他業者がいないため、価格の競合が起こりにくく、自由に価格を設定しています。

次に、商品の優位性です。弊社で取り扱っている輸入楽器の多くは他店では買うことができず、中古市場を除いては、個人輸入する以外では他から手に入れることができません。

そして、嗜好性の強い商品であることです。食品や日用品は同じような品質であれば安い商品が好まれますが、ニッチな嗜好品は少々高くても需要があります。世の中が不景気であっても、お金を持っている人はいるものです。

他にも国内製造元を探すなど、円安の影響を回避するための対策も行っています。

ブルーオーシャンでも気を抜かずに

競合が少ない市場のことを「ブルーオーシャン」と言います。弊社は市場規模が小さくともブルーオーシャンでニッチなビジネスを営んでいます。しかし、競合がいないことにあぐらをかいてコスト増をそのまま消費者に転嫁していては、いつかは無理がやってきます。あそこは高すぎるから手が出ない、と思われてしまっては、将来は危ういでしょう。

より安価で品質の良い商品の輸入先の開拓や、国内製造を強化する、中古品の取引を強化するなど円安や不況時にも買いやすいと思っていただけるよう円安に適応することが求められています。

今月は10年の輸入業での経験をもとに、販売価格についてのアイデアをシェアしました。それではまた次回!

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