輸入ビジネスが円安時代を生き抜くには

こんにちは! ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営している、フルート奏者のhataoです。この連載では私のようなスモールビジネス経営に興味のある方に向けて、私の経験やアイデアを発信しています。

 

円安が止まりません。先日、為替相場は1998年以来24年ぶりに1ドル140円を付けました。

98年当時、私は大学生。円安で世間が大騒ぎしていたという記憶はありませんが、現在の状況は当時よりも深刻だと言われています。それは、当時よりも日本の経済力が落ちていることと、海外では当時よりもインフレが進んでおり、日本との経済格差が開いているからです。

円安は輸入ビジネスに深刻な影響を及ぼします。そこで今回は、私のような零細輸入業者が円安時代を生き抜くための方法を考えてみます。

価格が10年前の2倍になった衝撃


弊社で販売している楽器の中で、10年以上定番商品として人気のあるアメリカ製のティン・ホイッスル(笛)があります。輸入楽器ビジネスを始めた2011年、ドル円レートが80円程度だった頃はこの楽器を25,000円で販売していました。その楽器が毎年値上がり続け、この9月についに税込50,000円を超えてしまいました。2011年の私は消費税の課税対象業者ではありませんでしたが、現在の価格は消費税を含んでいるとは言え、たった10年間で2倍の値上がりです。

ドル円相場は100円くらいが基準とされ、80円だった当時は異常な円高でした。輸出業者への打撃が騒がれていた一方で、街の商店では「円高還元セール」としてワインや輸入雑貨などが売り出されており、海外旅行がしやすく消費者にとってはありがたい時代でした。

輸入楽器の価格がこれほどまでに値上がりした要因に円安があることはもちろんですが、輸入元の値上がりも見逃せません。30年間デフレで給料も物価もほとんど変わらない日本はむしろ異常な国であり、経済が順調な国では物価は常に上がり続けます。輸入元から毎年新しい価格表が更新されて数パーセントずつ値上がりますが、今年の値上げ幅は尋常ではなく、メーカーによっては2回も値上げをしています。それだけ、製造国でインフレが進んでいるということです。

この輸入元の値上げと円安のダブルパンチにより日本での販売価格は大変なことになります。たとえば輸入元が25%値上げし、さらに25%通貨が安くなった場合、輸入価格は125 × 125で56%もの値上げとなります。

消費者に価格転嫁しても苦境は変わらず


仕入れ値の値上がりは、消費者にとってはさらに大きな差になります。

仕入れ値10,000円、売り値20,000円(税抜)の商品を例に考えましょう。この商品の原価率は50%です。この商品が仕入れ値15,000円になったとします。この場合、輸入業者の差額は5,000円です。
この商品の原価率を保つなら、売り値は30,000円(税抜)になります。すると、消費者にとっては10,000円の値上がりです。同じ50%アップなのですが、価格差は仕入れ業者が感じている以上に大きなものになります。輸入業者と消費者の間に問屋などの中間業者がある場合は、さらに差が広がるでしょう。

このように原価率・利益率を保ったまま消費者に価格転嫁できれば良いのですが、現実はそう簡単ではありません。競合他社がいるビジネスの場合は、ライバル社の出方を見つつ値上げをします。というのも、ライバル社のほうが旧価格の原価が安い在庫を多く抱えており値上げをしない場合は、こちらが値上げをしてしまうと価格差からお客様はライバル社に流れます。また、仮に在庫状況が同じだとしてもライバル社に資本的な体力がある場合は利益を下げてでも値上げせずに価格競争をしかけてくるかもしれません。

あるいは弊社のように競合がいないビジネスであっても、輸入業者の思うままに値上げをしてしまうと、消費者の購買力が追いつかず、結局は売れなくなってしまうことになります。そのため、同じ粗利を確保する守りの値上げにする選択もあります。例えば仕入れ値100円、売り値200円、粗利100円の商品が仕入れ値150円になった場合に、同じ100円の粗利を確保して売り値を250円にするというものです。この場合、利益率は50%から40%に下がっています。このように仕入れ値の比率に対して販売価格の値上がり比率を下げると、ビジネスの投資への収益性は低下します。

輸入業者にとって、円安は良いことはひとつもないのです。

値上げのタイミングと価格の「ねじれ」


今年はわずか半年のうちに20円以上も相場が動きました。このような為替変動はどの会社にとっても想定外のはずです。商品の輸入は常に行っていますが、仕入れるごとに値段が上がってゆく異常事態。このような状況では、価格の「ねじれ」が生じます。

例えば1ドル100円で商品Aが100円、Bが120円、Cが140円と、3つのランクの商品があるとします。Aが普及品、Cが高級品とします。1ドルが140円になり、Aが品切れしたためAだけを輸入したところ、Aは140円になってしまい、ランクの低いBよりも高くなってしまい、AとCは値段の差がなくなってしまいます。このようなプライシングは消費者を混乱させるため、全体の値上げ比率をA140円に揃えてB168円、C196円に値上げをするか、A120円、B140円、C160円というように全体の値上げ幅を揃えて調整するかというようになります。

このように、急激な為替変動はプライシングの混乱を招きます。

意識されない円高リスクとは


極端な円安時に入荷した商品は消費者の手が伸びにくいので、長期間売れ残る可能性があります。

その期間に「円高リスク」が発生することがあります。輸入業者にとって円高は一見歓迎すべきことのように思うかも知れませんが、円高は2つの問題をはらんでいます。

例えば短期間に円が140円から100円に変わった場合、消費者が海外メーカーから直接購入する価格と国内販売価格との差が開きすぎて、自社の価格がますます高く見えてしまいます。また競合他社が円安時に仕入れた在庫を売り切り、円高後の為替レートで在庫を仕入れると、自社との価格差のためにお客様はライバル社に流れてしまいます。そのため急激な円高になれば自社の販売価格を下げて対応するほかありませんが、当然ビジネスの収益性は悪化します。

ここからわかることは、円安時に在庫を増やすことには大きなリスクがあり、円安時は売り切ってでも現金を多めに確保しなければいけないということです。

為替は先の見えない世界。適切にリスク管理を。

経済アナリストでさえ予測が分かれる為替の世界。日米の金利差を考えると今後も円安は続くであろうと見られていますが、23年にどうなるかは不透明です。これから円が200円に向かって行くとすれば、今が仕入れのタイミングですが、もし円高になるのであれば多額の仕入れは危険です。

為替の動向を見ながら、適切にリスク管理をして円安時代を生き延びましょう。

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Saki Nakui