私の失敗エピソード 〈鳴かず飛ばずの集客と出版編〉

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が、起業やビジネスについて、アイデアと経験をみなさんとシェアしています。

これまで私の失敗エピソードを「海外編」「金融投資編」と続けてきましたが、読んでどう思われましたか? まだまだ甘い? そうかもしれませんね。私は活躍している人の失敗エピソードを読んでみたいです。失敗から立ち直った人や失敗を重ねて成功パターンを見つけた人には、学ぶべき点があります。さて今回は「鳴かず飛ばずの集客と出版編」です。細かい失敗を色々とご紹介します。

「成功するイベント」と「失敗するイベント」の違い

これまで音楽家として数々のコンサート、レッスン、レクチャーや交流イベントなどを主催してきました。中には鳴かず飛ばずのものもあれば、それなりに成功したものもあります。

もともと私が活動のフィールドとしているヨーロッパの伝統音楽は、日本ではマイナージャンル。そのため、長年同じような顔ぶれで同じようなお客様を相手に細々と成り立っているような業界です。

多少は時代とともに演奏者もお客様も入れ替わっていますが、全体的な規模感は20年間で大きくは変わっていません。そしてイベントは都市圏で週末や祝日に集中するので、魅力的な内容のイベントを定期的に開催して、「あの人のイベントは行っても後悔しない」という印象を持ってもらえることが、安定した集客には必要です。その点において、私は数々の失敗をしてきました。

例えば「笛ナイト」という笛愛好家を対象にした練習会を主催したことがあります。

数々の種類の笛を愛好する私が、参加者を募って毎週テーマを変えて一緒に練習するという催しです。動機は収入のためでなく私自身の練習のモチベーション作りとして、また参加者との情報交換を目的にしていました。しかし結果的には集客が十分にできず、楽譜を準備する時間をとられたり、結局レッスンのようになって私の負担が大きい割には収入が得られず、継続ができなくなってしまいました。

それからコロナ禍が始まった翌年の21年からは、ライブ配信にも挑戦しました。

20万円くらい機材に投資をして、自宅からライブをしようと思いつきました。当時政府は芸術家対象の給付金を充実させており、私の周りでも多くの音楽家が給付金で機材や楽器を買い集めていましたが、私は主な収入が楽器店事業だったので、全額を自費で出しました。
ライブ配信は何度か行い、それなりに視聴者も集まり、特に普段コンサートができない海外や地方の方には喜んでいただけたのですが、音声と映像のクオリティを上げることができず、かといって機材やソフトの研究が苦手な私はやる気を出すことができず、モチベーションが続かなくなり中断してしまいました。意気揚々を始めたが情けなく、今でも苦い思い出となっています。

これらは大きな損失を出したわけではないのですが、このように不発に終わった思いつきはたくさん積み重ねています。

一方で、それなりに成功を収めたものもあります。

例えば世界の民族笛奏者が集いコンサートやレッスンを行う「万笛博覧会」は全国から集客をして一度も赤字を出しませんでしたし、1日中アイリッシュ・セッションをする「アイリッシュ・カーニバル」も毎回100人を超える参加者で賑わいました。

成功するか否かの境目は、ひとつはそれに賭ける私自身の熱量と覚悟です。生半可な気持ちで企画したものは、参加者にも伝わってしまいます。

もう一つは協力者の存在です。私一人でやろうとしたことは、たいてい不発に終わりますが、同志を集めて協力しあえば成功する確率が高まります。
私は器用な人間なので、それなりに色々と一人でこなすことができますが、別の個性を持った協力者の存在によって、より安定感のある魅力的なイベントにすることができるのです。

自費出版は、思い入れが強すぎると失敗する

楽器店の商品開発も、これまで数々の失敗を重ねています。いや、むしろ成功するほうが珍しいくらい、たくさんの無駄打ちをしてきました。

例えば私のヒット商品に「ティン・ホイッスルを吹こう」という小冊子や「始めよう!アイリッシュ・セッション」という楽譜集があります。これらの本は出版から長い年数を経た今でもロングセラーとして版を重ね続けています。一方で、これまで10冊以上の書籍を自費出版してきましたが、その多くが在庫の山となって保管されたままになっています。

私は一人の音楽愛好家として「こんな本があればいいな!」と思うものを企画して出版してきました。本を出版するには、とにかく膨大な時間と労力がかかります。そして編集費用や印刷費用など出版にかかる費用も数十万円以上の大きなものです。教則本なので参考音源やビデオを作ると、さらに経費は膨らみます。

私が取り扱うようなマイナージャンルは、そもそものマーケット規模が小さいので200〜1,000部程度の少部数の出版になりますが、かといって一冊の単価をあまりに高く設定することもできず、大体2,000〜3,000円に収まります。すると、すべて売れてようやく収入になるという程度のビジネスなのです。このようなニッチなジャンルでヒットは望めないことは最初からわかっていますが、「好き」という情熱だけを燃料に走ってきました。しかしたくさんの書籍を発行してきて、最近は売れるものと売れないものとがようやくはっきりわかるようになり、売れないものを作ってもまさに時間とお金のムダだということを、身をもって感じています。

幸いにもヒットした数冊の本の収入が現在でも継続して入ってくるため、赤字の出版物の分程度は回収できていますが、現在は紙媒体での出版は費用と在庫管理の理由から見送ることが多く、デジタルデータ販売に舵をきりつつあります。

教則本を出版するには、大学の卒論を書くように大量の文献にあたる必要があり、音楽や楽器資料の相当の研究を行ったので自分の成長にはつながってはいますが、それなら単純にコンサートやレクチャーで手早く収入化して、その映像を販売するなどで商品化したほうがよかったのかもしれないと反省しています。
このことから、自費出版は思い込みが強すぎると失敗する、ということを痛感しました。

次回はまとめとして、失敗から立ち直ること、挑戦することについて考えてみたいと思います。
ではまた!

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