「中年の危機」残りの人生も同じように生きる?

人生の折り返し地点で感じた疑問

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。

先日コロナ禍が始まって以来4年ぶりに、「アイリッシュ・カーニバル」という音楽イベントを対面開催しました。このイベントは関西で活躍する中堅クラスのアイルランド音楽演奏家の3バンドが合同で主催するコンサートとワークショップの1日イベントで、とても人気があり毎回チケットが売り切れる盛況ぶりとなっています。

今年も大成功で終えることができ、ようやくコロナ以前の日常が帰ってきたことに感激もひとしおだったのですが、一方で前回の開催から4年という時間が経っていることにも驚きを隠せませんでした。多くの人がコロナ禍の間は時間の密度が薄く、知らない間に歳を取ってしまったと言っています。メンバーの暮らしぶりは相変わらずです。人生に大きな変化が起きた人はいません。打ち上げの席で、私は聞きました。

僕たち人生の折り返し地点じゃない? みんな、このまま同じ場所で、同じ人と付き合いながら、同じ仕事をして生きていくつもりなの?

この質問は、受け取り方によっては失礼に、あるいは突拍子もないように感じるでしょう。「え〜、じゃあ離婚しちゃおうかな?」酒席の場では冗談として流されてしまいました。しかし私は真剣でした。

中年の危機

 私がこの質問を投げかけたのは、コロナ禍が始まってからの数年で身の回りで何人もの知人が、まだ若くして病気で亡くなったからです。若い頃は周りの知人も若く、人が亡くなるという経験をほとんどしてこなかったため、心に大きな衝撃を受けました。

私には、まだまだやりたいことがたくさんあります。叶えていない夢も、見たかった世界も、体験してみたいこともあります。彼らもそうだったのでしょう。そんな彼らの死を自分に重ねて考えていました。

私は、「今このままの人生の延長に満足はあるのか?」と考えています。少し、自分の人生に退屈を感じているのかもしれません。

このような人生への不安感は「中年の危機」と称されています。一般的に中年は、仕事を通じて社会で活躍するキャリアの最盛期。「中年の危機」は結婚から子育てまでのライフイベントが落ち着き、住宅の購入も終えて、老後の人生を見据えて人生を再定義するライフステージに感じがちな心理状態だと言われています。私にも思春期があったように、中年の危機も、定められた通りに訪れているのだと思うと、なんだか人生が型枠にはめられたようで悔しくもあり、また一方で誰もが感じることなのだと安心してもいます。

二度の人生」を生きる現代人

医療の進歩で健康寿命は伸びており、労働人口の減少に伴って政府は「人生100年時代」や「高齢者が働きやすい社会を」と声高に叫んでいます。年金受給開始年齢のゴールポストもどんどん後ろにずらされそうな昨今、私たち氷河期世代から下はきっと70歳、80歳まで働くのが当たり前になるのでしょう。

よく言われていることですが、昭和の時代は一つのキャリアを定めたら、その方向で職業人としての人生を終えるのが当たり前でした。終身雇用が強く、また自営業者や経営者であっても同じことをずっとし続けていればよかったのです。しかし、今時代の変化は目まぐるしく、技術革新で産業がまるごと消滅することも珍しくありません。IT革新やLCC(格安飛行機)による旅行産業の衰退がそうですし、これからはEV化によるエンジン産業の衰退が囁かれています。

トヨタなど大手企業ですらも終身雇用制度を維持するのが困難であると言っており、転職は当たり前になってきました。政府は、中年のリスキリングを支援すると発表し、中年の活用に力を入れています。

今から10年前に、ブロガーのちきりんさんは『未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる』において「40歳で第二の仕事人生を生きる」ことを予言されていました。

私が感じた疑問は、「中年の危機」というライフステージから来る不安感だけでなく、現代日本の中年が感じている社会的な不安なのではないでしょうか。

私の仕事人生

私は20歳前後で音楽に目覚めて、今まで25年間、ずっと音楽をし続けてきました。そう書くと楽器演奏だけを続けてきたように聞こえますが、本を書いたり、楽器店を経営したり、起業家的精神を持って音楽の分野で思いつく限りの仕事をしてキャリアを築いてきました。

今ではコンサート、レッスン、楽器店経営を柱に、さまざまな方法で収入を得ています。この連載もそうですし、最近では投資信託や不動産の家賃やYouTubeでの活動やPatreonでの支援によっても収入を得ています。今後もそういった小さな稼ぎぐちは増やしていくつもりです。例えばゲストハウス経営や食品の販売など…。いくつもの稼ぎ方を組み合わせて、何か一つがダメになっても困らないようにしてきました。

現在は独身で、家も購入し(それも中古物件を4軒も! 今さらにもう1軒買おうとしています)、今後大きな出費の予定はありません。健康に問題がなければずっと働き続けるつもりですし、突発的なアクシデントが無ければ老後資金も問題ないはずです。

音楽面でも充実しており、突然ブレイクしてコンサートチケットが売り切れることはこれからもないとは思いますが、よい共演者と、いつも私を支えてくれるファンの皆さんがいるおかげでコンサートを続けていっています。

つまり、欲しいモノも欲しかったライフスタイルも手に入れて、経済面も健康面においても問題も不安もないはずなのに、お金も実力もなく理想に燃えていた20代の頃のほうが楽しかったように思えるのです。

キャリアの終着点を見据える

 先日、20代の頃に師事していた笛の先生から大変久しぶりに連絡があり、やりとりをしました。その中で、先生は今ほとんど笛を演奏していないと聞いて驚きました。若い頃あれほど実力と自信があり、自分の音楽に確固たる信念があった先生が、笛をほとんど辞めたのを残念に思う一方、生き方が柔軟でもあるなと感心した次第です。

20年間その仕事を続けたからといって、残りの人生もやり続けなくてはいけない決まりはありません。

中年になるとたいていの仕事は一人で効率良くクオリティ高くできるようになっているはずです。

同時に自分の能力や成長の限界も見えていることでしょう。多くの人はそれでも、家庭や、住宅ローンのために簡単には環境を変えることはできません。

中年は3人に1人が独身、それも今後はさらに増えると言われている今、独身である私がコンフォートゾーンを離れて新しい世界に挑戦することは、キャリアを考える上でも、また人生の満足度を高める意味においても、考えてみるべきことだと私は考え始めています。

 

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