小売店の苦悩 ― モノを扱うってこんなに大変!

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。

前回始めた「シリーズ限界集落で暮らす」は気ままに更新していきますので、お楽しみに。

私はBrewでは経営者としてビジネスの話をメインに書いていますので、今回はモノを扱う商売の大変さについて書いてみたいと思います。

弊社「ケルトの笛屋さん」は日本では珍しい、いわゆる「ケルト音楽」と呼ばれるヨーロッパの伝統音楽の楽器店です。私が笛奏者なので最初は笛のみを扱っていましたが、5年前に実店舗を開いてからは商品ジャンルを増やして、弦楽器、アコーディオン、打楽器、書籍にCDと取り扱い商品を拡充してきました。現在の取り扱い商品点数は1000点に満たない程度です。1軒のコンビニの取り扱い点数が2500点程度だそうですので、まだそれほど多くはないのかもしれません。それでも私たち4人のスタッフを忙しくさせるには充分すぎるほどです。

今回はモノを扱う商売「あるあるネタ」として、私たち小売業の苦悩を少しでも感じていただければ幸いです。

悩み1 増え続ける物量とストックスペースの確保

自宅で起業した弊社、最初は押入れに収まる程度の商品数でしたが、その量は年々増えています。現在は専用の倉庫を持たず、店舗の奥のスペースや自宅のひと部屋を使ってスチールラックを導入して倉庫としています。管楽器は省スペースで良いのですが、かさばるのは弦楽器やパーカッション。そして書籍やパンフレットも地味ながら大きなスペースを占めています。今の在庫スペースには限界が見えており、いずれは外部の倉庫を借りなくてはいけないかもしれません。しかしそのハードルは高く、スタッフが車を運転する必要があったり、温湿度管理やセキュリティがきちんとしていたりと条件を挙げると、費用面でも難しいと考えています。

 悩み2 品質管理 

モノを扱うと必ず伴うのが品質管理です。入荷時と出荷前の検品はもちろん、保管時も音湿度管理や日射に気をつけて劣化しないように気を遣います。また店頭に陳列している商品はホコリや汚れを払ったり、チューニングしたり、常にベストな状態にしておかなければいけません。それでも時間の経過とともに状態が変わって不具合が出ることがあるので、部品を交換したり修理に出したりととにかく手がかかります。一つの不具合に対応するのに何時間も作業したり、何日もかかったり、ということもよくあります。

 悩み3 在庫の分散

弊社は2つの店舗と2箇所の在庫置き場があり、それぞれの場所に何があるのかを在庫表で管理しています。入荷した商品は転送が必要になりますし、それが大量の場合は私が自動車を運転して関西と関東を行き来することも年に2回くらいあります。基本的には同じ商品を2つの店舗どちらでも陳列しており、それは商品点数が増える原因にもなっています。希少な商品はお客様の要望があれば店舗間で転送しあっています。こういった管理コストは決して少なくありません。理想的には大きなバックヤードがある店舗を一つだけ持つことですが、弊社では2つの都市に店舗を持つメリットを重視しました。

 悩み4 モデルチェンジへの対応

 商品が更新された時に、旧式モデルとの切り替えが必要となります。古い商品は早く売り切って新しい商品に一本化したいため、時にはバーゲンで売り切ることがあります。モデルが変わると仕様の変更をスタッフに周知し仕様の違いをお客様に説明できるようにしなくてはならないなど手間も増えます。

悩み5 価格変更への対応

 メーカー側の値上げや為替相場、コスト変動などで価格は常に変化しています。同じ商品であっても入荷時期が異なると原価が異なるため、新入荷商品の価格を変更する時は全店舗の在庫商品を一度に変更しなくてはいけません。また、関連するヴァリエーション商品(色違い、サイズ違い、デザイン違いなど)も忘れずに変更しなくては、同じ商品なのに価格差が生まれてしまい現場やお客様の混乱の元となります。

悩み6 ストックのコスト

在庫はただ置いているだけではありません。商品に快適なスペースを確保し、適切に品質管理を行うにはコストがかかります。やみくもに在庫量を増やすとそのコストが経営資源(金銭面のほかにスタッフの時間や労力)を圧迫して、サービスに悪影響を及ぼす恐れがあります。同じ機能のヴァリエーション商品をたくさんストックすると、それぞれが品切れにならないようにするため仕入れの手間も増えます。選択肢が多いと店舗は賑やかになりますが、お客様を迷わせる原因にもなるため厳選するべきです。

 悩み6 不良在庫の処分

売れずに残っているストックは、上記のコストを食い続けるため損切りが必要です。劣化して販売できなくなる前に処分しなくてはなりません。販売できるものならまだ良いのですが、もう販売時期を過ぎてしまったものの処分には、さらに費用や労力といったコストが必要になります。仮に販売できたとしても、それは自社で「本当に売りたい商品」を売るチャンスを逃してまで不要な商品を販売したということになるのですから、実際は損をしています。

 悩み7 棚卸し

会計期末には必ず在庫の棚卸しをして、在庫高を報告しなくてはいけません。この棚卸しは商品ひとつひとつを数えながら在庫表と数字を合わせるという地道な作業で、とても時間がかかります。数は多くても少なくてもいけません。合わなかった場合は、いつどんな原因で合わなくなったのか遡って調査をしなくてはいけないので、合っていますように……と祈るような気持ちで数えます。弊社はそれぞれの店舗と倉庫の棚卸しを年に2回ほど行っていますが、1日がかりの作業です。他店、例えば文房具店では鉛筆1本単位で数を数えなくてはいけないので、アルバイトさん全員集合で人海戦術で当たるそうです。

 悩み8 梱包と発送

ここは通販担当の店長の声を紹介します。
「弊社ではインターネットでの販売も行っており、それはすなわち商品を梱包して送ることを意味しています。特に楽器は形状にばらつきが多く、ほとんどがかなり繊細です。それに適した梱包材・緩衝材を用意することが必須ですが、楽器の種類が増えると、梱包材の種類も増えます。さらに特殊な梱包材は大量発注しないと作ってもらえなかったり、単価が高すぎたりすることがあり、いつも大量の資材を管理することになります。また、配送上のトラブルもたまに発生しますし(同じ号室だけど隣のアパートに届いていたとか)、配送料の値上げは笛屋さんのように送料込み価格で販売している場合は結構大きな問題になります。そして発送がある限り、その在庫管理場所を、やすやすとは離れるわけにはいかない、という大きな制約があります。もしもデジタル商品だけを売っていたり、注文した商品を在庫を管理している代理会社に発送依頼するだけならどれだけ楽か、などと何度も考えました。」

 悩み9 お客様からのトラブル相談や質問への対応

商売をしているのであれば不満を言ってはいけないのですが、商品に対する質問やトラブル相談などのアフターサービスも確実にコストとなります。理想的には誰にとっても説明不要なくらい商品紹介をわかりやすく充実させ、またアフターサービスが必要ないくらい確実な商品を売るのが良いのですが、商品点数が多いとそうも言っていられません。弊社では毎日、さまざまな連絡手段で多くのお問い合わせをいただいており、4人のスタッフ全員で多くの時間を割いています。

 

起業するなら在庫や設備を持たないビジネスが良いか


このようにモノを売る商売、特に商材が自分が好きなモノであれば楽しいと思われるかもしれませんが、実際にはさまざまな苦労が伴います。しかし小売業は苦労させられるばかりでなく成長できる面もあります。例えば整理整頓が上手でないと在庫が把握できませんし、作業効率や動線を考えて上手に収納するコツも身につきます。

そんな苦労の多い小売業ですが、弊社の扱う楽器という商品はまだノンビリ経営できるほうです。流行があるファッション、命を預かるペットショップや園芸店、消費期限のある食品などはもっとシビアな在庫管理が求められるでしょう。楽器、中でも流行に左右されない伝統楽器は、「いつかは必ず売れる」ロングテール商材だと思っています。実際に弊社に10年以上売れ残っている商品はありません。

ところで先日税理士さんに決算をお願いした際に、弊社のような零細企業でも50万円弱の税理士費用をお支払いしました。もちろんその仕事ぶりに満足しているので金額には納得しているのですが、在庫を持たない税理士さんって効率の良い商売だなと思いました。在庫を持たなくても設備が必要な商売もあります。例えば医療、美容、職人などが思い付きます。そういった意味で運営コストが少なくて良さそうな商売は弁護士、弁理士などの士業、文筆家や調理師や設計士などでしょうか。もちろん、私が兼業している音楽家も楽器ひとつでレッスンもコンサートもできますので、身軽です。

これから起業を考えている方は、小売業の見えない在庫コストのことも考えて、慎重に分野を選ばれることをお勧めします!

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