初夏、静かな丹沢においでーな【鍋割山稜】

ここ数年、梅雨明けを待たずに猛暑日になる傾向があります。まだ6月なのに熱帯夜これ如何に?クーラーをつけながら寝ることに非常に抵抗感を感じる貧乏性の山笑ですが、たまらずクーラーをかけて寝て、翌日体調不良(クーラー病)で出勤する日も多々。

山の世界では、この季節、低山では暑くて仕方ないことと、富士山や日本アルプスなど憧れの高山に雪山装備なしで登れることから、高高低低の傾向にあります。我が愛する丹沢は低山の域にあることから、比較的(あくまで比較的ですが)人の少ない山を楽しむことができます。

今回は、そんな初夏の丹沢の風景を鍋割山を例にご紹介しましょう。これがアップされる頃は夏真っ盛りかもしれませんが(笑)

表丹沢人気者 鍋割山

鍋割山は「表丹沢」と呼ばれる丹沢の南面に位置する山です。しかし、山麓の秦野市より表丹沢を見上げた時、鍋割山がここだと指させる人はそう多くないと思います。塔ノ岳を中央に両翼のように東西に尾根を延ばす表丹沢のうち、左翼に延びる鍋割山稜の西端に位置する極めて地味な存在なのです。(2022.12秦野丘陵より)

鍋割山の標高は1273mと低山に毛の生えたくらいですが、登山口の秦野市表丹沢県民の森が標高450m余で標高差が800m以上あることを考えるとそれなりの体力が必要となります。

この見た目地味~な鍋割山ですが、山の界隈では結構人気があり、多くのハイカーが訪れる山として知られています。その理由は、山頂の鍋割山荘で食べられる山グルメ鍋焼きうどんです。山荘のストーブで調理された小さな土鍋にぐつぐつと美味しい音をたてる鍋焼きうどん。想像しただけで山頂を目指してみたくなりませんか?今はそうでもないか(笑)(2019.1鍋焼きうどん)

さて、鍋割山へのアクセスですが、酒匂川の支流のひとつ四十八瀬川上流に位置する表丹沢県民の森から歩くのが便利です。但し、公共交通の便が悪いところなので、表丹沢の登山ベースとなる大倉から塔ノ岳とセットで歩く人も多いようです。また、松田町寄(やどりき)から南稜や寄沢沿いを経由するルートもありますが、こちらは距離もありややハードです。

表丹沢県民の森から鍋割山へ

ダッコロで県民の森へ。自宅から30分余、このくらいの距離が小型バイクにはちょうど良い具合です。県民の森の駐車場は5、6台程度なので、早めに行かないと林道に縦列駐車することになりますが、Daxであれば駐車場所の心配は要りません。

四十八瀬川右岸の林道を少し歩くと勘七橋で左岸に渡り大倉方面から延びる西山林道と出合います。四十八瀬川が勘七沢と本沢に分かれる二俣。この付近にはヤマビーことヤマビルが出没するので要注意です。ヤマビルは林道から外れたり道端の落ち葉が堆積するやや湿った場所を好みますので、道の真ん中を堂々と「このはし渡るべからず」です。あ、でも雨が降ったらわからんよ(笑)

西山林道の終点には、鍋割山荘の水場があります。調理に使用する水を入れたペットボトルが置いてあるので、余力のある登山者はこれをボランティアで山頂に担ぎ上げるのです。若い頃は、空の大きいザックを背負って行って、某D五郎ボトル2本と2リットルのペットボトルを更に2本…なんて体力づくりの歩荷訓練をやっていました。

沢沿いから離れて後沢乗越で鍋割山の南稜に乗ります。後沢乗越は標高800m。ここから1273mの山頂に向かって急登となります。九十九折の道は良いのですが、正面に階段状の直登が立ちはだかるとげんなりします。

南稜の西側は薄暗い植林帯、この中津川上流(寄沢)の一帯は、100年ほど前から林業によるスギやヒノキの植林が行われてきましたが、平成の世になって水源林の保全のためナショナルトラスト運動が行われ、現在まで森林の保全が行われてきました。所々、水源林に入る作業道の入口が散見されますが、これらは迂闊に入り込むと道迷いの原因にもなりますので要注意です。(ゴジュウカラの親子)

南稜の尾根上にはアカマツが目立っていますが、標高が900mを超えるとブナが目立ってきます。

尾根道の先にそそり立つピーク。そのピーク山頂と信じて乗り越してみると、稜線は更に続いていて山頂ははるか先に…orz「ニセピーク」は山の世界ではあるあるですが、鍋割山の山頂もそんな感じです。もう何十回も登っているので、よそ様の嘆きの声を聞きながらニヤニヤしながら歩くワタクシです(笑)

登山道の両側に馬酔木の繁茂する階段を上がっていくと鍋割山の山頂です。前述のとおり、山頂の鍋割山荘が提供する鍋焼きうどんが有名で、担ぎ上げる水ももっぱらこの調理用に使用されるものです。山荘が宿泊を廃止して以来、鍋焼きうどんを提供するお昼のみの営業になっているので、もっぱら朝方に通過するワタクシは縁遠い存在になってしまいました。

鍋割山の山頂は東と西側が開けて、西側には西丹の山並みの先に富士山を望みます。片や東側は秦野盆地、大磯渋沢丘陵、その先に湘南の海岸線を望みます。これら風景を眺めながらの鍋焼きうどんは最高に美味しいんです。ちなみに自分がよく食べていた頃は一杯900円だったのが今では1,500円に値上がりました。まあ、山上価格ということで許容範囲です(笑)

鍋割山稜を歩いて塔ノ岳へ

さて、小休止の後、塔ノ岳を目指して鍋割山稜を歩きます。鍋割山稜は塔ノ岳を中心とする表丹沢の左翼。鍋割山から小丸、大丸の小ピークを経て塔ノ岳直下で大倉尾根に出合います。適度なアップダウンを越えながら徐々に近づく塔ノ岳。北を流れる玄倉川の渓谷を挟んだ対岸に丹沢の最高峰蛭ヶ岳など丹沢主稜線と向き合います。

南面は所々開けて、相模湾が広がり、湾を囲うように迫り出す東の三浦、房総半島と西の真鶴、伊豆半島。水平線に浮かぶ伊豆大島など伊豆七島。実に爽快な景色なのです。

また、展望だけでなく、稜線に群生するブナやカエデの大樹も見事です。

春は新緑が芽吹き、ツツジやウツギの花が咲きます。聞こえてくるのはエゾハルゼミの鳴き声…夏は葉を茂らせ日除けになり、秋は紅葉して稜線を飾ります。冬場は葉を落として陽だまりをつくり、寒風を遮ります。木々の優しさを感じる一方で、夕方歩くと鬱蒼と枝葉を広げる林は逢魔が森のような恐怖感も感じます。

(エゾハルゼミの羽化)

表丹沢を歩く際、ワタクシ的には鍋割山稜を歩くのが目的なので、塔ノ岳や鍋割山の山頂は1通過点でしかないのです。従って、鍋割山稜に南から直登する小丸尾根や丸萱尾根などのルートを選択することもあります。組み合わせが多々あって楽しめる鍋割山稜です。

大倉尾根に出合うと上り下りのハイカーの往来が著しく多くなります。駅やデパートのエスカ―のように前後に挟まれ、対向者に道を譲りながら、ちょっとイライラを感じた頃、塔ノ岳の山頂に至ります。この日はあいにく雲がかかってしまいましたが、晴天に恵まれれば、西側に玄倉川の河原を見下ろし、それに沿って連なる鍋割山稜、更に富士山を望むことができるでしょう。皆さんも訪れた際はチェックしてみてください。(2018.10塔ノ岳山頂)

今回もご笑覧いただきまして、ありがとうございました。

□ ANOTHER STORY

Fumiyoshi

DAISUKE OGAWA|小川 大介

MASAKO TAKANO

SHINGO KURONO