9月下旬、金峰山御岳登拝道を歩くも、核心部の手前でタイムアウトになり引き返すこととなったため、その翌週、熱冷めやらぬうちにリトライすることにしました。(前回はこちら⇒金峰山御岳古道【前編】 | BREW)
とはいえ、前回と同じ黒平(くろべら)から同じ道を歩くのも芸がないので、地図を見まわしていると…川上牧丘林道が奥秩父の稜線を乗越す大弛峠の手前、アコウ平(アコウの土場)から荒川(富士川水系)の御堂沢を経由して、前回引き返した御室小屋の跡まで通じるショートカットがあるようです。
払暁のズベノー作戦開始!
甲府盆地の先に富士山を望む道の駅まきおか(牧丘)からズベノー作戦(ズベノーについてはこちら⇒小型バイクで、ワタクシ的 ”ズベノー計画” 始動! | BREW)を開始します。先ずは、道の駅近くの牧丘町杣口から奥秩父の南麓を東西に横断するクリスタルラインを走り、乙女湖こと琴川ダム湖の畔、柳平へ向かいます。くねくねとしたワインディングロードをDaxはぺけぺけと快走します。
【柳平の姥の栃】
奥秩父の山懐に乙女湖をたたえる琴川ダム。標高約1500mに位置し、国内では最も標高が高い場所にある多目的ダムだそうです。その乙女湖を見下ろす柳平。戦後、大陸から命からがら引揚げてきた満蒙開拓団の人たちがこの地に入植したそうです。山間の厳しい気候の下、血と汗と涙で切り拓いた開拓地の大半はダム湖の底に沈みましたが、今も数個の民家が点在し、山の営みが続いています。柳平から更に川上牧丘林道に入ります。川上牧丘林道は、長野県川上村と山梨市牧丘町を結ぶ林道で、前述のとおり、奥秩父の最高所を乗越す大山岳線です。県境の大弛峠は標高が2365mあり、現在マイカーが通行できる最高地点です。峠の6kmほど手前に位置するアコウ平にやって来ました。路肩のスペースに駐車したら早々に荒川の源流に下る踏み跡を辿ります。ちなみに奥秩父の荒川といえば、大弛峠から東に位置する甲武信ヶ岳から関東平野に流れ下る荒川をイメージされる方が多いと思いますが、こちらは大弛峠付近に端を発し、奧秩父を南に流れ下り、釜無川に出合う富士川水系の河川です。少しくだると水平道に出合いますが…ん?何やら線路のようなものが。水平道には、明らかに森林鉄道の線路が続いていました。東隣りの西沢渓谷には、かつて山で伐り出されていた木材を搬出していた森林鉄道の軌道跡が残っていますが、こちらにもあって不思議ではありません。知られていないのは、民有林だったのか、それとも林鉄ではなく、水晶を採掘していた鉱山のものなのか…水平道をしばらく歩いて、シャクナゲが繁茂する杣道を下ると荒川と御堂川の合流点に至りました。当然橋は架かっていないので、岩や浅瀬を探して渡渉します。岩がゴロゴロと堆積した御堂川の涸れ沢を遡行していくと、前回黒平方面から歩いた御岳古道に出合いました。更に進んでいくと御室小屋の跡地です。前回気づかなかったのですが、小屋裏に登拝道の名残らしい石段が残っていました。ようやくここからが御岳道後編です(笑)
御岳道の核心部
御堂小屋跡地の裏手からシャクナゲの繁茂する急登を辿ります。巨大な一枚岩を鎖を頼りに乗り越すと、金峰山山頂の五丈石、尾根上には弁慶片手回し岩も見えます。かなりの急登ですが、垂直壁でない限り、脚には自信があります(笑)尾根伝いを急登します。コメツガやシラビソの針葉樹林の中、巨岩が点在しますが、そもそもこの奥秩父西部の一帯が花崗岩で形成されているのでしょう。岩の周辺にはアズマシャクナゲが賑やかです。シャクナゲの花が咲く初夏の頃に歩いてみたい道です。【ルリビタキのメス】
予想通りの登り一偏の急登ですが、岩稜には巻き道がついていて岩を攀じることはありませんし、要所要所に鉄梯子やロープなども設置されていて、マイナールートにしては整備が行き届いています。山麓の御岳林道が整備されれば、人気のルートになるでしょう。(R6.10.18に林道整備が終わって一般解放されたそうです)ほら、気が付いたら弁慶片手回し岩を見上げていました。
森林限界を抜けると明るくなって、高山帯らしい露出した岩とハイマツ帯になります。その中に成長しきれない低木のダケカンバやシャクナゲが点在して、山上庭園の趣です。西側のケイオウ谷向かいの八幡尾根が近づいてくると、山頂の五丈石は目の前です。ちなみにこの八幡尾根上にもいにしえの登拝道が通じています。背後から異様な存在感が感じられます。振り返ると…チミチミ、私だよ▲
金峰山の山頂にて
御室小屋跡から2時間ほど、金峰山山頂の五丈石の真下に到達しました。五丈石の南面には石垣が見られますが、かつて存在した金櫻神社本殿の名残です。付近には登拝者を迎える宿坊もあったそうです。既に多くの人が五丈石の周辺に腰を下ろして、遥か甲府盆地の向かいにそびえる芙蓉峰(富士山)を眺めていましたが、ハイマツ帯の中から出現したオッさんに怪訝な視線を向けていました。決して怪しいものでは…ありますね(笑)金峰山の山頂(2599m)は五丈石の北側に位置しています。この日はどんよりとした空模様でしたが、見通しはまあまあ良好で、周囲は360度の大展望が広がりました。西には八ヶ岳や南アルプスが見えるはずですが、それらの高山は雲隠れでした。その手前には、奥秩父の西端に位置する花崗岩が特徴的な瑞牆山や信州峠方面はよく見えていました。【西側の稜線の先に花崗岩が林立する瑞牆山】
北には鬱蒼とした太古の森を擁する小川山。その山裾には花崗岩が林立しています。屋根岩といわれるこの岩峰はロッククライミングのゲレンデとしてクライマーを魅了しています。更に遥か遠方の雲海に西上州の山々が浮かんでいました。【左手に小川山とクライマーゲレンデ屋根岩。遥か遠方に西上州の山々】
奧秩父の屋根を歩いて大弛峠へ
下山は奥秩父の稜線を歩いて大弛峠に向かいます。この区間は、標高の高い大弛峠の登山口までマイカーでアクセスできるため、多くのハイカーが歩いています。中にはスニーカーにジーパン姿のカジュアルな若者や小さな子を連れた親子連れの姿もありました。
しかし、鉄山、朝日岳とアップダウンがあるので、それなりに体力を必要としますし、特に夏場の奥秩父は毎日午後は雷雨に見舞われます。無計画な登山は避けたいものです。奥秩父らしいコメツガやシラビソの森を歩いていくと、甘ったるい匂いがしてきます。この匂いは「フィットンチッド」と呼ばれる針葉樹が発する特有の抗菌物質です。動くことのできない樹木が細菌の侵入を防ぐための自衛本能なんだそうです。その一方で突如出現する枯れ木の群れ。これは縞枯れ現象といわれ、遠くから見ると黒い針葉樹の森の中に白く線状に涸れている様子が縞状であることに由来し、北八ヶ岳など針葉樹林でよく見られますが、木々の世代交代といわれています。やがて峠を越える車やバイクのエンジン音が近づくと川上牧丘林道が稜線を越える大弛峠に至ります。例のごとく駐車場は満車状態でした。最後はアコウ平まで6kmの舗装路歩きです。ここを歩く人はほとんどいないので、車窓からは麓まで歩くように見えたでしょうか。誰一人「乗っていきませんか?」なんて声をかけてくれませんでしたが(笑)【ストロー状の口でアザミの蜜を吸うホウジャク】
【道端の枯葉の中に餌を探すアナグマ】
【毒入り危険食べたら…ベニテングダケ】
アコウ平からDaxで牧丘町に下山しましたが、杣口の金峰山里宮、杣口金櫻神社に立ち寄りました。新築の木の香りが残る本殿は、今年8月に建替えが終わったばかりだそうです。若い神職が出迎えてくれて、御岳古道を歩いてきたことを話すとたいそう喜んでくれて、金峰山信仰の話を色々とご教授いただき、本殿でお祓いをしていただきました。
今回もご笑覧いただきまして、ありがとうございました。