ブックカフェ
新刊書店の利益はとても薄いので、そこを何とかカバーするために、利益率の高いカフェを併設する店が増えています。ブックカフェというのは、本屋でありつつ店内で飲食物を提供して、売り物の本を試し読みしながら飲み物を飲んだり、食べ物を食べたりできるお店のことです。
そこで問題になっているのが、本を汚してしまった場合どうするかということです。飲んだり食べたりしながら本を読めば、当然その飲み物なりを本の上にこぼしてしまうような事故が起こりうるわけです。そこまで行かなくても、食べ物で汚れた手でページをめくれば、跡が紙の上についてしまいます。
新刊書店の本は返品できる
新刊書店に並んでいる本は実質的には出版社の在庫を書店が場所を貸して置いているようなものです。契約の上では一度書店が買い取って、売れ残りについてはある期限で返品すればもとの値で買い戻してもらえるということになっていますが、それは会計上の方便です。一部の出版社などは「買い切り」制度になっていて、原則的に返品を受けつけないということもあるようですが、岩波書店など例外的な出版社や、特別な本に限られています。
新刊書店の本は出版社に返品することができます。さすがにひどく汚れたり濡れたりした本は破損品ですから返品を受け付けないでしょうけれど、少し油が染みた程度の本は受け入れるのではないでしょうか。というのは、書店の店頭に並べる以上、ある程度の割合で傷んでしまうのは初めからコストとして計算されているからです。
もし新品として販売するのにたえない状態の本を返品してしまうと、本を使って集客しつつ飲食で利益を上げ、その本の消耗は出版社に負担させることになります。その点には一部から批判の声が上がっています。出版社は多くの場合小規模で力が弱いので、単独の出版社が批判の声を上げることは少ないのですが、ブックカフェでの消耗分もコストとして計算されているとすれば、本の定価に影響があり、最終的には一般の書店や消費者がその分を負担していることになります。
故意なら別ですが、過失による食器の破損などについて弁償を求める飲食店は少ないと思います。ブックカフェに置いてある本も同様に、よほどの過失でない限り、お客様の責任を問うことは難しいでしょう。大半の例でお店側が負担することになります。そのうち幾分かは返品によって出版社に戻されてから、再出荷不可の品物になるのではないでしょうか。
このような事態について、出版流通関係者だけでなく読者側からも「食べものの油がついた手で読まれた本を新品として買いたくない」などの批判が出ています。
古本屋に置いてある本は、すべて店主の所有物である
ところが、古書店ではすべての本が返品先のない店主の所有物です。古本屋に置いてある本は、すべて店主の所有物です。そこが新刊書店と決定的に違うところです。そのうえ、古本屋で店番しているのは、たいてい店主かその身内です。
友だちの家に行って、その本棚を見せてもらっているのと同じです。たとえ自由に触っていいよと許可されても、雑な扱いをすればその友だちが嫌な気持ちになります。ひどければ嫌われてしまいます。古本屋でも、同じようにふるまえば、店主との友情にひびが入ります。
しかも古書店に置いてある本は基本的に一点物です。新刊書のように、売れたらまた同じものを仕入れれば良いのとは違い、売れてしまったら同じ本をいつ仕入れられるかわかりません。いつか仕入れられたとしても、状態も経年も違う似て非なる本です。
古書店に行って本をベタベタ触っていると嫌な顔をされることがありますが、すべてが店主所有の貴重な一冊だとすれば、故なしとは言えないでしょう。その本は、店主が数年にわたって探し求めて,やっと巡り会えた一冊かもしれないのです。
本が置いてある酒場
古本屋にもブックカフェ風の店があります。本の売場の中にちょっと飲み物が提供されるスペースがあるような店もありますが、売り物の古本が置いてある酒場のようなお店もあります。本屋と言うよりはどちらかといえば居酒屋ですが、古本の買い取りや販売もしているようなお店です。
新刊書店でも、収益の大部分が本以外の所にある店は多いかもしれませんが、古本屋の場合は利益率が高いので、ちゃんと売れればそれなりの収益があるはずで、もし収益面でも書店の方が従になっているとすれば、経営資源の多くが飲食にまわっていると考えられます。
古本屋であれば本は全部その店の店主の所有物ですから、汚してしまったり破損してしまった場合は、店主とお客様の間で解決することになります。古書は本によって価値が大きく違います。古い文学書の初版本などは非常に高額だったりしますし、良くある本ならほとんど価値がないこともあります。というより、普通の本はたいてい古書としての価値はありません。読み物の本であれば売値にして数百円程度がほとんどです。
店主は本の価値がわかっていますから、高額の文学書を簡単に触れるところに置くことはないでしょう。汚れてしまっても解決できるような本を選んであるはずです。その上で必要な場合に、ショーケースなどから取り出して見せるようにしているのが一般的です。ブックカフェ形式の店では、むしろ普通の書店よりお店のスタッフとお客様のコミュニケーションが密ですから、高額書の破損リスクなども回避しやすいかもしれません。
新刊書店では、本の破損が出版流通会全体に影響をおよぼす懸念がありますが、古書店ではその店だけで完結します。単純ですが店主との人間関係への影響は大きくなりますから、本の扱いはくれぐれもていねいにお願いします。