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東京吉祥寺で古書店「よみた屋」を営んでいます。

本の「姿」で中身を分類する

本屋は判型によって本を仕分けします。

古本屋は判型によって本を仕分けします。四六判や菊判などの判型(大きさ)を分けることでで、シリーズものの「泣き別れ」を防ぐだけではなく、内容による分類もおおよそできます。小説のほとんどはB6判や四六判で、専門的学術書の多くがA5判で出版されています。

我われは、本を見た瞬間に「これは小説、これは学術書、実用書、美術書」のように分けますが、初めての人にはこれができない。どうやって見分けるのかと質問されても、説明しにくい。「慣れればわかるようになるよ」ということになりかねません。いつも本を扱っている身からするとあまりにも当たり前すぎて、かえって説明しづらく感じますが、それだとスタッフの教育もできないので、がんばって何とか言語化しています。

本を分類するときに、一番重要なのはその本がどういう読者を対象としているかです。専門家向きなのか、一般向きなのか、子どもを想定しているのか、あるいは主婦や特定の職業の人を対象としている本もあります。それはほとんどの場合、本の外形から判断できます。

見た目には色や形などいろいろな要素がありますが、まず最初は大きさです。

見た目には色や形などいろいろな要素がありますが、まず最初は大きさです。

日本の本はほとんどが規格にそっていて、小さい方からA6判、B6判、A5判、B5判、A4判のどれかか、近い大きさと形をしています。どれも長辺と短辺の比が√2対1の長方形で、半分にしても形が変わりません。Aというのはもとの紙の大きさで、数字はその紙を半分にした回数を表します。たとえばA4判というのは、A判全紙を4回半分にした(16分の1)大きさという意味です。例外は新書判で、文庫ぐらいの幅にB6ぐらいの高さになっています。

A6判というのは文庫のサイズです。文庫本の多くは小説、エッセイ、ノンフィクションなどの文学か軽めの読み物です。学術書的な文庫は、講談社学術文庫、ちくま学芸文庫、角川ソフィア文庫など、特別なレーベルになっています。岩波文庫は例外的に全体が学術的な内容の文庫です。カバーの背に帯状の色が付いていて、その色で内容を分類しています。青は学術、白は社会科学、赤は外国文学、緑は日本近代文学、黄色は日本古典文学になっています。同じ色の中でも更に細かく分類があり、番号で区別できるようになっています。

文庫判と新書判の単行本は少なく、ほとんどがレーベルによる叢書になっています。新書のレーベルには○○ノベルズのような小説と、××新書のようなノンフィクションのものがあります。小説は軽い娯楽的なものが多く、ノンフィクションも専門家を対象にしたものではなく、一般向きのものも高校生ぐらいの知識を前提としていることが多いです。岩波ジュニア新書、ちくまプリマーブックスなどは小学校高学年か中学生ぐらいから読めるようになっています。

 

文庫本の倍の大きさがA5判で、雑誌『文藝春秋』や文芸雑誌の大きさです。

文庫本の倍の大きさがA5判で、雑誌『文藝春秋』や文芸雑誌の大きさです。この大きさの単行本は専門的な内容のものか、写真やイラストを多用した本が多いです。専門的な内容の本は専門家や、その分野についてかなり知識のある人を対象としています。小説など文字中心の娯楽の本でA5判なのはあまりなく、文学全集を除くと例外的です。なのでA5判の本ならちょっとハイレベルな本だなと判断することができます。A5判の中でも表紙のやわらかいソフトカバーの本は、教科書や学習書、あるいは資料集などが多いです。

文庫判(A6判)とA5判の中間のサイズがB6判で、小説の単行本はほとんどがこのサイズです。エンターテインメントから文芸まで、たいていの小説はこのサイズです。エッセイやルポルタージュなどもB6判が一般的です。比較的短い学術書もB6判で作られることがあります。B6判の本はたいへん多いのですが、軽い読み物からある程度専門的な内容のものまで多岐にわたります。講談社選書メチエ、新潮選書、角川選書といった叢書もB6判です。学術的な内容が中心ですが、専門家でない人を対象にした啓蒙書といった位置づけです。法政大学出版の「叢書ウニベルシタス」はB6判ハードカバーですが人文思想系の学術翻訳物のシリーズです。ハードカバーというのは硬い表紙が付いている本です。

ここで一言ことわっておきます。実は同じような大きさの本を、出版社によってB6判と表示していたり四六判と表示していたりします。精密には違う規格ですが、本は裁断して作るので、実際の本は厳密にはどちらとも違ったサイズになっています。硬い表紙が付いている本は表紙の方が本体より大きいですし、背を丸くするために小口側も曲線になっています。そのため、ソフトカバーの本より若干大きめになることが多いです。当店では区別せずにどちらも四六判と言っています。同様にA5判には菊判が対応します。B6、A5などの呼称は混乱しやすいのでこちらの言葉を使っています。

 

B6判の倍のB5判は週刊誌の大きさです。美術書や建築関連の本などヴィジュアル的要素が強いものが多くなります。

B6判の倍のB5判は週刊誌の大きさです。美術書や建築関連の本などヴィジュアル的要素が強いものが多くなります。手芸や料理の実用書も図版が多いので、この大きさが多用されます。理工書や医学書などでは文字中心でもB5判のものがあります。また、問題集など、書き込む要素のあるものにもB5判がよく使われます。美術書のなかでも、技法書などの実用的なものはB5判がよく使われます。楽譜はB5判かその上のA4判が多いです。

美術展の図録はたいてい、もう一回り大きいA4判です。美術書もA4判が多用されます。写真が多く載っている雑誌もA4判のことが多いですが、B5判の高さにA4判の幅のような形をした、少し横に幅広のAB判というサイズも多用されます。だいたいはヴィジュアルを重視した雑誌や本です。

その上のB4判の美術書もあります。美術全集などはB4判のものがかなりあります。それ以上大きな本は、昔はやった「豪華本」を除くと限られたものになります。

以上、大きさだけで本を見分ける方法を書いてみました。

 

色や表紙のデザインの話も簡単に触れておきます。

色や表紙のデザインの話も簡単に触れておきます。

まず、カラフルな表紙は書店の店頭で本を売るときにアピールする目的でデザインされていると考えられます。書店で初めてその本を見た人が買ってくれることを期待しているわけです。そのため、エンターテインメントの本や、類書の多い参考書など、店頭で見比べて売れる見込みの高い本が、美しいビジュアルの本になっています。学術書などは、ある程度内容を知っている人が買うものですので、比較的素っ気ない表紙になっていることが多いです。そのことから、白いカバーに文字だけのような本は専門家を対象にした本だと判断できます。

本の外形から中身の見当を付ける方法については、もっと詳しくお話したいのですが、長くなったのでこのぐらいにしておきます。