2.7mの棒 2

昨日のつづき。

渋谷の109の前でどうしたものかとしばらく考えていた。
よく考えてみればそこは土曜日の夜の渋谷で、溢れかえらんばかりの人々。みんな程よくアルコールが回って、元気だ。
3m近い棒を抱えた男なんて邪魔以外の何者でもなかった。
運が悪ければ連行されてしまってもおかしくない。

人ごみのあいだを縫うようにして歩き、その間に街路樹に何度か棒をぶつけた。
とりあえず、あまり人がいない所にいったほうがいいと思い、109から道玄坂を登り、バスのターミナルの付近まであがる。

一旦そこで棒を横向きに置き、道に止まったタクシーと長さをくらべてみる。
どう考えてもタクシーという選択肢はなくなった。
車体よりも長いんだもの。

タクシーの前に止まっているバンには運転手だけがのっていた。
何かの撤収を待っているのだろう。

もしかすると、撤収まで小一時間あるかもしれない。

コンコンと窓ガラスをたたく。
ウーンという音がして、助手席の窓ガラスが開く。

「すみません、もしかして、いま、何かの待ち時間ですか?」

「おう、そうだけど。何?」
運転席の男性は面倒くさそうに、タバコを吸い殻にもみ消して、スマホをみたまま言う。

「ちょっと荷物が大きくて。三軒茶屋のビックエコーの前あたりまで連れて行ってはくれないですか。」

男性は僕の持つ長い棒を下から上までなめるように見ている。

助手席のドアがガタンという音を立てて空き、

「とりあえず、うしろ空けて載せな。」
とスマホに視線を戻して言う。

「ありがとうございます!…」

という妄想を一度して、まぁ無理だろうな、と思う。

ぽつぽつと雨が降って来た。

つづく

□ ANOTHER STORY

MASAKO TAKANO

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