sumida

東京吉祥寺で古書店「よみた屋」を営んでいます。

古本屋立地論

なぜお店をやっているのか

古本屋にもいろいろなやり方があります。販売する方法もお店で来店客に売るだけではなく、通販や催事、古書市場など工夫次第でお店なんかなくても商売はできます。

お店の良いところは、お客さんに本を発見してもらえるところです。通販などは検索で本を探すので、目当ての本があるときは便利ですが、知らなかった本に出会うのは難しいでしょう。紙の古書目録は通覧するので発見があるかもしれませんが、現物を確認できるわけではありません。古書即売会等の催事でも出会いはありますが、体系的な品揃えはできないので偶然の発見にまかせることになります。

というのは理屈で、本当は林のように立っている本棚に本がびっしりと並んでいる空間が好き、というのが私がお店をやっている理由です。本がたくさんある空間にいるのが幸せなのです。

仕事をするのは何もお金のためばかりではなく、もちろんお金を稼ぐことは必要ですが、やっていて楽しいとまでは言えなくても、すくなくともやる意味があると思える事でなければ長く続けられません。仕事を生きるというと大げさですが、結局ほとんどの時間を仕事に費やすわけですから充実した気分で過ごしたいものです。

夜間人口と昼間人口

お店をやるならお客さんに来てもらわなければなりません。お客さんに来てもらうためには、どこでやるかが重要です。まず周囲にある程度人がいて、人が立ち寄りやすい、交通の便が良いところでやるべきです。

人がいるというのは人口です。人口には夜間人口と昼間人口があります。夜間人口というのは、いわゆる人口。棲んでいる人のことです。それに対して昼間人口というのは、住んでいるかどうかは別として、仕事などで昼間のあいだいることです。都心などは会社がたくさんあるので昼間は大勢の人がいます。しかし住んでいる人は少ないので夜になると閑散としていますね。

商店は人の多いところでしなければうまくいきませんが、夜間人口と昼間人口、どちらをターゲットにするかで立地の選び方が変わってきます。喫茶店などは住まいの近くではあまり行くものではありません。昼間仕事場などの付近で立ち寄ります。したがって昼間人口の多いところが適した立地になります。逆にスーパーマーケットは夜間人口が重要です。

小売り商店の商品(消費財)を最寄品、買い回り品、専門品に分類する考え方があります。最寄品は買いやすいところで買うもの、買い回り品は比較検討してから購入するようなもののことです。最寄品は夜間人口の多いところで、買い回り品は昼間人口の多いところでやるべきだと整理することができます。

古本屋は販売と買い取り両方をやる

古本屋の場合はどうでしょうか。これはちょっと特殊です。というのは、古書という商品の性質として、お客様に販売するだけではなく、お客様から買い取りもしなければいけないからです。販売する商品としての古書は買い回り品に相当しますが、お客様が蔵書を処分しようとするときには住んでいるところの近くで処分先を探すことになります。

都心のオフィス街のような所では、昼間は多くの人が訪れてものが売れるかもしれませんが、持ち込みによる仕入れはあまり期待できません。蔵書家の家まで出張して買い取りするとしても遠方に出かける必要があります。多くのお客さんは近所でお店を探そうとするので、依頼を受けるのも難しくなります。

かと言って住宅地では、買い取りの依頼は受けられるかもしれませんが、今度は販売がうまくいきません。というのは住宅地ではお店の前を通る人はそこに住んでいる人ばかりですから、人数も少ないですし同じ人が毎日通るだけで、変化にとぼしいのです。日常的に消費するようなものではない品物を多く売るためには、いろいろな人が行き交うような街でやりたいわけです。

古本屋の立地は相矛盾する要素を満たす必要がある

古本屋の立地を考えるときには、この販売と買い取り両方の点での利便性を考慮しなければならないというのが、他の一般的な商店にはない特徴になります。そのため、相矛盾する要素を満たさなければならないむずかしさがあります。一方で、ほかのお店なら成立しないような立地でも商売を成り立たせることができるという利点もありますがそれはまた別の話です。

郊外でありつつ消費地でもあるような街

結論から言えば、古本屋をやるなら夜間人口と昼間人口が入れ替わるような、郊外でありながら消費地でもあるような街が適しています。たとえば中心的な都市から少し離れた衛星都市のような所です。急行やそれに準ずるような列車の停車駅で、デパートなどの大型商店があるような所というのが指標になるでしょう。

東京は非常に大きな都市ですから、人の流れも膨大です。昼間は都心に大量の人が流れ込んできますが、夜になると去ってしまいます。その人たちの住まいは周辺にずっとひろがっています。東京の中心部である千代田区・港区・中央区・新宿区・渋谷区の4区は夜間人口と昼間人口の比率が2倍以上になっています。

23区でも周辺の区はベッドタウン的な性格もありますが、昼間人口も少なくありません。住んでいる人がたくさんいて、多くの人が通勤や通学で都心部に昼間出ていきますが、外部から流入してくる人も同じぐらいいます。そのため昼夜の人口比率があまり変わりません。つまり昼間と夜で人が入れ替わる地区だと言えます。

もし古書店をやるなら

もし、古書店の店舗を経営して一般客からの買い取りも重視するなら、都心部から少し離れた場所が最適だということになります。具体的には、東京であれば23区周辺部とその外周あたりです。

商店の立地を考える場合は、どの街にするかということと、その街の中のどこにするか、という別々の問いがあります。今回は街選びの話をしました。