旅行業界誌で金沢は「食べ物がおいしい」第一位
『じゃらん』発行の業界誌『とーりまかし』9月号によれば、「食べ物がおいしい」で石川県金沢市が
第一位となっています。
私は他県出身で、18歳の時に金沢にやって来て、以来半世紀この街の食べ物と付き合ってきましたが、来た最初、日常的な食べ物はそれほどおいしいとは思いませんでした。普通の水準です。
ある時、「金沢でおいしいラーメン屋さんはどこですか」と地元のおじさんに聞いたところ、「金沢でラーメンは求めないでください」と言われたのをよく覚えています。そう言われれば、そばもうどんもパンも、評判のいい店がありませんでした。昭和の後期の話です。
社会人になって、割烹や料亭に連れて行ってもらうことがあり、そのようなお店で食べた料理はどれも美味しく、この違いは何なのか、と大きな疑問に囚われたほどです。
答えはそう難しくありません。
高級料理店はおいしく、大衆的な飲食店はそれほどでもない、ということでした。つまり、落差があったわけですが、昭和の後期に、日本の地方都市の大衆的飲食店は、おおよそそのようなレベルで、特段、金沢だけの特徴ではなかったのです。むしろ、割烹や料亭が加賀料理と言われる地元料理の伝統を保全して、高いレベルの料理を比較的リーズナブルな価格帯で提供していることが金沢の食文化の特質と言えるでしょう。
加賀料理の“ハレ感”
加賀料理は鯛の唐蒸しや治部煮などに代表される祝事料理あるいはもてなし料理であり、そのハレ感が高い水準を維持してきた背景にあります。
時代は平成になると、料亭や割烹で働いていた料理人たちが次々と独立して、様々な業態の和食店を開業。腕のいい職人たちによる大衆的な飲食店が陸続として登場し、金沢の飲食業界のレベルアップが急速に進み、また、同時に舌の肥えた消費者が増えて、飲食市場全体が底上げされたと見ています。
21世紀に入って、10年代になると、北陸新幹線金沢開業が強く意識され、それに向けた飲食業界の活性化が大きな動きになり、味覚のレベルが一段と向上しました。
いま金沢を訪れる観光客はその所産を体験しているというわけです。