みなさん、こんにちは。ケルトの笛のhataoです。フランス人アーティスト二人の2週間のツアーが大成功に終わり、気が付けば年末の世界に来てしまいました。
前回「無冠帝」を味見してもらったフルートのシルヴァン・バルーは、演奏テクニック、音楽性の幅広さ、精度、どれもが超一流でした。彼の素晴らしい演奏を思うと自分が恥ずかしくなるほどですが、こうして良い刺激を受けられたのですから、苦労して招聘した甲斐がありました。
心から尊敬する人がいるのであれば、その人のために働く、そしてその人に稼がせてあげると良いですよ。僕は、お金のためではなく、自分の勉強のために一年に1回はこういった企画をしています。
演奏をして稼ぐ3つの方法
僕が短い会社員生活を辞めて独立したのは、会社員をしながら週末音楽家をしようという甘い夢に破れたからです。毎日毎週決められた時間を拘束されるのもいやだし、通勤もいやだし、上司から指示されるのもいやでした。だから会社を辞めた後に再就職やアルバイトをするという選択は、ありませんでした。
僕はシンプルに音楽で生計を立てたかったのですが、会社を辞めた当初のライブやギグの収入は1回5,000円~10,000円程度。これを頑張って毎週2つ入れても月8回で、8万円も稼げればいいほうでした。
さて、「ライブ」と「ギグ」という単語が出たところで、今回は音楽家が演奏でどのように現金を得ているのかについて、お話をいたしましょう。
ライブとは?
一般的に、「ライブ」と言われる演奏会は、ライブハウスやレストランなどを借りて、お客さんから入場料を取って開催します。利用条件は場所によって変わりますが、「貸し切り」は集客に関係なく会場費が一定額かかるものです。もう一つは、チケット収入から一定額を引かれて演奏者に還元される「チャージバック」があります。
「貸し切り」はチケットの売上が会場費を下回れば赤字になりますが、「チャージバック」の場合は最悪1人しかお客さんが来なくてもマイナスになることはありません(もちろん、お店はたまったものではありませんけれども)。
ですので、集客に自信がなければリスクが少ない「チャージバック」で、自信があるのであれば、より大きなリターンを望める「貸し切り」でと、使い分けることができます。
チャージバックは気楽なようですが、あまりに人が来ないライブをチャージバック制で繰り返すと、お店に嫌がられて使えなくなってしまうかもしれません。チャージバックは演奏家とお店との信頼関係で成り立っているのですね。
こうしたライブにはお客さんが足を運びたくなるような魅力的なプログラムを考えたり、チラシやSNSで集客をしたりと、準備や労力も多くかかるため、これを毎週のように続けるのはかなり無理があります。そこで、仕事としての演奏を受けることも必要になります。
ギグとは?
都市部であれば、飲食店やホテル、商業施設での演奏の仕事があります。これはチケットを売るコンサートやリサイタルとは異なり、その場にいるお客さんに向けて演奏する仕事であり、「ギグ」と呼ばれます。お客さんが多くても少なくても同じ金額をいただけるので集客の心配は要りませんし、「ライブ」に比べると気は楽です。
ギグは毎週や毎月など、定期的に発生する仕事であることが多いです。ギグの収入は、その仕事を取り仕切る「元締め」から孫請けするので紹介料が引かれるなどして、単価が安めになりますが、一度引き受けるとリピートで何年も続くことが多く、安定収入にもつながります。
逆に、自分が出演しなくてもイベントをプロデュースしたり、音楽家を手配する立場になれば紹介するだけで手数料収入をもらえることもあり、不労所得を得ることができます。
実は、僕には15年くらい続けているギグがあります。西宮市のアイリッシュ・パブの仕事なのですが、オープン当時からブッキング担当をさせていただいており、予定が空いている時は自分で出演もしています。
演奏家として駆け出しの頃は毎週3日もギグがあり、貴重な安定収入となって助かりました。
僕が演奏している「アイリッシュ」というジャンルは、パブやギネスビールと結びつきが強く、生演奏を入れているバブが多いため、他のジャンルとは異なり、ギグを得やすいようです。アイリッシュ・パブのギグは、基本的にはビールを飲みながらアイリッシュを淡々と弾く仕事なので、アイリッシュが好きなのであれば楽しめる仕事です。
ギグで演奏する対象は、自分の音楽を聴きに来たお客さんではなく、そのお店にたまたま来ている人であることが多いので、誰もが知っている「一般的な」曲を求められることが多く、それだけをやっているとマンネリ化して音楽が腐ってしまうので、本当にやりたい音楽があれば自主的にライブを企画します(いわゆる自主ライブです)。
「依頼演奏」とは?
これらの他には「依頼演奏」があります。
依頼主は企業や個人や学校など色々なのですが、一定額のギャラを提示されて、スポット的に演奏をする仕事です。多くは会場費や集客の負担を心配することなく、演奏者にとってはリスクがない「おいしい」仕事であると言えるでしょう。
ギャラは依頼主の予算と交渉次第なのですが、1回10万円以上の単価の大きい依頼も多く、アーティストとして知名度があり安定的に依頼演奏が入ると、「ギグ」を中心に仕事をしている演奏家とは桁違いの収入を得られることがあります。
依頼演奏においてよくある内容は、結婚式やパーティー、芸術鑑賞会といったものですが、この場合、依頼主は一般的な音楽を求めることがあり、対応力や読譜力が必要となります。ただ、この市場は毎年音楽大学や専門学校から若手が無限に出てくるので競合が多く、単価が下げられる傾向があります。
これに対して、オリジナル曲でアーティスト活動をしている演奏者に直接依頼する場合は、そのアーティスト性を求められているので、基本的には得意な曲や、やりたい曲を演奏すれば良いのです。特にマスコミなどで取り上げられて知名度や集客力が高いアーティストはギャラの単価は高くなります。
「ライブ」や「ギグ」は消耗が大きく、これだけで演奏家として生計を立てて長く続けるのは難しいので、アーティスト志向の演奏家は「依頼演奏」を取れるように目指すべきだと思います。
これらの他にも、ストリートで演奏する「バスキング」や、最近はYouTubeやインターネットの生配信で演奏するなど、多様な稼ぎ方がありますが、ここでは古典的な3つの方法についてご紹介しました。
次回はレッスンの収入について、お話しいたします。