問題が起きた時、学ばなければ永遠に解決しない

こんにちは! 国内でただひとつケルト音楽専門の楽器店を経営しているケルトの笛のhataoです。今回は専門外の商品を取り扱うことや、商品に問題が発生したときの対処法についてお話をします。

私は笛の専門家なので、楽器店を開業した当初は笛の専門店としてスタートしました。しかし2年前に店舗を構えてからは、笛以外の商品である弦楽器や打楽器、蛇腹楽器へと取り扱い範囲を広げました。

笛に関しては誰よりも詳しいと自負している私ですが、恥ずかしながら他の楽器については知識がありません。本来は笛に対する情熱と同じくらいの熱量でこれらの楽器を学ぶことができれば理想的なのですが、笛だけでも何年もかかったのに、これだけの楽器をゼロから学ぶのは現実的ではありませんでした。

そこでプロ奏者の友人知人に楽器アドバイザーになってもらうことを思いつきました。商品の仕入れについてアドバイスをいただいたり、お客様から質問を受けた時に私の代わりに答えていただいたりして助けていただくのです。

こうして専門外の商品を販売し始めたとたん、トラブルはすぐに発生しました。

楽器に不具合が連発! メーカーも助けてくれずピンチに

 

当店で取り扱っている楽器のひとつに「アングロ・コンサーティーナ(以下、コンサーティーナと略します)」という商品があります。アコーディオンの一種で、タンゴで使われる楽器「バンドネオン」によく似た楽器です。小さな六角形の可愛らしい見た目で、左右にボタンが30ほどついています。日本ではあまり知られていないのですがアイルランド音楽ではとても人気があり、見た目と軽さ、やさしい音色から特に女性が好んで演奏しています。

日本ではコンサーティーナを試奏ができる楽器店がほとんど無いため、店舗を構えた際には当店でも取り扱いたいと考えていました。しかし品質の良いコンサーティーナを手に入れるのは本国アイルランドでも難しく、また職人が手作業で少量ずつ仕上げるため価格が高い傾向にあります。仕入先を探していたおり、アイルランドの楽器店が比較的安価に販売していることを知り、一昨年から当店でも取り扱いができるようになりました。

これでめでたしめでたし、とはいきません。コンサーティーナは機械仕掛けの複雑で繊細な楽器。発売当初から音が出ない、音が出っぱなしになる、ノイズが入るなど不具合のクレームが連発しました。

不良品が出た場合、日本で問屋やメーカー経由で仕入れたのであれば返品交換してもらうことができるのですが、輸入楽器はそう簡単ではありません。

まず税金の問題があります。輸入時に国内の消費税を支払い、返品をする際に受取先でまた税金を支払い、修理完了後にこちらで受ける際にもまた税金がかかります。すると3倍の税金を支払うことになってしまいます。それに加えて往復の送料もかかってきます。これでは儲けも何もあったものではありません。そのため、品物を送り合うのは現実的ではありません。

さらにもっと悪いことが明らかになりました。メーカーに問題の報告をして交換品を送るように言っても知らぬふりなのです。あまりうるさく言うと返信すら来なくなり、今後の取引に影響が出てしまう始末。海外の業者は日本人ほど親切ではないことを、身にしみて感じた出来事です。

こうなったら自分でなんとかするしかありません。コンサーティーナの箱を開けて中身を分解し、私のような素人でも分かる簡単な問題は自分で修理をして、お客様にお返ししました。しかし複雑な問題になると私にはもうお手上げです。

国内にはコンサーティーナ専門の修理業者はありません。そこでアコーディオンの修理業者に泣きついて、修理を依頼することにしました。

修理業者の担当者は、楽器を見るなり安い楽器なので修理する価値がないとか、作りが粗悪だとか、こんな低品質の商品を流通させてコンサーティーナのイメージダウンになっては困るとさんざんな言いようで、その上に修理代も決して安くはありませんでした。それでもお客様に対してはきちんと誠意を示したかったのです。利益など、修理代を支払うと吹き飛ぶようなものですが、きちんと直したものをお納めしました。

この時は、仮に10台のうち3台に問題があっても、7台で問題が発生しなければ利益は確保できるから販売を継続しようと甘く考えていました。

不具合連発の問題児が登場

そんな折、お客様に納品した20万円ほどの楽器に不具合が出ました。

これまで同様に修理業者に修理を依頼して、問題のある箇所を修理してお客様にお返しましたが、すぐにまた別の箇所で不具合が発生します。これを私が一度引き取って、簡単な修理を施してお返しするも、また不具合。相次ぐ不具合にお客様も私もほとほと困り果ててしまい、結局はご返金することになりました。お客様には心から申し訳なく思いました。

何度直しても不具合が出るコンサーティーナ。こうなったら楽器の構造と修理法を自分で学ぶしかない。そう思いこれまで修理を依頼していた工房に簡単な修理法だけでも学べないかと弟子入りを打診するも、無視されてしまいます。これは屈辱的でした。このことがきっかけとなり、もう修理を人任せにするのは辞めて、自分で学ぶことを決意しました。

まずは自分自身がこの楽器を理解する必要があると考えました。そこで、この夏に実家に帰省していた際に、およそ一ヶ月間、コンサーティーナを自分で練習してみることにしました。レッスン動画を見ながら毎日1時間程度練習をし、練習の様子をTwitterに動画で上げるという日課を課しました。1ヶ月の練習の結果、簡単な曲であればたどたどしく演奏できる程度にはなり、運指についても知識を得ることができました。

また平行して英語の修理マニュアルを翻訳することにも着手しました。読み進めるうちに、このマニュアルは当店の商品とは構造が異なるヴィンテージ品の修復マニュアルであることが分かり翻訳は中断しましたが、本からも多くの知識を得ることができました。

そして商品のコンサーティーナを分解し、リードやアクション部分について調べ、試行錯誤と検証を繰り返し、不具合の原因と対処法を学びました。

お客様の協力で無償マニュアルを製作

当店ではコンサーティーナは発売開始からの人気商品で、国内の演奏者は確実に増えているという実感があります。一方でまだ体系的な情報、特に修理に関する情報が少なく、またプロの修理師がいないために不具合が出た場合はユーザーが自分で対処するしかありませんでした。

しかし楽器店としては、売りっぱなしでは責任放棄と受け取られかねません。買った商品がすぐに問題が出れば練習に差しつかえますし、当然保証を求めたいのがお客様の心理です。

コンサーティーナについて少し学んでみたところ、不具合は構造的な原因でどうしても起きるものであること、そして多くの不具合は自分で解決できるものであることを知りました。

不具合が出るたびにお客様が修理に出していては修理費がかさんでいきますし、修理に出している間の練習にも支障が出ます。練習をする過程において、不具合の原因や簡単な修理方法について学ぶことは、良い奏者に成長するために必須であると考えるようになりました。

そこでコンサーティーナ販売業者としては初めて、日本語の解説書を無償で作ることを決意しました。マニュアルは多くの方の助けで完成しました。下書きを公開し、Twitterで10名以上の愛好家の皆様からご指摘をいただきながら充実させていきました。こうして完成したマニュアルはPDF10枚程度にもなり、これを読めばある程度の不具合には対処ができるようになります。

https://celtnofue.com/media/files/wren_manual.pdf

また、不具合が起きにくい楽器にするための改造方法についても引き続き研究をしており、ブログで公開をしています。

Wrenコンサーティーナを壊れにくくする改造をしました

こういった無償の提供は、当店とお客様のためだけでなく、日本のコンサーティーナ業界すべてに利するものだと思っています。

今回の一連の不具合騒動で学んだことは、専門外の商品については人任せにせず、自分で学ばなければ問題は永遠に解決しない、ということです。分からないことは素直に学ぶ姿勢をこれからも大切に持ち続けてゆきます。

□ ANOTHER STORY

ケルトの笛 hatao

Koichi Sugimoto(Sugipo)

Saki Nakui

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