投資家としてビジネス起業を支援しました(後編)

こんにちは! ケルト音楽専門の楽器店を経営しているケルトの笛演奏家のhataoです。

エンジェル投資家としてアイルランド音楽のオンmikライン楽器レッスンビデオの配信サービスの起業を支援し、今年7月に開業しました。詳しくは公式サイトをご覧ください。


※ 投資家としてビジネス起業を支援しました(前編)はこちら

自費出版の意義とは

ご存知の状況により、12月のコンサートは本日の1件を残してすべてが中止になってしまいました。主催者も出演者もお客様も大変残念がっていますが、お客様の安全を考えるとやむを得ないことです。
今年は予定していたコンサートが半分も開催できず、また自分から積極的に企画することも控えた、我慢の一年でした。

一方で嬉しいこともありました。

私はこれまで10冊を超える音楽書籍を自費出版しているのですが、その中の『はじめよう!アイリッシュ・セッション』という楽譜集が重版となり、印刷部数3000部になりました。前回の重版から2年で1000部のペースなので、この手のマイナージャンルの書籍としては好評をいただいており、嬉しい限りです。

私が出版した音楽書籍の中には、北欧のヨーロッパでもほとんど知られていない「柳の笛」や片手で吹く中世の笛「テイバーパイプ」の教則本の翻訳出版など、最初から売れることを期待せずに出版したものも多くあります。赤字がわかっているのに本を出版するのは、「儲けるのは、儲からないことをやるため」という自分の信念のとおり、文化には金銭に代えられない価値があると思うからです。そして、そのような商品はたとえ細々とであっても何十年と長い時間をかけて売り続けられる、時代の流行に左右されない商品だからです。

売るための本は、徹底的に売れることを考える。そうではない本は、長く読まれ続けられるよう深く掘り下げる、とメリハリを意識しています。

今回重版となったアイリッシュ・セッションの楽譜集では、新たに各曲に私の動画レッスンへのQRコードを掲載して、スマホで読み込むことですぐに解説動画を見られる仕様にしました。さらに使いやすく、長く読まれる本になるはずです。

以下、商品へのリンク(現在は第2版を販売中、第3版は2月ころ発売の予定です。)

https://celtnofue.com/items/detail.html?id=752

起業投資で浮かび上がった問題点

前回は、初めて起業支援のために資金援助をしたというお話を書きました。

わずか3ヶ月の開発期間でコンテンツを用意し、サイトを構築してサービスをスタートさせた福島さんは、まだ学生という身でありながら、実に有能な方です。人格的にも誠実・正確で、安心して資金を預けることができます。

私は年齢的に福島さんよりずっと年上ですが、先輩風を吹かせて指図するつもりは毛頭なく、あくまで投資家としての立場から客観的に意見を出しています。

私達はこれまでお互いに面識がなく、このプロジェクトが始まってからも実際にはほとんどお会いしてないのですが、年齢差や、投資家と起業家というお互いの立場を超えて遠慮なく議論を交わしています。
音楽の趣味が合うということもありますし、アイルランド音楽を普及するという共通の目的があるので、信頼関係を基礎にうまく意思疎通ができていると思っています。そんな私達にも、投資家と開発者という互いに未経験の立場においては困難なこともありました。

それは予算について、どちらが意思決定を行うのかということでした。

投資家と経営者。予算権はどちらが主導権をにぎるか?

このプロジェクトでは、サービス開発に必要な経費については私が負担することになっています。一方で維持管理に必要な経費は売上から天引きしています。

開発経費として、例えばカメラの三脚や照明といったものがあります。必要なものは福島さんのほうで商品を選んで私に許可を求め、私が購入して福島さんに直接届くように手配する、というきまりとなっています。購入した備品の所有権は私にあり、必要がなくなったら私にもとに戻ります。

私は全面的に福島さんを信頼しています。だからこそ100万円という大事なお金を出資することを決断しました。だからといってその使途について無頓着でも良いとは思っていません。

福島さんの金銭事情については知りませんが、仮にそれまで大金を扱ったことがないのに大金を預かったとしたら、私なら気が大きくなって必要のないものまで買い物をしてしまうでしょう。まさか福島さんが私用に使い込む、例えば交遊費と称して私的な飲食をするとか、私用のPCを購入するなどとは思ってはいません。経費は共同の会計表をgoogleドキュメントで管理し、使途不明がないように可視化していますし、不安はありません。
しかし、せっかくお金を出すのですから、無駄のない生きたお金の使い方をしてほしい、最後の1円まで有効活用してほしいというのが人情です。

この「投資家が資金の使途についてどこまで立ち入るか」という問題は、ところどころで発生しました。

福島さんとしては高品質のサービスを提供して既存のユーザーの満足度を上げたい。私はそれよりもコース内容を充実してユーザー数を増やしてほしい。そのために、福島さんが求める予算に対して、私が難色を示すことが何度かありました。

数千円程度の小さな金額の品物であれば、いちいち私に聞かなくても自由に決済して良いことにしていますが、一定金額以上であれば必ず私に確認するようにお願いしています。あるとき、ある備品やサービスに対して私が購入を断り、福島さんが自費で支払うという結論に至りかけたことがありました。

しかし、これを認めてしまっては「私が出資し福島さんが経営をする」という当初の関係が歪んでしまいます。すると利益の分配についてもスッキリしなくなってしまいます。基本的には、すべての出費を私が負担しなくては、この契約は成り立ちません。

しかし私が意見を出して、買うか買わないかを決定してしまっては、結局は私が予算権を握ることになり、完全に福島さんに経営を預けることにはなりません。議論の末に、私は予算について意見は言うが、最終的には福島さんが決める、というルールを設けました。

 

投資家はお金は出しても口は出さない

私には楽器店事業のほかに民泊や飲食など、いつかできたらと構想しているビジネスがあります。しかしすでに楽器店経営で手一杯なので、これ以上の時間や労力を新たなビジネスに割くことは物理的に不可能です。そのため誰かに出資をしたり場所を提供したりして、経営を任せたいと考えています。
起業支援はお互いが必要なものを提供しあうことで成り立つ、とても効率的なしくみだと思います。

ビジネスでは「すべてを自分でやろうとせず、得意な人に任せる」ことが大切だとされていますが、投資においても同じです。「お金を出して、口も出す」のでは、結局は起業家・経営者にのびのびと思い通りの事業をさせてあげることができません。結果、投資家自身の能力や想像力を超えたビジネスに育てることができず、中途半端になってしまいます。

私の親は、育児では思春期にかかると「お金は出すが口は出さない」接し方がうまくいくと常々言っていました。子供の考えを信頼するということでしょう。投資家も同じかもしれません。お金を出して、事業の成り行きを良く見守り、経営者から求められない限りは口は出さない、という態度が起業家の信頼を得て、うまくいくのではないかと考えています。

Trad-Onはローンチからもうすぐ半年となります。まだまだ資金回収ができる段階には程遠いですが、このサービスによってアイルランド音楽がさらに身近な存在になり、長く親しまれれば、出資した価値は十分にあると思っています。

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