「段戸裏谷」逍遥記

段戸高原」という我々関東人にとっては聞きなれない場所は、奥三河のど真ん中にあります。豊田市と設楽町にまたがる標高1千メートルほどの山域です。「段戸」という地名の由来は、檀徒(檀家)が転化したようですが、愛知高原の最高峰「茶臼山」を寺に例え、そこから連なる奥三河の山々をその檀家に例えたのでしょう。

鉱物が好きな人は、「段戸石」という鉱石を聞いたことがあるかもしれません。設楽町の段戸山で産出される天然のセラミックで、遠赤外線を発するパワーストーンなんだそうです。セラミックは水の浄化作用があります。それすなわち、この山域から流れ出る河川の水質が清らかであるということになりますね♬

梅雨の晴れ間、段戸裏谷へ

6月中旬、梅雨の合間の好天を狙って段戸高原の一角にある段戸裏谷の原生林(通称「きららの森」)を散歩することにしました。

雨あがる奥三河

降る雨を 集めて早き 足助川

休耕地からこちらをうかがうシカ

 

峠を越えると北に流れる段戸川と出合い、しばらく渓谷美の川沿いを南下すると突如、森が開けて水面が広がりました。この小さな湖は、段戸湖と呼ばれる利水目的で段戸川を堰き止めた人造湖で、段戸裏谷原生林を散策する際は起点となる場所です。

段戸川の渓谷美

  

人造湖とはいえ、ガチガチにコンクリート護岸で固められているため池とは違い、水門堰以外は自然の地形が残され、うっそうとした段戸裏谷の原生林に囲まれた植生豊かな場所です。池には人工的にニジマス、イワナ、アマゴが放流され、立ち込みでロッドを振るう釣り人の姿も見られます。

奥三河段戸のつぶらな瞳

湖畔に咲いていたエゴノキの花

  

駐車場から先ずは西へ。段戸川源流の裏谷沿いに延びる林道を歩きます。この区間は東海自然歩道の一部になっています。段戸裏谷原生林は「きららの森」と呼ばれ、ブナやミズナラなど広葉樹とモミ、ツガなど針葉樹が混在する植生豊かな森です。ミョーキン、ミョーキン…風に乗って聞こえてくるのは、初夏の高原の風物詩エゾハルゼミの鳴き声です。

ブナの大樹

 

大樹の倒木が目立っていましたが、悲しむことはありません。朽木は土を肥やして豊かな森を醸成するのですから…ほらほら、そう言っているうちに朽木に生える天然なめこを見つけましたよ♬つやつやしてかわゆすでもあり、とっても美味しそうでもあり(笑)

森の輪廻を感じます。

朽木に宿る天然なめこ

  

沢の周辺には森からしみ出した湧水が形成する池が点在していました。水草が生えたり天が映ったり森のキャンバスになっていました。おや?動く絵でしょうか。何やら黒い生物が水底をはっています。

瑞々しい原生林

  

正体はアカハライモリでした。アカハライモリが生息していることは、水質が良好であることの証です。

ちょっと遊んでもらいました。迷惑そうな顔(笑)

  

突如、目の前に小さな野鳥が飛び出しました。朝っぱらからの森への闖入者に「ここはオレの縄張りだぞ!」とばかりにさえずるミソやん(ミソサザイの山笑呼称)我が国最小の野鳥の一種ですが、なかなかに気の強いこと。愛い奴よのう。

縄張りを主張するミソサザイ(苔の大きさと比較してみて)

 

小さな分水嶺を越えて

沢音が聞こえなくなる頃、緩やかな峠を越えていきます。この峠は分水峠。その名の通り、この峠は分水嶺になっていて、東側の裏谷は段戸川を経て矢作川となり、西側の菜畑川や栃洞は豊川になります。行きつく先は共に三河湾ですけどね(笑)

峠付近では大規模な伐採が行われていました。伐採地の中をシカが右往左往していました。どうやら伐採されていない森に移動したいようですが、動物防護のネットに行く手を阻まれているようでした。

分水峠付近の伐採地

シカ~し、困った…

  

峠を越えると林道はゆる~く下っていきます。林道沿いにコアジサイやモチツツジの花が咲いていました。地味な色彩ですが、花の少ない時期にあって嬉しい出会いです。

コアジサイ

モチツツジ

プラスチックごみ?いえいえ、ヒイロチャワンタケです。

  

いつの間にかきららの森から抜け出て、分水林道から栃洞林道、更に牛渡林道を歩いていきます。実はきららの森の西に位置するピーク「出来山」をめざすことにしたのです。

奥三河の山域らしいヒノキの植林帯が多いの山域です。ちょうど伐採が行われているらしく、林道沿いに貯木された丸太があったり遠くからチェーンソーの音が聞こえていました。

林道脇の貯木

 

沢沿いにフキのような丸い葉が目立っていましたが、ワサビの葉でしょう。天然ものなのか…河原が小広くなっていたので、かつて栽培をしていた場所なのかもしれません。

沢沿いに生えるワサビ

  

その一方で沢沿いにはトチやミズナラなどの落葉広葉樹も目立っていました。そんな木々の枝でさえずるのは、幸せの青い鳥オオルリです。初夏になると山地の沢沿いで見かける夏鳥です。

幸せの瑠璃鳥

 

さて、ここで心の迷いが生じました。チェーンソーの音に耳をすませば、どうやら出来山方面で伐採作業が行われているようです。小心者の山笑あるあるなのですが、ブラブラと呑気に遊んでいる自分の姿を働いている林業や林道工事の方々の前に晒したくないのです。

ワレ転進ス…林道の分岐から南の出来山に背を向けて、北の稜線に延びる林道を歩くことにしました。地形図で見れば、GW前に歩いた寧比曽岳方面に延びているようですが…

結局いつもの脱線歩き

しばらく歩いていくと林道が稜線に乗って、奥三河の山並みが広がりました。清々しい青空にもくもくとわき立つ雲。夏だなぁ…山並みの中で一際アルペンチックな荒々しい個性が目立っていたのは、三ツ瀬明神山でしょうか。立場からずっと東、新城市と東栄町にまたがる奥三河の名山です。

空に憧れて、空を駆けてゆく~♬

アルペンチックな三ツ瀬明神山

  

やがて林道は突然終端になりました。こうなることはいつものこと。地形図で確認すれば、沢沿いに分け入れば東西に稜線を通ずる林道に至るようです。頭で考えるよりも先に足が動く猪突なおじさんが山笑の本領。源頭部目指して沢を遡行していきます。すると…

ザブザブ歩こう奥三河♬

 

ピチピチピチ…またもやミソやんが登場。ごめんごめん、チミのテリトリーはすぐに通過しますのでご容赦くださいな。それにしてもこんな山深い沢にこんなに小さな小鳥が1羽。野鳥はたくましいね。

山奥にひっそり暮らすミソサザイ

 

さて、沢の源頭部から植林帯を抜けていくと、当意!林道に抜けました。この辺は丹沢で散々磨いてきた感が役立ちます(笑)森の中からひょっこり出現したおじさんに若いシカが怪訝な視線を向けていました。シカが道を歩き、人が道なき森を歩く。これ如何に?

あれ?

この先は、林道を遠回りして段戸裏谷原生林に戻ったのですが、更にダラダラの長文になりますので、ここいらでご容赦ください。

今回もご笑覧いただきましてありがとうございました。

□ ANOTHER STORY

スズキリ

maimorita

MASAKO TAKANO

Fumiyoshi