テーマパーク化する観光地としての金沢。

今年、金沢を訪れる観光客は、過去にない数に上っているようです。主要な観光スポットは人波があり、行列も目立ちます。客層もかつてない幅広さで、従来の中高年に加えて、若者たちやインバウンドの欧米人が目に見えて、印象的です。

新幹線開業以前に金沢を訪れていた人たちは主として中高年でした。加賀百万石の城下町金沢の文物を訪ねるというような志向が強かったと思います。その頃の観光スポットと言えば、「兼六園」「長町武家屋敷」「忍者寺」がトップスリーで、それらはいずれも前田利家が金沢城入場以降、金沢で築き上げた遺産でした。

JR金沢駅前にある鼓門。ここは記念撮影場所として人気がある。

 

ところが、いま来訪している若者たちからは、「前田利家って誰ですか」とか「加賀百万石ってよく目にしますけど、何のことですか?」というような質問が出て、案内するガイドの人たちを驚かせているようです。あるガイドの方は、「今の金沢を訪れる若い人たちは歴史好き、などと決めてかかってはいけないね」とおっしやってました。

今回は、金沢観光客4大クラスターの一つ、若者たちに焦点を当てます。

なぜ、こんなにたくさんの若者たちがいま金沢に来るのか、その理由を知っている人は金沢には殆どいないようです。行政の観光部局や観光協会には、ヒアリングやアンケートで得たデータがなく、分析のメスも入っておらず、現実のほうがどんどん進んでしまって、よく分かってないというのが実情でしょう。

十年ほど前に、卒業旅行のデストニーに金沢が入った頃から、若い学生さんたちが市内によくみられるようになりました。その頃、宿泊業者に聞いた話では、関西の大学の卒業旅行の行先に金沢が選ばれるようになったようです。

当時、卒業旅行は二種あり、一つは本当の仲良しと行く海外卒業旅行、もう一つはゼミが同じなど義理で行く一泊二日卒業旅行で、後者に金沢がどんどん入って行った時代でした。

そのあたりから、若者たちにしだいに認知され、やがて『るるぶ』等で広く喧伝され、今日に至ったと見ています。

金沢は若者にとっては、テーマパーク的に遊べる街。

テーマパークとは、具体的にはディズニーランドのような所を指すのですが、その本質的な特徴はアトラクションの文脈や背景が捨象されて並列されていることです。例えば、白雪姫のお城の横に西部劇のジェットコースターがあって、カリブの海賊のアトラクションがある、という具合いで、個々の背景や文脈はカットされ、ただ表象としての楽しさを享受できるのがテーマパークです。

いま金沢で人気がある観光スポットは、「近江町市場」「金沢21世紀美術館」「ひがし茶屋街」といったところで、それぞれ背景や文脈が異なりますが、若者観光客にとって、そんなことはどうでもよく楽しさがあればそれでオッケーなのでしょう。

つまり、そもそも、とか、もともとは、とか、そのような文物を支えている背景や文脈を追い求めていく作業は不要で、楽しくておいしそうなところが手っ取り早くかいつまみできる街、金沢はテーマパークのようだ、というわけです。

私は、そのテーマパークの市場的価値を認めています。

日本の地方都市で、テーマパーク的に楽しめる街がどれだけあるでしょうか。横浜、鎌倉、京都、神戸、そんなところでしょう。実は希少な存在なのです。金沢はその一角を占め、その特質が若者観光客の爆発的な来訪を招いていますが、若者たちの来訪時期には特徴があります。2月3月の卒業旅行、ゴールデンウイーク、夏休み、9月10月の連休、冬休みが盛り上がる時期で、分かりやすいタイミングなので、観光業にとってもウェルカムなクラスターと言えますね。

若者観光客の必食の4アイテムは、順不同に、金沢カレー、金沢おでん、回転寿司、海鮮丼で、一泊二日の旅程で食事の機会は4度ありますので、これら4つの必食アイテムをどのように組み合わせるのかが、旅行前準備の最大課題と聞いたことがあります。ちなみに、海鮮丼は金沢市民は食べません。

観光金沢の現実は、金沢市民の想像を超え始めたと言えるでしょう。

 

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