こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアします。
普段はビジネスのことを書いているこの連載では、たまに田舎暮らしの話も書いています。今回は、山の音楽室が完成したので、そのお話をしましょう。
6年ほど前に和歌山県の山奥に二軒の家と広い土地を買いました。二軒のうちひとつは先住者が建てた小屋で、もう一つは築100年とも言われる古民家です。先住者がこの土地を買った時は、古民家に暮らしながら、近所の小学校が取り壊された際に出た廃材を利用して新たに小屋を建てたそうです。
私がここを買った時には古民家はかなり傷んでいたので、私は新しい方の小屋で生活をすることにしました。こちらが改修前の様子です。
古民家の改修前
この古民家には6畳ほどの部屋が3つと土間があり、土間には昔のかまどや水がめが残っていました。昔はここで薪で煮炊きをしていたのでしょう。内装は、何代かのオーナーが変わるごとに少しずつ改装をしたようで、一部の床は新しく張り替えられていました。狭く、簡素な作りながらもなんとか生活できる状態で、電気も簡易水道もありました。
この土地を買った18年当初、私は車を持っていなかったので、ここにはレンタカーで年に数回しか来ることができませんでした。草刈りができないため誰かが管理してくれたらいいなと思っていたおり、地域に住む若い方が家賃無料という条件で管理人をしてくれることになり、古民家に住むことに。
冬寒く夏暑く、谷なのでカビと湿気がひどく、日が射さず暗くて、虫も入り放題という劣悪な環境だったからか、2年と待たずに退去してしまいました……。確かに、ここで暮らすのは大変だったかと思います。
やがて20年のコロナ禍が始まり音楽の仕事がなくなった私はレンタカーを長期契約をして、熊野に拠点を移すようになり、それから古民家の改修工事が始まりました。以後3年半をかけて2024年初夏に工事がほぼ終了しました。今回は記録に残すためにも、その過程を写真つきで詳細に振り返ってみます。
初期の状態は、外界と板一枚で隔てられた“昔の住宅”
初期の状態では、床・壁・天井いずれも板1枚で外界と隔てられており、断熱は一切なされていませんでした。昔の住宅とはそういうものだったのでしょう。いかに過酷な環境だったろうかと思います。一部の床はへこんでおり、基礎部分の劣化が疑われました。
改修計画としては、私はもう一軒の小屋を生活拠点にするため、こちらの生活する家ではなく、仲間が集って遊べる空間にしようと考えました。そのためもともとあった部屋の仕切りは取払い、コンサートができるような広い部屋を作ることにしました。和室の畳はフローリングに変え、天井は取り払って開放的な空間にします。
ひと間につなげると上記の写真にある玄関はちょうど部屋の真ん中になるので、ここは壁で閉じて、入り口を裏に移動することにしました。
和風な古民家らしさを残すために、もともは無かった広い縁側を作り、道路側には長いバルコニーを作り、また、家へのアプローチには屋根のついたタタキを作ることにしました。
家の中と外のどちらでもない「中間領域」でぐるりと家を囲み、人々が自由に家の中と外を行き来しながらコミュニケーションが生まれる家をコンセプトに設計しました。そのためダイニングは家の中には作らず、タタキに作ることにしました。
こちらの図はCADのできる友人が書いてくれた完成予想図です。
完成予想図
さあ、着工です。まずは天井を剥ぎ取ります。何十年も前に貼られた天井を叩き破ると、山のような埃やゴミが落ちてきました。マスクと防護メガネで完全防備して、戦闘員みたいな格好…。
古民家改修の様子
続いて床を剥がします。床を支える根太は多くが腐っていて交換が必要でしたが、幸いにも柱はほぼ良い状態でした。
特に山側の部屋の床の傷みはひどく、よくこれで歩けたなというほど。やはり湿気は恐ろしいです。土台と根太すべて新しいものに替えました。
山の家の湿気対策
山の家は湿気がすごく、すべてのものをカビさせ錆びさせます。これではまともに生活ができません。そこで、湿気対策と断熱は入念に行いました。できれば地面をビニルとコンクリートで覆う「布基礎」にしたかったのですが、費用と手間を考えて最低限にとどめました。地面には防水防湿シートを敷き、その上に除湿機能がある(とされている)石を敷きました。石の効果のほどはわかりませんが…。床下は通気が大事だと考えて通気孔を広く取りました。
床には厚めのスタイロフォーム(断熱材)を張りました。本来であれば根太でスタイロフォームを支えると簡単に施工できますが、今回はWZピンというZ型の金具で支える方法で施工しました。こちらの方が材料が少なく経費節約ができる利点があります。
写真がありませんが、床はスタイロフォームの上に防湿シートを張り、床から湿気が上がってくるのを防ぎます。その上にコンパネを貼り、最後に杉の相じゃくり(羽目板)を打ちました。床の断熱・防湿はこれで完成です。
大きな掃き出し窓を導入
次に導入したのは、リビングと縁側の間の大きな4枚の掃き出し窓です。断熱を考えてリクシルのペアガラス・紫外線カットのものを購入。材料費の中ではこれが一番高く30万円ほどしました。山の中まではトラックが入れないので、大工さんの家まで届けてもらい、自分たちで搬入、施工しました。
もともとあった壁や戸は取り壊し、縁側を施工。ここに腰掛ける日を想像してワクワクしました。
土間スペースをキッチンに
続いて奥の土間スペースの改修です。下の写真は、古民家にあった「おくどさん(かまど)」。良い作りでもったいないのですが、使いにくいため取り壊しました。最後の姿の写真です。
キッチンになる予定の土間は、床と壁をすべて取り払い地面にコンクリートを敷設。
こちらが現在の土間(キッチン)と音楽室への入り口です。内装はこれから作ります。
キッチンにはかまどとシンクを自作します。(かまどは壁から離して、壁には耐火ボードを張り防火対策をきちんとします。)
物置小屋は、開放的なデッキに
道路側にあった物置小屋は壁を取り払い床を張り、開放的なデッキに改修。
頂き物のシャシンデリアを吊るし、ソファを置き、大型スピーカーを置いて、大音量で音楽を楽しめるようにしました。
縁側から建物入り口までは広い犬走りを設置。裸足でも歩けるようにしました。
建物の中の土間まで含めた広い犬走りを作るために大量のセメントを山まで運びました。さすがにコンクリートの敷設をする技術はないため、左官さんに来てもらいました。ひび割れせず、大満足の仕上がりです。
内装工事の様子
続いて内装工事です。天井には日射取得のために天窓を2つ開けポリカで二重窓にしました。板とトタンだけだったのでグラスウール(断熱材)を貼って杉板で閉じました。壁は、やはりグラスウールをはさんで断熱し、上から防湿シートを貼り、後で漆喰を塗るために下地として石膏ボードを張りました。
電気工事は自分ではできないため、車で1時間の新宮市から工事士さんに何度も通ってもらい施工してもらいました。暗かった石段にはマリンランプを設置。たくさんの照明の中で一番のお気に入りです。
大人二人で石段を運び上げ、アップライトピアノを設置
知り合いのツテで古いアップライトピアノをいただけることになり、自力で軽トラを運転して大阪から運んできました。300kgもあるというピアノ、地域の知人に来ていただき、大人2人で石段を運び上げました。腕がちぎれるかと思いました!
部屋に上げるにも一苦労。一人がピアノの片側を持ち上げている間にもう一人が足にレンガをひとつずつ挟むやり方で縁側の高さまで上げて、運び入れました。
左官さんに壁に漆喰を塗ってもらい、いよいよ完成。天井にはいただきもののダウンライトを埋め込みました。天窓と掃き出し窓で、とても明るい空間になりました。写真左はロフトベッドになって、泊まることができます。
先日、ここで配信コンサートを開催しました。地域の方が大勢見に来てくださり、家の中からも外からも楽しんでいただきました。
内装が完成し、中で過ごしてみると、おもっていた以上に断熱が効いており、快適な空間であることを実感しました。外が肌寒くても中では暖かく、また防音もしっかりしており、近くを流れる沢の音、虫や動物の音もほとんど聞こえません。音楽の録音にもぴったりだと思いました。
まだこれから屋根の塗り替え、外構(中庭)の施工、キッチンの施工などたくさんの仕事が残っています。もう十分快適な空間なのですが、これからさらに楽園のような家に育てていきたいと思っています。
いずれはここをピアノ付きの練習スタジオとして貸し出して、合宿やコンサートに利用してもらいたいななどと考えています。