長続きするビジネスの秘訣を考える

先日ちょっと良い値段のイタリアン・レストランで食事をしました。そこの若いウェイターが笑ってしまうほどドジだったのです。

前菜を持ってきたのに食器セットを出し忘れたり、隣のテーブルの親子連れがトイレに立ったのを退店したと勘違いしてテーブルを片付けてしまったり、デザートの説明のときに「ココナッツ」の単語をド忘れしたり……。そんな彼に学生時代の自分を重ねて懐かしくなりました。

18歳で札幌から京都の大学に進学した僕の人生初のアルバイトは、イタリアン・レストランのウェイター。厨房にはガラの悪いシェフと調理補助の若い男の子がおり、閉店後にキッチンで二人でタバコをふかしていました。ホールは全員が女の子でした。

なぜまったく向いていない飲食店で働こうと思ったのか、もう思い出せません。大学と家との間にあったレストランで求人の張り紙を見て応募したのでしょう。自分の仕事ぶりはというと、高校を出たばかりで食べたこともない料理の名前やセットを覚えなければならず、うまく馴染めなくてすぐに辞めてしまいました。

昔のアルバイト先がすべて無くなっていた

昔働いていたレストランの人や、そこでの出来事が色々と思い出されて、思わずスマホで調べてみました。そのお店があった場所はコンビニに変わっており、ネットで検索してもその店についての記事すら見つけることができませんでした。

なんだか胸騒ぎがして、学生時代や大学卒業後のアルバイトや少しだけ働いた会社がどうなっているか気になり、次々と検索をしてみました。それらの店や会社で働いていたのは、およそ20年前のことです。

結果なんと一つも残ってはいませんでした。

イタリアンの次に働いたのは、お酒の味を覚えたくて働いた酒屋。給料が入るや、気になっていたお酒を買った思い出があります。その酒屋はとっくの昔に倒産して、今は空き地になっていました。負債額はなんと3億円だそうです。

卒業後に音楽活動をしながら働いた居酒屋。厨房で調理補助を担当し、料理を教えてもらった優しい板前さんがいた家族経営の店です。ここは閉店することが決まり解雇されたのでした。

営業職があまりに辛くて独立起業するきっかけを作った輸入商社。ここのホームページは10年ほど前のまま残っていましたが、会社があった住所にはもう存在していませんでした。

これらの店で働いていた人たちは、今どうしているのでしょう。そして負債を背負った経営者は、その後どんな人生を歩んでいるのでしょう……。

私達が日頃利用する駅の周りの店だって、どんどん変わっていきます。20年も前のお店が存在しないことは考えてみれば当然なのですが、自分が頑張って働いた場所が失われるというのは寂しいものです。みなさんも、学生時代のアルバイト先を検索してみてください。はたして今、残っているでしょうか?

一方で長続きするお店もある

京都には僕が学生時代に頻繁にかよっていたアイリッシュ・パブや喫茶店があります。

ここでは毎週アイリッシュ・セッションを開催しており、愛好家が楽器を持って集まります。僕がかよっていたのは20年も昔のことで、大学を卒業し京都から離れてからは、ほとんど行くことがなくなりましたが、今でもセッションは毎週続いています。内装とマスターやメニューは昔と変わらず、変わったのはアルバイト・スタッフやお客さんです。

アイリッシュ・セッションに集客効果があるのだとか、ミュージシャンがビールを飲んでたくさんのお金を落としてくれるのだとか言うつもりはありません。しかし長続きするお店には何かしら理由があるはずです。
飲食店に限らず美容室や塾など店舗型が基本となる業態は、客が離れると家賃の負担に耐えられず、あっという間に廃業してしまいます。流行や事業環境は常に変化し続けるので、一時期は新鮮味があって繁盛しても、同じことを続けていれば飽きられてしまいます。設備や内装も古臭くなってゆきますから、それも客離れの原因になります。

ビジネスを長続きさせるには?

ビジネスを長続きさせるには3つの方法があるのではないかと考えています。

1つ目の方法は流行や時代の変化に対応してゆくことです。美容室の例では最新のカットスタイルを取り入れたり、スタッフに美容研修を受けさせたりすること。流行に乗るにはラクではありません。競争が激しく、タピオカのように投資してもブームが去る恐れもあり、常に先を読んで、勉強し、変化をし続けなくてはいけません。

2つ目の方法は時代に流されず特定のジャンルに特化すること。鉄道模型とかアマチュア無線や手芸などのニッチな趣味のジャンルは僕が子供の頃から常に存在し続けています。

さきほどのアイリッシュ・パブや喫茶店は、これにあたります。時代が変わっても一定数のアイルランド音楽ファンがいます。アイリッシュ・セッションができる店は多くはありませんからお客さんが勝手に集まってくれるし、クチコミで広がっていきます。アイリッシュ・セッションの飲食費だけでお店が廻るわけではありませんが、一般客にとってもアイルランド音楽の生演奏が聴けるという「尖った特徴」であることは確かでしょう。

3つ目の方法は、これまでの常識を完全に変えてしまう斬新な発想をすることです。例えば美容室であれば派遣型の美容サービスにするとか、服屋であれば毎月自分に似合う服をコーディネートして宅配してくれるサービスを始めるとかです。このように、商品は変わらずとも時代に合わせて業態を変えてしまうことをいとわなければ、生き残っていけるのではないでしょうか。

長続きするには理由がある。どうやって生き残るのか?

僕の営むケルトの楽器店は日本ではおそらく初めて、店舗でたくさんの種類の輸入楽器を試奏して購入できる店というポジションを得ました。

珍しい商品と京都という立地のためか、遠方からもお客様がいらっしゃいます。さらに来店できないお客様のために業界で初めて宅配での試奏サービスも行っています。

ビジネスを軌道に乗せて継続させるためには、他店にはない強みとこれまで存在しなかった大胆かつ斬新な発想が必要です。まだ存在しないゆえにお客様すら気がついていないニーズや商品が必ずあります。これまでの成功に甘んじず、広い視野と複数の視点で自分のビジネスを見直し、アップデートをすることが生き残る秘訣だと感じています。

低空飛行で細々と続けられても、昔の常連さんに「あのお店、まだやってたの? 懐かしいねえ」と言われるようでは全然ダメです。常に若いお客さんや新しいお客さんを取り込む先鋭的なビジネスでありたいと考えています。みなさんは、どうやって生き残りたいでしょうか?

□ ANOTHER STORY

HOMARE YOSHIZAKI

sumida

machiko-machikado

ケルトの笛 hatao