輸入ビジネス日本の常識、海外の常識

弊社「ケルトの笛屋さん」は、ケルト音楽専門楽器店として、多くの種類の伝統楽器を、10カ国以上の国々から輸入しています。これまで輸入ビジネスを10年以上営んだ中で、海外取引先とのトラブルは数々ありました。今回はそんな経験をシェアしたいと思います。

日本の常識が通用しない

日本の商取引では、とにかく正確性と完璧さが求められます。納期は絶対に守るべきもの、商品は清潔に包装され、傷ひとつあってはならない……など。いつからこのような常識になったのかは分かりませんが、完璧さを求める消費者の姿勢は、販売者に必要以上のストレスと無駄を強いることになり、昨今批判されている日本の生産性の低さの原因となっていると私は考えています。

海外メーカーと取引しているとそんな常識は全く通じず、私のような輸入業者は時として日本の消費者との板挟みに苦しむこととなります。

海外での「当たり前」とは?

どんなところが日本の常識とは違うのか、具体例を挙げてみましょう。

・納期は「だいたいの目安」に過ぎない
多くのメーカーは在庫があればすぐに出荷し、なければ目安の納期を伝えてきます。
楽器は工業製品ではなく職人が手作業で製造することも多く、そのような場合、納期は単なる目安で、当然のように遅れます。その遅れも何ヶ月、何年になることもあり、あまりに長い場合は注文が忘れられていないか確認が必要となります。遅れの理由としては、楽器職人が現役の音楽家であることも多く、演奏会のシーズンになると工房に戻らない、病気をした、バカンスに出ていた、などがあります。

・梱包はテキトウなこともある
日本では楽器を買うと、製品マニュアルや保証書、メンテナンスグッズと一緒に、商品が専用の段ボールに綺麗に収められて届くことが一般的です。一方で海外ではメーカーによりまちまちで、そのような丁寧なパッケージのこともあれば、新聞紙にくるまれてその辺の段ボールを再利用した箱で送られることもあります。フレンドリーで職人が身近に感じられる演出とも言えますが、日本の基準ではがっかりするお客様もいるかもしれません。そのような場合、弊社では綺麗な段ボールに入れ直して、日本語の製品マニュアルを付けてお送りしています。

・細かな傷や汚れは気にしない
日本では、新品の楽器を買った際に少しでもひっかき傷、指紋のあと、塗装の塗りむら、金属部分のサビなどがあればクレーム対象になるでしょう。それを理由に返品や交換、値引きを求めるお客様もいるかもしれません。
しかし輸入楽器となれば、そのようなことはある程度は目をつむらなければなりません。なぜなら、交換を求めても、また同じようなレベルの楽器が届く可能性があるからです。

・品質が不安定
日本では、すべての製品は検品をして、完璧なものだけが出荷されます。一方で海外の楽器では、意図せずして不完全な状態で出荷されることがあります。楽器によってさまざまですが、単に外観が不完全なものから、音が鳴らない、部品が正しく整備されていないということまであります。弊社では入荷時と販売前に簡単な検品をして、問題のある楽器は調整してから出荷するなどしていますが、個人輸入する方はこのようなトラブルも想定しておいたほうが良いでしょう。

クレームの全てを伝えているわけではない


お客様からは、納期をきちんと守れ、楽器にシミがある、などお叱りをいただくことがありますが、私はお客様の声の全てをメーカーに伝えているわけではありません。日本の常識を押し付けると、相手からは面倒くさがられるのが目に見えているからです。プラスチック製品のように画一的ではない、革や木などの自然素材なので、部材にとってどうしても不完全な部分が出てしまうことがあります。

海外では、機能にまで関わる問題でなければ目をつむる、多少の問題であればお客様が自分でなんとかする、という大らかさがあると感じます。あまりに細かいことでクレームを頂いた場合は、残念ながらお客様の求める高い基準を満たすことができないので返品するか受け入れるかをお願いしています。
私は、あまりに高い品質基準を求めると、輸入楽器で満足なものに出会うのは難しいと感じています。自ら楽器について学び、修理や改造しながら使うくらいのDIY精神があるほうが、ストレスなく楽しめることでしょう。

問題への対応はさまざま


こうした問題が起きた時に、メーカーの対応はさまざまです。メーカーとしても、できることであれば交換対応してあげたいところでしょう。しかし国をまたいで商品を送り合うのは簡単ではありません。一つは高い国際送料、そしてもう一つは輸入時の消費税の問題があります。国内での取引のように楽器を返品して、送料を負担してもらうという問題では済みません。

日本人の感覚ではそれらのコストは当然メーカーないし販売者が負担すべきだと考えますが、そのような立場を弊社が主張したら、メーカーから取引停止を受けるか、無視されるのが関の山でしょう。

ここまでの深刻な問題は滅多に起きないのですが、たまに起きてしまうと弊社としても大変苦しい状況になります。もちろんお客様に「運が悪かったので諦めてください」と言うわけはありませんので、最低限ご返金をしますが、その後は弊社とメーカーの間で問題を処理することになります。次回の注文時に値引きしてもらうとか、国内で修理先を探してその費用は負担してもらうといった方法で解決することが考えられます。

ポリシーを持つ

輸入商品を扱っているとメーカーとお客様との間に立ってそのギャップに苦労することがあります。どのような状態であればメーカーに対応を求めるのか、またお客様が満足できなかったときにどのように対処するのかについては、しっかりとしたポリシーを持つべきでしょう。それは自分自身、お客様、メーカーの三者すべてを守ることにつながるのです。

また、もしこの連載を読んでいる方が経営者側でなく消費者側であれば、あまりに完璧を求めることはメーカーや輸入業者の負担をいたずらに大きくすること、また輸入品の値段が現地価格より高くなってしまうのは、こうしたコストが含まれていることを理解していただければ幸いです。

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