[輸入業] 歴史的円安でも楽観視している理由

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。

歴史的円安の中で海外旅行

 今、私は2週間の海外旅行の最中で、フランスとトルコに滞在しています。そんな中でさきほどドル円のレートが160円を超えたというニュースが入りました。34年ぶりの円安水準だとのことです。為替相場は旅行の出費に大きな影響を与えます。出国前にすでに150円台が常態化していたので、ある程度の出費を覚悟していましたが、やはり外食や観光地の入場料などとても高く感じます。

トルコの楽器屋さん

今回の旅行で、飛行機や観光地で日本人らしい人にはほぼ会いませんでした。もちろん全くいないわけではないのですが、昔を思うと減った印象を受けます。バックパッカー風の日本人となると、一人も見ていません。

90年代のバックパッカーブームの影響を受けて海外貧乏旅行の魅力にハマった私としては、当時気楽に海外旅行ができたのは強い日本円の背景があってこそだったのかと痛感しています。当時はヨーロッパの両替所に日本円の交換レートが出ていたことを誇りに感じていたのですが、今は日本円を掲載していないところも多いようで悲しい思いです。

通貨安インフレのトルコの現地感覚

日本円は後進国を含むほぼすべての通貨に対して負けている「独歩安」です。その中で円が例外的に勝っている通貨がトルコリラです。トルコリラは暴落が激しく、ドルに対しては10年前と比べて20分の1程度に値下がりしています。円で考えると、1ドル100円から2,000円になっているイメージです。日本円はさすがにそこまでは落ちていないので、相対的にトルコリラに対しては円が値上がりしているということです。ここ1年でも、昨年は1リラ約7円だったのが約5円になっています。

現地通貨に対して円高なら、安く旅行できると思うでしょう。例えば、為替レートが20%値下がりしたのなら、去年100円で変えたジュースが80円で買える、ということになるのですから。私もトルコに入国するまではそのように考えていました。しかし、実際はすごく高いのです。例えば空港から市内へのバスは400円くらいだとガイドブックに書いてあったのに、実際は800円ほどしました。食事は一食500円くらいで済むと書いてあったのに、実際は1000円を超えています。物価の安いトルコでのんびりしようと思っていたのに話が違うじゃないか、と感じました。

その理由は猛烈なインフレです。トルコは昨年1年間で65%もインフレをしています。これは、先ほどの例で言えば100円だったジュースが翌年は165円になっているということです。いくら円が20%上がったとしても、それを打ち消すどころか、大きな値上がりとなります。なお、インフレに対抗するために最低賃金も年間50%〜100%値上がりしているので、現地の生活感覚としてはインフレに賃金上昇が伴っており、インフレ率ほどには生活が厳しいと感じてはいないようです。

今回の滞在中に現地の方と話す機会があったのですが、こちらでは短期間で物価が大きく上がるので頻繁に値段を変えなくてはならず、現金預金はインフレ下では意味がなくなるので、生活費を除いて収入をすぐにユーロやドルの外貨、金などの現物資産に換えているとのことでした。

通貨安インフレでの輸入ビジネスの舵取り

この通貨安が生活者、経営者に与える影響を考えてみます。

昨年から光熱費や食費が高騰したと話題になっています。日本はエネルギーや原料、食料を輸入に頼っているので、円安は原価に直結し、インフレを引き起こします。この春の円安の影響は秋以降に出てくるでしょう。今後の為替が円安方向に振れるほどその影響は大きくなります。

インフレで最も影響を受けるのは退職金や学資を現金で貯金している世帯です。残念なことですが、日本人の多くは資産を現金で貯金しているため、インフレによって資産を目減りさせることとなります。次に借家住まいの人と変動相場で住宅ローンを組んでいる人でしょう。円安が進むと外国人投資家から不動産市場に資金が入り、家賃は値上がりします。また、円安を抑制するために金利を上げるとローンの支払いも増えます。

インフレに対抗するために政府は賃金を上げようとしています。従業員には嬉しいことである一方、経営者の立場としては従業員への支払いが増えることを意味しています。

以上のことから、輸入ビジネスの経営者としては、買い付け資金が円安によって目減りし、インフレによって事業経費が膨らみ、従業員への支払いが増え、それをカバーするために値上げすると売れ行きが悪化する、という何重苦にもさらされるのです。

歴史的円安でも楽観視している理由

昨今の円安は、私が輸入業を始めてから経験したことがない水準です。円安が最も影響を与えるビジネスは輸入業と言われていますが、私は現在の状況を悲観していません。それは、弊社の需要はまだ強いからです。昨年からの急激な円安にも関わらず、昨年秋からこの春にかけて、弊社では度重なる値上げに関わらず好調な売り上げを保っています。

それは弊社がニッチなビジネスであるため市場一強で、原価の高騰を売価に直接転嫁できているからだと考えています。この歴史的円安の中で輸入業に新規参入しようという人はいないでしょうから、円安になるほど市場一強の存在感は増します。値上がりに対して需要は相変わらず強く、海外の希少な手作り楽器で供給が足りていないため、当社で10年前に比べて2倍の価格に値上がっているのによく売れています。

為替変動に伴い仕入れ原価は大きな値上がりをしているのですが、一定の利益率を確保しているため、粗利も増えてスタッフの賃金も上がっています。弊社に限ってはインフレに賃金が追いついていると考えています。

ただしこれには限界があり、価格があるレベル以上を超えると購買力が追いつかなくなります。賃金の上昇が伴っていけばインフレと賃金上昇の波に乗り好調を継続できるのですが、こればかりは私にはどうにもできません。

もし賃金が上昇しなければ、かつて60年代の頃輸入品が「舶来品」としてありがたがられていたように、輸入楽器も一部の富裕層の楽しみとなってしまうのかもしれません。もちろん、私はそうはならないことを願っています。

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