春から夏へ。各地でいろんな花が咲き、野山を賑やかせる季節です。毎年この時期はオフィスにいてもそわそわしてなかなか仕事が手につきません。
ワタクシの花暦の中でも、丹沢の稜線でシロヤシオとトウゴクミツバツツジが咲き、甲相駿三国国境の稜線でサンショウバラが散ると6月。お次は県外、山梨県甘利山にロックオンです。
甘利山ってどんなところ?
甘利山は、山梨県西部、富士川上流の釜無川右岸にあって、甲府盆地を見下ろす南アルプスの前衛的な立ち位置です。前衛といえども標高は1731mと丹沢最高峰蛭ヶ岳に匹敵する高さですから、登山の対象として山麓の武田神社付近からアクセスすれば、かなり歯応えがあるでしょう。かつては南ア鳳凰三山へのクラシックルートとして、歩く人も希な玄人好みの静かな山だったようです。
ただ、今では韮崎市街から県道甘利山公園線が山頂付近まで延びているので、小1時間のワインディングロード走行、ハンドリングテクニックさえ備わっていれば、駐車場のある広河原から山頂へは徒歩30分です(笑)
標高の高いところでは、ダケカンバ、シラカバ、カラマツ、ツガ、シラビソなど、南アルプスらしい亜高山帯の植生が見られる一方で、山頂付近は開けて草原状になっていて、甲府盆地を見下ろし、盆地を取り巻く奥秩父、大菩薩連嶺、御坂山地などの山並みも一望にできます。運が良ければ御坂山地の向こうから富士山が覗いていることでしょう🗻
余談になりますが、この山頂の草原、そもそもは山麓の住民の萱刈場だったのかもしれませんが、昭和、戦後の時代にはスキー場も開設されて賑わったそうです。山梨にスキー場があるのかよ?なんて声も聞こえてきそうですが、現役のふじてん(富士天神山)や清里のほか、かつては奥秩父の乙女高原など小規模ながら各地にスキー場が存在したようです。
今では山頂部一帯に群生するレンゲツツジが、6月に入ると満開となって甘利山山頂を彩り、今や甘利山の最も魅力な一面となっています。ラッキーな人は富士山をバックにお花の写真が撮れる…更にラッキーな人は雲海が出て富士山が浮かぶので、レンゲツツジの咲くこの時期は多くのカメラマンが訪れる山でもあります。(2021.6払暁の雲海と富士)
登山口から5分の楽園
6月上旬の週末。眠気に時折蛇行運転をしながら甘利山に向かいます。神奈川県西部の我が家からは、御殿場、富士五湖経由で甲府盆地に向かいますが、河口湖畔の大石公園は休憩にちょうど良い場所です。季節によってコキアやコスモスなど花が咲くので、日中は多くの観光客で賑わう公園ですが、早朝の時間は静かなものです。残念ながら、この日は薄曇りで富士山はイマイチでしたが、湖畔の葦原ではギョギョシギョギョシ…とオオヨシキリが盛んに鳴いて、初夏の季節感を味わえました。甘利山公園線で広河原へ。どんよりお空も標高を上げれば雲の上に出るのではないか…という甘い期待は見事に打ち砕かれました…orzしかし、予報では天気は回復方向なので、広河原に到着しても慌てることはありません。駐車場にいる人たちもお茶を沸かしたりして、どこかくつろいでいました。
先ずは甘利山山頂のレンゲツツジの群生地に向かいます…というか、駐車場の外れから満開のレンゲツツジが出迎えてくれます(笑)毎年、ご当地韮崎市の観光協会がツツジの開花状況を提供してくれるので、花の咲き具合はベストなんですが、お天道様だけはどうにもなりません。曇天模様で鮮やかさに欠けるのがなんとも残念です。富士山も頂上部が見えたり隠れたり…orz甘利山の山頂はレンゲツツジの群落の中にあります。平日なのとお天気のせいか、訪れる人はポツポツでした。いつもならば、甘利山から西に延びる稜線を辿って、奥甘利山、更に標高2千m超の千頭星山まで歩いて南アルプスらしい高山の雰囲気を楽しむのですが、稜線に雲がかかっていたので、イマイチその気にはなれませんでした。(黄花もあるでよ)
神秘の大笹池
それならば趣向を変えて、南の斜面に延びる道を下ることにしました。こちらには似て非なる花、ヤマツツジが賑やかです。
南面を下ってカラマツの樹林に入るとすぐに東西に分岐します。東に入ると甘利山のクラシックルート。県道甘利山公園線に沿って椹池を経て韮崎市街方面に下ります。逆に西に入ると南甘利山を経て千頭星山と甘利山に囲まれた凹地にある大笹池を経て、御庵沢沿いに南アルプス市の芦安方面へ通じています。(花は山つつじの方がかわいい?)
昼間でも薄暗いカラマツの樹林は下草に笹が茂って深山の雰囲気があります。時折、斜面を駆け下る動物の気配を感じますが、おそらく鹿の群れでしょう。あえて追わないでおきます。違ったら怖いし(笑)南甘利山から急下降すると凹地の底に大笹池という池があります。山中の神秘的なたたずまいですが、それなりの伝説がございますのでご紹介しましょう。その昔、山麓下條村に一人の老婆が暮らしておりました。ところがある日、前触れもなく老婆の頭に2本の角が生えてきたそうで、それ以来、老婆は人目を忍んで暮らすようになりました。それがひょんなことから周囲に知れてしまい、悲しんだ老婆は甘利山の中腹にある椹池(さわらいけ)に身を投げてしまいました。人々の間には老婆が大蛇に姿を変えて椹池に棲みついたとの噂が流れたそうです🐍
それから幾歳月…山麓を治める豪族甘利左衛門尉の子二人が椹池で釣りをしていたところ、誤って池に落ちてそのまま沈んでしまいました。ところが一向に遺体が浮いてこないことから、子供は大蛇に呑まれたと噂されるようになりました。そこで、甘利氏は家臣・住民に命じて池に石や倒木、汚物💩を投げ込ませたそうですが、椹の木を投げ込んだところ、大蛇が赤牛に姿を変えて、更に山奥の大笹池に逃げ込んだそうです。行方を突き止めた人々が更に追い詰めたところ、今度は山を下って山麓八田村の能蔵池に逃げ込んで行方をくらましたそうです🐂…
赤牛でも大蛇でも老婆でも出現しそうな(一番老婆が怖いかも)神秘的な大笹池ですが、その畔には赤くてかわいらしいクリンソウが群生していました。「九輪草」と書かれるように、1株にいくつもの花を四方八方に咲かせます。暫し、花の群落の中で休憩しました。
今回は清良平を偵察
甘利山から大笹池までは何度か訪れたことがありましたが、今回はここから更に芦安方面に下った清良平という場所まで足を延ばしてみます。
しばらく樹林帯の踏み跡を下っていくと所々すり鉢状の地形が目につきました。一昔前までは、大笹池のような池が点在していたのかもしれません。(笹やぶからウグイス飛び出した)
下った先は平たんな林内に大きな岩が点在する場所に出ました。古い表示には「御殿庭」と記されていました。雰囲気といい地名といい、富士山の山麓を歩いているみたいです。後々調べると、御殿庭は清良平の最奥部に位置するようでした。御殿庭からミズナラの森を歩いていくと、林相はシラカバに代わり、樹林に囲まれた草原状の場所に到達しました。こちらはその名も白樺平。未舗装ながらも林道が通じていて簡易トイレも設置されていましたが、キャンプでもやりたくなるような雰囲気の良い場所です。が…?!白樺の切り株にいわくありげな鉄兜が。夜な夜な軍靴の音や軍歌が聞こえてくるかもしれませんね。実は軍歌は得意ですが( ̄О ̄)ゞ~♬(白樺になった兵隊さん伝説?)
清良平の中を通じる林道を歩いていくと、所々湧水があって、そんな場所にはクリンソウが群生していました。(ヒガラさん)
やがて大笹池に端を発する御庵沢に出合います。御庵沢にかかる元滝も清良平の見どころのひとつです。落差約30mの滝は水量もあって実に勇壮です。しかし、訪れる人はほとんどいないようで、観瀑台や導入路は荒廃していました。さて、甘利山から随分と下ってきました。このまま探求心に任せて芦安方面を目指したいところですが、車を広河原に置いていたことを忘れてはいけません。仕方なく下ってきた道を上り返していきます。上りは実にきつく感じました。(キバシリさん)
汗をかきかき甘利山の西に位置する奥甘利との鞍部に到達しました。この頃になると爽やかな青空が広がっていました。富士山は相変わらず見えたり隠れたり(笑)欲を出しても切りがないので、来年の新たな発見を期待して撤退することにします。(ちょっとだけよ💖🗻)
お昼前に広河原に下って、山荘でジビエカレーと梅ジュースをいただきます。お肉いっぱいのカレーは実にジューシーでした🍛あ、確か1年前も同じセットを頼んだよなぁ(笑)今回もご笑覧いただきまして、ありがとうございました。