古本って何?

古本って何?

古書店に並んでいる本は、いわゆる古本です。では、それをお客様が買って行って自分の本棚に並べたらどうなるでしょう。それはただの「本」です。あるいは、古本で買った「本」。

では、古本屋の棚に並ぶ前、もとの読者の手元にある間はどうでしょう。もしかしたらずっと前からそこにあって古びているかもしれませんが、やはりただの「本」ですね。

古本屋が買い取って、お客様に売れるまでの間が古本です。ただ単に古い本をさすわけではありません。

古い本と言えば、人によってどのぐらいの過去が「古い」に属するのかは、かなり違います。買い取りの依頼などで「古い本があるのですが」と言われたら、必ず具体的な古さをききます。中には5年ぐらいでも「昔の本」と言う人がいるのです。5年は早すぎるとしても、20年ぐらい前を古いとか昔とか表現する人は多いようです。

古本屋にとっての古い本

ではお前はどのぐらい前なら「古い本」と言うのかときかれそうです。古本屋にとっては、その本が世の中からなくなって稀少価値が出てきたころから「古い」と感じられます。外国の純文学的な翻訳書などは、すぐに品切れになってしまうので、10年ぐらいでも古いかもしれません。専門書などもそうですが、初めから発行部数が少ないのですぐに稀少価値が出ます。

週刊誌や月刊誌は、もとの発行部数は多いのですが、みんなすぐに捨てられてしまうので、意外に早く30年ぐらいで稀少価値が出てくる場合があります。もちろんすべてがそうなるわけではなく、そういうものもあるということです。

一方でベストセラーの小説などは、単行本の他に文庫化されたり、他の出版社から再刊されたりするので、稀少価値が出ることはほとんどありません。

古本屋にとって、古い本と言われたときに頭にあるのは、単に中古品なのかそれともプレミアがつきうるようなお宝なのかということです。お客様の方でも、それを期待して相談しているのか、それとも「こんなものでも扱ってもらえるのか」と心配しているのか、そこを見極める必要があります。

傷んだ本

お客様によっては「古い」が時間的な何かをさしているのではなく、単に「古びて傷んでいる」ことを表現している場合もあります。茶色く変色した本、書き込みのある本、破れてしまった本。傷みにもいろいろあります。

本は紙でできているので、刊行後年数が経過すれば、必ず紙に変化が出てきます。紙の色は白かったものが茶色っぽくなりますし、しなやかだった手触りがごわごわしてきます。また、本の上や小口の断面からそばかすのようなむらのある変色が生じることがあります。これはフォクシングと呼ばれる現象ですが、空気中の微生物と紙の水分や有機物が反応して生じるものです。

これらの変化は時間の経過により自然に生じるものですから、極端に早く進んでしまったもの以外は問題ありません。人が年齢を重ねるとシワができたり、白髪になったりするのと同じで、どの本にも現れる経年劣化です。

ただし、ありふれた本で長く版を重ねて刊行されているものは、最近刊行された新しい本との比較になるので、古びたものにはほとんど価値がなくなってしまいます。

逆に、初期の刊行しかないものが、奇跡的に良い環境で保存されてきれいに残っていたとしたら、通常以上の価値がつく場合もあります。

書き込みや手擦れは経年劣化とは違い、人為的な瑕疵なので、一般的には価値が下がります。ただし、有名な人が所蔵していた本で、詳細な書き込みがあったりするとそのことで価値が上がる場合もあります。また、有名ではなくても、人の手から手へ渡ってきたその痕跡を貴重だと考える古書の楽しみ方もあります。

コーヒーをこぼした、破いてしまった、雨に濡れたなど、読書とはあまり関係ないところで生じた瑕疵はさらに価値が下がる要因になります。

古本屋は商品ではないものを商品にする

話がそれましたが、古本というのは一度人手に渡ったほんで、しかも今また商品であるような本です。古びていても所有者の本棚にあるうちはただの本ですし、誰かに買われてしまえば、もう商品ではなくなるので古本ではなくなります。新品ではないのに売り物になっているのが古本です。これは古着、中古車なども同じですね。

ほとんどの商店は、商品として製造されたものを仕入れて販売しています。たいていの小売店では、伝票とともに問屋さんから商品を仕入れます。しかし、古本屋は商品ではないただの本を買い取って商品にするわけですから、ここに飛躍があります。

誰かの本棚で愛されていた本に値段を付けるというのは、生きものを殺すような、自由だったものに首輪を付けて拘束してしまうような、少し怖ろしい行為です。

もとの所有者にとっての価値は、思い出や個人的な経験を含んだ特別なものです。それに対して、古書店が付ける値段は、世の中での評価を反映した一般的なものです。これは必ずしも一致しないというか、だいたいは大きくはずれています。

世間の評価にさらされた本のために、次の読者をみつけること。すべての本には無理でも、少しでも多くの本を、ふたたび世の中に送り出してあげること。これが本に値段を付けている、我われ古書店に課せられた使命なのではないでしょうか。

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