古本屋は肉体労働
本屋という仕事は知的に見られることがあります。とくに古本屋はインテリっぽいようです。しかし、仕事の内実はほとんど肉体労働です。古本屋の仕事の大部分は本を運ぶことです。
特に出張買い取りは古本屋の仕事の中でも最大級の肉体労働です。ある程度大量の本を売ってくださるお客様の場合、お宅に出張して本を買い取ることになります。数百冊から、多い場合は万の単位になります。
小説などの四六判の単行本なら1000冊でだいたい500㎏ぐらいになります。それを20冊ぐらいずつ束にして両手に持ちます。すべて運ぶには25往復ですることになります。書棚が2階だったりすると、かなりたいへんです。両手に20キロの荷物を持って階段を降りることを想像してください。
出張買い取りの依頼を受けたら
出張買い取りの依頼を受けたら、まず本の量と内容、そして住所を聞きます。近所なら気軽に行きますが、それなりの貴重な本がたくさんあれば遠方へも出張します。本の量はなるべく冊数ではなく、体積で聞くようにします。本棚何段分とか、膝の高さに積み上げて畳一枚分とかです。本の大きさはまちまちですし、お客様は本の数を正確に数えていません。たいていは適当に言った数字の倍ぐらいはあるものです。
本の内容を聞き出すのも、意外にむずかしいものです。たとえば「英語の本があります」と言われて、洋書が多いのかと想像していたら言語学の本だったり、「歴史関係」が時代小説だったりします。「いろいろ」とおっしゃる方も多いのですが、本当にいろいろな本を持っている方はまれです。恋愛小説から冒険小説までで、こちらの感覚としては全部文芸作品ということになります。
「古い本」も困ります。その方がどのくらいの時間感覚を持っているかわからないからです。5年10年でも古いと感じる方もいますし、明治大正かもしれません。「戦前ですか」と聞けば、だいたい具体的な年代を答えてくれます。一番困るのは、汚れたり傷んだりしていることを「古い」と表現している方です。
まずは買い取り価格を査定します
多くの古本屋がそうだと思いますが、原則としてまず本を見せていただいて、買い取り価格を査定します。特別な場合には、いったん預かって持ち帰ってから査定することもありますが、金額の折り合いがつかなかったときのことなどを考えると、先に査定しておいた方が安心です。
商談が成立したら、本を縛って運びます。古本屋はたいてい箱を使わずに縛って本を運
びます。これにはいくつか理由があります。まず、箱に入れると本が見えなくなってしまいます。これは毎日大量の
本を扱う古本屋にとっては致命的なことです。また、箱に入れて身体の前で持ち上げると腰に負担がかかり、ぎっくり腰などの怪我をすることがあります。縛った本を身体の両側に下げれば安全に運ぶことができます。さらに、箱に入れると体積が多くなってしまい、車に積みきれなくなってしまいます。縛ればぎっしり隙間なく詰めることができるので、箱に較べて体積が3分の2から半分ほどになります。東京の古書店ではだいたい45センチほどの長さの束にすることが多いようです。
本を縛って運びます
きれいに縛るのには経験が必要ですが、コツをつかめば本棚一つ分の本数百冊を10分から20分程度で縛れるようになります。コツの極意は縛り方よりも、その準備。まず本をちゃんと積み上げることです。同じ大きさの本を向きを揃えて45センチの高さに積む。これができれば縛りは練習でできるようになります。
縛った本は背表紙を上にして積み上げるのが最も安定します。ただしあまり高
く積むと下の本が重みで歪んでしまうので、注意します。ある程度しばったら、玄関まで運びます。日本の家屋は出入りの際に靴を脱ぎ履きする必要があるので、一度玄関に場所が許す限り置いて一気に外に運び出すのが効率の良い方法です。二人で作業する場合は玄関の内と外で受け渡しをすることもあります。学校施設などで、靴のままは入れるところは台車が使える事が多いので、途中に溜めることはぜずに本棚のあるところから一度に車まで持って行ってしまいます。
本の束を運ぶときには紐の中心部を持つようにします。そうすると両側から引き締まって本が崩れることがありません。持った本の束は身体の真横に来るようにして、両手に提げれば身体のバランスもよくて、腰画の負担を最小限に抑えられます。
車に積むときには
車に積むときには進行方向に対して平行になるように背表紙を上にして詰みます。車は前後に揺れるので、横向きに積むと発進や停止のときに崩れてしまいます。カーブのときには横向きに加速度がかかるので、うまく組み合わせて置いてください。ハイエースなどのワンボックスカーなら積載量1トンほどです。20冊10キロの束なら、100本載せられることになります。200冊です。窓に掛かるぐらいのラインで荷台一杯に積むとそのぐらいになります。
持ち帰った本は、どこかに降ろすことになりますが、背を上にして長期間置くと本が傷んでしまうことがあるので、倉庫などでしばらく置きっぱなしになりそうなときは表紙を上にして積むようにします。この置き方は非常に不安定です。何段も積み重ねる場合は壁などにもたせ掛けるようにして崩れることを防ぎます。
このとき硬い表紙の付いた本なら背の方が小口より少し薄いので、背側を壁に付けます。そうすれば本が壁にぴったりと寄り添ってくれます。もし背表紙を手前にすると、だんだんと壁から離れて、ついにはこちら向きに倒れてしまうでしょう。
今回は本を縛って運ぶことに終始してしまって、肝心な買い取り価格の査定方法については触れられませんでした。いつか機会があればお話ししたいと思います。