ホーホーホーケキョケキョケキョ

ガタンと外で大きな音がした気がして、昨日、というかさっき三軒茶屋の日産レンタカーで借りたばかりの黒色のNISSANのJUKEの運転席で飛び起きた。

さっき道にいて、車のライトに目を光らせていたシカが車にぶつかってきたのかもしれないと思い、周りを見渡す。けれどそんなことがあるはずもなく、シカの姿はそこにはなく、ただ外が明るくなって、ようやく周りに何があるかが見えるようになっていた。

運転席の窓を開けると、ひんやりとしたみずみずしい空気が車内に入り込んでくる。倒してあった車のシートを起こし、ドアを開け、外に出て身体を伸ばす。ばきばきと音を立てて、その音に少し驚く。空を見上げると、2日後の新月に備えて爪のように細くなった月が、申し訳なさそうにこちらを見ている。

新しい朝だ、希望の朝だ、と小声でつぶやいてみながら、車に乗り込み、エンジンをつけて少し車を移動させる。大きく広がった草原のところどころに地面がむき出しになった道のようなものがあり、それに沿って進んでいく。その道から少し乗り上げたところに車を停める。

車のトランクを開け、持って来ていたやかんに地面から突き出た水道管から水を汲む。キャンプ用のガスにくるくると金具を取り付けて、コックをひねり、ライターで火をつける。

周りの木々からさまざまな鳥の声が聞こえてくる。うぐいすのホーホケキョが、カエルの歌のように輪唱していて、ホーホーホーケキョケキョケキョ、ホーホーホーケキョケキョケキョ、と聞こえる。もう少しもったいぶって鳴いてもいい気がしたけれど、みんな新しい希望の朝に鳴かない訳にはいかないのだなぁ。

テーブルを持って来ていなかったので、置き場に困り、車のトランクに置こうかと一瞬考えたあと、諦めてシロツメクサが生えた原っぱにそのまま置いて、汲んできた湯を湧かす。何ともシュールな光景。こういうシュールさが大好きだ。

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ずっと昔にもらったステンレス製のコーヒーミルに、この間浜松のBOOKS AND PRINTSで買ったコーヒー豆を入れて、挽き具合を調整するつまみをひねり、ぐるぐると挽いていく。がりがりと音を立てながら豆を挽いている間に、やかんの蓋がかたかたと音を立てはじめて、朝の新鮮な空気の中に湯気が広がっていく。

革のひもをとめる木の部分の取れてしまったケメックスに、サイズの合わない円錐型のフィルターを合うサイズに折って、そこに挽きたての豆を入れると、ふっと香ばしい香りが鼻をつく。

少し細かくしすぎてしまったなぁ、と思いながら、そこに湯を注ぐ。少し蒸らそうと思って手をとめて、後ろを振り返ると、遠くに見える山の稜線がさっきよりもだいぶ明るくなってきている。

豆の匂いをかぎながらぽたぽたと湯を落として、淹れたてのコーヒーをカップに注ぎ、だんだんと明るくなっていく空を眺めながらコーヒーを飲む。

草原で、朝焼けを見ながら、淹れたてのコーヒーを飲む。

ということがずっとやってみたかった。

たまにキャンプに行っても、前日の夜に飲み過ぎて、結局一番最後に叩き起こされるタイプなので、なかなか実現しなかった。

 

先日、撮影のロケハンで、朝焼けの時間にあわせて山に行ったので、やってみました。最高でした。その一杯を飲む為だけに、行ってもいいな。

 

 

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Shingo Kurono

□ ANOTHER STORY

ゆっけ

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