hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

私が二拠点居住をやめた理由

こんにちは! ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営している、フルート奏者のhataoです。この連載では私のようなスモールビジネス経営に興味のある方に向けて、私の経験やアイデアを発信しています。

コロナ以降の働き方・暮らし方の変化

新型コロナウィルスの流行が始まった2020年以降、出社しない働き方「テレワーク」を積極的に採用する企業が増えました。営業職や事務職、エンジニアなど現場に出向せずに仕事を終えることができる職種を中心に、在宅やカフェやコワーキングスペースを利用してオンラインで働くスタイルが広がりを見せています。

さらには職場から遠く離れて海外やリゾートから、また旅行しながら働くなど、好きな場所に住むことを仕事に優先する人々が報道番組で取り上げられています。コロナ禍以前にも、定住せずに自由な生き方を謳歌する成功したブロガーや投資家は「ノマド・ワーカー(遊牧民のように暮らす人)」と呼ばれていましたが、場所を選ばない働き方が一般の労働者にも取り入られるようになったことは、大きな社会的な変化でした。

このような自由な生活スタイルのひとつに、「アドレス・ホッパー」や「多拠点居住」があります。アドレス・ホッパーとは、定住せずに短期間ですみかを転々としながら様々な街に暮らす人のことを、多拠点居住とは、都会の自宅と田舎の別荘やシェアハウスなど複数の拠点を行き来して暮らす人のことを言います。このようなニーズを捉えるために、月会費を支払えばいつからでも、いつまででも暮らせる手軽な「住まいのサブスク」サービスを全国的に展開する企業も現れました。

 旅行好きな私は「旅しながら働く」暮らしにあこがれてキャンピング・カーを手に入れ、またコロナ禍以降、和歌山県のセカンドハウスの開発に力を入れるようになりました。そんな二拠点生活を2年間続けたのですが、近頃は限界を感じており、来月から完全に和歌山県に移住しようと考えています。

 今回の記事では、二年間、二拠点居住をした私がその負の側面をお話します。

私の二つの拠点


私のひとつめの家は兵庫県の都市部にあり、6年前から会社のスタッフと一緒に2人で暮らしています。もともとは月6万円の家賃で借りていたのですが、家の老朽化が激しく、シロアリ被害が出たりベランダから雨漏りをしたりと問題が多かったため、今後借家として運用するには維持費がかさむことを伝えて大家さんに安値で売却いただくよう交渉し、社宅兼倉庫として買い取りました。都市部にあって生活にも仕事にも便利です。

もうひとつの家は和歌山県の山間部にあります。5年前に知人が売りに出していたのをたまたま発見し、もともと田舎暮らしに興味があり、また以前に訪れたことのある場所だったため購入しました。当時は自家用車がなかったのでレンタカーで年に数回通っていましたが、コロナ禍が始まって音楽の仕事が一気になくなってしまったことと、自家用車を手に入れたことをきっかけに、頻繁に通うようになりました。こちらの家でも最低限の生活に不自由しないように、生活家電を買い揃えてあります。

この2年間はこれら2つの家を行き来して暮らしています。楽器店経営の仕事はノートパソコン1台とインターネットがあればどこでもできるのですが、音楽家としてコンサートやレッスンもしており、人と会う必要があります。もっともコロナ禍以降は音楽業界もオンライン化が進み、レッスン、リハーサル、コンサートすべてオンラインで完結できるようになりましたが、2022年になって人々がオンラインに飽きたのか、対面コンサートがまた以前のように増えてきました。たしかに、ライブの音楽体験はオンラインで補えるものではありません。

コロナ禍が始まった2020年は1ヶ月くらいの長い単位で和歌山の家に暮らしました。このときは、季節の移ろいや草花の入れ替わりをこの人生で初めて身近に感じ、音楽にも打ち込むことができて幸せな時間でした。一方で2022年は都市部での仕事が増えて、和歌山の家に行けるのは月に2回、それも23日程度です。この頃から、二拠点居住には無理があると感じ始めていました。

二拠点居住をおすすめしない理由


・移動時間の問題
私の場合、2つの拠点の間は車で片道4時間かかります。23日であれば、3日のうち使えるのは中の1日だけで、ほとんど運転と家の手入れをするために行っているようなものです。長時間運転は疲れます。着いて日が暮れてしまっていたりすると、食事をしてお風呂に入って寝るくらいしかできることがありません。

これに関しては、私が遠すぎる場所を選んでしまった後悔もあります。東京から1時間も走れば、そこそこの田舎に行くことができるでしょう。2時間も走れば山梨県や長野県にも行けてしまいます。セカンドハウスは、車で2時間圏内にすべきだと思います。

・交通費の問題

移動に使うガソリン代と高速料金で、私の場合は往復6,000円くらいかかります。月2回、年に24回行き来すると20万円くらい。最近はガソリン高のため、私のような遠隔拠点との往復はさらに痛手に感じるでしょう。

・荷物のパッキングとセットアップが大変

拠点間を移動する際に、PC用品、仕事道具、食材、生活用品といったものをパッキングして車に積み込むのに30分ほどかかります。これを着いてからまた荷降ろししてセットアップするのに30分かかります。

 ・食材が無駄になる

二拠点生活をするためには、最低限の調味料やお米やパスタなどの食材をどちらの家にも置いておく必要があります。食品には賞味期限があり、一人暮らしで余らせがちなのに、これではさらに使い切れなくなってしまいます。旅行の予定を考えて食品を買うことも面倒に感じます。

・インターネット代の問題

二拠点で仕事をするためにはどちらの家でも高速インターネットが使える必要があります。なお田舎の私の家ではモバイルWiFiは電波が入りません。

 ・家の管理にかける時間とお金がかかる

田舎の家では、夏は草木が勢いよく伸びます。大雨が降れば側溝やヒューム管が詰まることがあります。そういった家の管理は自分でしなければいけません。もちろん、都市部でも家の周りの清掃は必要でしょう。23日で田舎の家に行って、草刈りだけで終わったときほど虚しい気持ちになることはありません。

 ・ペットとの多拠点生活の難しさ

私はペットのうさぎを飼っていますが、うさぎにとって車での長時間の移動はストレスになるので、短期間の滞在のために連れていくことはできません。私が不在の間はスタッフが世話をしてくれていますが、業務以外でスタッフの時間を奪うことは申し訳なく思っています。

 ・通いで家庭菜園は不可能

田舎の家では、小さな畑で野菜を作っています。私がいない間も自動散水機が時間通りに水をやってくれています。しかし、2週間も空けてその間の世話を怠れば、まともに育つはずがありません。それに、ひと気が無いのを良いことに鹿や猪などの野生動物が侵入して台無しにしてしまいます。

多拠点に向いている人

都市と田舎の多拠点を目指す場合、多くの人は私のように都会では利便性を、田舎では自然を享受しようという目的があるでしょう。しかしこのような暮らしは全く効率的ではなく、多くのコストと無駄を強いられます。

田舎の別荘に憧れる気持ちは分かるのですが、年に何度かスポーツやハイキングを楽しむ程度であれば旅先でホステルや旅館を利用したほうがずっと安く済ませられることができます。

 それでも私が田舎の家に強い思い入れがあるのは、好きに家を増改築したり、広い土地を利用して自給自足的な暮らしをしたり、楽器や木工房など周りを気にせずにやりたいことができるからです。私はそのために、むしろ都市での暮らしを手放そうとしています。

 こんな苦労話を読んでもなお多拠点生活がしたいというのであれば、こんな方が向いているでしょう。「独身、ペットなし、オンラインで仕事が完結する、運転が苦にならない、持ち物が少ない、生活資金に余裕がある……。」

今回は多拠点居住のリアルをお伝えしました。また次回の連載でお会いしましょう!