街角 マチコ

ロシア生まれの電子楽器、“テルミン”の演奏家。 国際的怪電波ユニット“ザ・ぷー”という音楽ユニットで活動する傍ら、テルミン教室“テルミン大学”を主宰。 現在60名ほどの生徒にテルミンを教えている。 ライブではたくさんの人に、教室ではひとりひとりにテルミンという楽器の魅力を伝えるべく奮闘中。 NHKで放映されたサカナクションの音楽番組「シュガー&シュガー」でテルミンを担当。 PV「テルミン・テルミン」⇒ https://www.youtube.com/watch?v=q68rViaWvSU

「触らない楽器」への愛着とは? #77

先週、まあまあショッキングな事実に気づいたので、そのことを書いてみようと思います。

私は同じテルミンを2つ持っていて、ひとつは家に置きっぱなし、もうひとつは持ち出し用としてスーツケースに入れています。

教室やライブのときはそのスーツケースを持って出かけるのです。

どちらも体の一部のような、空気のような存在と言ってもいいかもしれません。

楽器への愛着って、一体なんだろう?

と考えてしまう出来事がありました。いえ、特に出来事はなかったんですが、

いつものようにスタジオに到着して、テルミンを組み立て、そこに生徒さんがやってくるまでの5分くらいの間にふと気が付いたんです。

MOOG 50周年のロゴ、めっちゃ剥げてる!!

知ってました、剥げてることは。もう何年も。

TVの収録で、企業のロゴを隠すためにADさんが黒ガムテを貼って、収録後にはがしたらこうなりました。笑

でも別に何とも思っていなかったんです。バンドマンの楽器ケースに、ライブハウスのパスがたくさん貼ってあるのと同じ、この剥げもその日の思い出。

家に置きっぱなしのテルミンには無くて、持ち出し用テルミンにだけ付いているこのエンブレム。購入した年がたまたま50周年だったので、想定外に付いてきて、実ははずそうと試みたくらい、特に思い入れがなかったのです。

でも、その日ふと、急に、「この無頓着な感じはあまり美しくないんじゃないか?」

そんな当然といえば当然のことに、急に気づいたのでした。

今まで、空気のような存在すぎて、知っていたけれども、ちゃんと見ていなかったんだと思います。

それって、もしかして「触らない」から??

そんな疑問がふつふつと湧いてきました。

テルミンには楽器の「手触り」がない

例えば、バイオリンを弾いていたときは、左の肩と頬で楽器を挟み、自分の楽器には慣れ親しんだ手触りがあります。

それがテルミンにはない。

さらに、バイオリンは自分が発した音を、耳元で、自分が一番近くで感じることができるわけですが、テルミンは電子楽器ですから、スピーカーからしか音がしません。

時と場合によっては、お客さんにはよく聞こえるけど、自分には聞こえづらいということも。

でも、大事な大事な楽器には変わりないはず。人のテルミンよりも自分のテルミンで弾きたいという気持ちも、もちろんある。

触らないけれども、いつも鏡のように楽器と向かい合い、もっとこんな風に弾きたい!もっとうまくなりたい!と思っている。自分の手の感覚と、耳を澄まして音に没入している状態。つまり、その時は楽器を見ていない。

どうやら、楽器の「外見」という概念が無かったみたい。

じゃあ、これは?

机にあるお気に入りの時計。

もしも、この絵柄が、何の絵柄だかわからないくらいに、半分剥げていたら?

時間を知ることは出来るけれども、それじゃあまりにも残念すぎます。

謎は解けたっ!!

鑑賞してるってことですね、これは。

全力でテルミンを弾くとき、一切楽器を鑑賞していない。

まあ当然なんだけれども、演奏を聴く人はそうではないですね。

演奏と併せて、楽器を鑑賞しているはず。

そんなことを考えていきたいなと思っています。