山笑海笑

神奈川県西部在住。丹沢や大磯丘陵を歩いて、風景を楽しみ動植物を愛でるのが好きです。週末は郊外に出て山野を歩き回っています。令和5年は転勤で名古屋周辺を楽しんでおりましたが、1年で帰ってまいりました( ̄О ̄)ゞ

富士山麓 おっさん笑ふ

本邦最高峰の富士山。昔から「一度も登らぬ馬鹿に、2度登る馬鹿」といわれるように、日本人ならば誰もが一度は頂に立ちたい憧れの山です。かく申す、この山笑も富士山の頂には何度か立っておりまして、4つある登山ルートも一通りは味わっているそれなりの馬鹿野郎です(笑)(丹沢鍋割山から望む冬の富士山)

ところが、近年は外国人も含めて入山者が急増し、入山のあり方などが話題になって、年々敷居が高い存在に感じています。

実際に自分が登った際の感想を述べれば、空気が薄くて苦しいし、高山病で頭痛はするし、ご来光のタイミングで渋滞するし、ゴミや汚物が散見されるし、砂走りではドリフのコントで粉を被ったみたいに真っ白になるし…(人為的な部分は、改善されていることを信じています)

正直、最近は「遠くから眺める山でいいかな」と足が遠退いていました。でも、それで本当にいいのかな…

五合目から下があるじゃない

「富士山を描いてください」と言われたとき、多分、ほとんどの人は緑色をつかうことはないと思います。山麓には豊かな原生林の森が残されていますが、今一つ印象に残らないのでしょう。それと同じで、この豊かな森を歩こうと思う人はそう多くはないようです。(三国峠付近からの初秋の富士山)

ここ数年、ワタクシの富士山は、富士登山ではなく、富士山麓歩きになっています。樹海とも呼ばれる深い森には、ブナやミズナラなどの大樹も多く、そこに宿る草花、更には野鳥や昆虫たち。自然観察にはぴったりの場所なのです。

また、余談にはなりますが、青木ヶ原樹海という響きに、かつては心霊スポット巡りを嗜んでいたアングラな本能が刺激されるわけで…(笑)

そんな五合目から下の富士山の風景をご紹介します。

吉田口ルート

ご紹介するのは、令和5年7月下旬に歩いた際の風景になります。

富士山吉田口登山道といえば、五合目から山頂を目指す登山者数の約7割を占める人気ルートなのですが、富士スバルラインが開通する前は、富士吉田の浅間神社から山頂を目指すのが一般的なルートでした。今でも登山口から山頂まで完歩する猛者もそれなりにいるようです。

浅間神社から約8km先の馬返しまでは、舗装された林道になっています。その中間地点が中の茶屋。馬返しの駐車スペースは満車になっていることが多く、ここに車を停めて歩くことを想定しておくと良いでしょう。林道歩きは足慣らしにもなりますしね。

馬返しは標高約5千尺(1500m)。真夏でも涼しい風が吹いています。登山口には石の鳥居があって、その両脇には狛犬ならぬ狛猿が登拝者を見送ってくれます。富士山に猿とはこれ如何に?富士山信仰(富士講)の中には、紀元前301年、干支で言うと庚申(かのえざる)の年に富士山が噴火して誕生したという伝説があり、60年周期の庚申の年には富士講登山が爆発的に流行してきたそうです。

登山道はカラマツやコメツガなどの針葉樹の森林の中、勾配がゆるく、幅も広い、実に歩きやすい道です。

所々、神社や拝所の廃墟や石碑が残されています。かつて、富士講の信者たちがこの道を往来して賑わったことをうかがい知る富士山の宗教色を感じる遺構です。

それにしても、昔の人は全国から遥々やってきて、富士山の山頂を目指したわけですから、今でいえばヒマラヤ並みに崇高な存在ではなかったでしょうか。

五合目から上の登山道と違って、展望のない樹林帯をえっちらおっちら歩くことになりますが、かえって夏は涼しくていいですよ。時折振り返ると、樹間から山麓の富士五湖方面を見下ろすことができるのですが、ちょっと面白い視点をご紹介します。(河口湖大橋)

実はこの日、前夜から富士五湖方面に潜伏して、静かな夜の車中泊を楽しんでおりました。明け方、富士山を見上げると、山腹にご来光登山を目指す人たちの光の筋を見ることができました。

また、河口湖畔に咲く花々と富士山のコラボが楽しめる大石公園。頃はラベンダーの花が見頃でした。

そんでもって、その大石公園を五合目付近から見下ろした風景がこちらになります。ああ、さっきはあそこからこちらを見上げていたのかと思うと「フフフ…山笑はあと10年は戦える」と自分に自信が湧いてくるものです(笑)

五合目が近づくと、厳しい環境のせいでしょう、森林の樹高も低くなって、野鳥の姿をチラホラ観察できるようになります。(ビンズイ)

(ルリビタキ)

さてさて、そうこうしているうちに五合目にある佐藤小屋に到着。小屋でラーメンをいただきました。うんまぁ~♪

小屋で飼われている赤い鳥はオウム?インコ?

そういやぁ、昔、数学で√5の近似値(2.2360679)を覚えるために流行った語呂合わせに「富士山麓オウム鳴く」ってのがありましたが、数学が赤点だったワタクシにとっちゃあ、某宗教団体しか頭に浮かんできませんでした(笑)

精進口ルート

こちらは今年の8月、お盆の終わる頃に歩いた際の風景です。

前述の吉田口に比べるととってもマイナーなルートです。

富士の樹海を貫く国道139号線を西進していくと、精進湖の入口付近に赤池という場所があります。赤池といえば、台風など大雨が降った際、青木ヶ原樹海の中に突如として出現する幻の湖として、何年かに一度テレビを賑わせてきました。

精進口登山道は、この赤池を起点として、青木ヶ原樹海こと富士山原始林の中を延々と歩き、大室山や天神山など富士山の寄生火山を間近に感じながら富士山に取り付く訳で、山頂を目指す人には注目されない反面、自然観察にはうってつけの場所なのです。(あ、心霊もね(笑))

今回はダックス(Dax125)で富士林道へ乗り入れ、林道が精進口登山道に出合う二合目にダックスをデポして、五合目を目指すこととしました。ちなみに一合目は、スキー場で知られた寄生火山天神山付近になります。

二合目付近は標高5千尺。付近は、ブナやツガを中心とする大樹が鬱蒼と生える弓射塚原始林と呼ばれる森です。青木ヶ原樹海が、平安時代前期、貞観の時代に富士山北麓の寄生火山が大噴火を起こし、溶岩が北麓に押し出した際、冷え固まった溶岩台地の上に形成された森なのに対して、こちらはそれよりも高所に位置しているので太古の昔から存在していたということです。

ちなみに貞観の噴火では、押し出した溶岩流が「せのうみ」いわれた大きな湖まで押し出して、今の富士五湖のうち西湖、精進湖に分割したそうです。実は先述の赤池も地底に眠るせのうみの一部という説も…

精進口の登山道ですが、しばらくは笹薮がひどく、濡れた藪を進んでいくと雨に降られたように濡れてしまいました。所々、廃墟がありますが、宗教色は感じられない建物でした。

しばらくは鬱蒼とした原始林の中に延びる平坦な道を進んで行くと、富士スバルラインと交差します。五合目行きのバスが連なって走っていきました。

小屋跡と富士山原始林が天然記念物に指定された大正15年の記念碑がある三合目。ここで吉田口五合目方面とお中道の御庭方面に分岐します。今回は御庭方面に向かいます。

三合目から先は少し傾斜が増して山歩きらしくなってきます。倒木が多く登山道はハードル走…いや、跨いでくぐって障害物競争ですね(笑)一時期は大気汚染が引き起こす酸性雨が及ぼす森林への被害が取りざたされましたが、そもそもシラビソなどは樹齢が100年ほどと短命な樹木だとか。森の世代交代と信じたいところです。

これら針葉樹の森は根元に広がる苔も見どころです。亜高山帯らしい針葉樹と苔の風景は、北八ヶ岳や奥秩父などが有名ですが、身近な富士山でも十分楽しめるのはありがたいことです。

吉田口同様に標高が上がってくると樹高が低くなって、登山道沿いにはシャクナゲの低木も目立ちます。シャクナゲが咲く頃は、映画「千と千尋の神隠し」で主人公千が豚に姿を変えられた父母に会うために分け入ったシャクナゲの道のようになるのでしょうね。その頃歩いてみたいですが、いつも忘れちゃうんだよねぇ(笑)

やがて五合目の直下に位置する奥庭荘に到達。奥庭は富士山の野鳥観察のメッカです。20分ほどで周回できる遊歩道も整備されているので、昼飯を頼んでいる間にちょいとお散歩です。(ホシガラス)

あれ?にわかに湧き出す入道雲。こりゃあ一雨ありそうだ(汗)予定では、奥庭から御庭、吉田口五合目を経て周回するつもりでしたが、慌てて来た道を下山する羽目になりました。

本邦最高峰富士山の違った魅力を楽しめる五合目から下の深い森。山梨県側の北麓もそうですが、静岡県側にもいくつかルートがあるようです。今後少しずつ楽しんでいきたいと思っています。

今回もご笑覧いただきまして、ありがとうございました。