本邦最高峰の富士山。五合目から山頂までの環境は厳しく、鳥獣はおろか昆虫や植物が定着するのも難しいようです。夏場は人間ばかりやたらと多いですが(笑)
これに対して、五合目から下は豊かな森林環境を擁しているので、そこに宿る鳥獣、昆虫も多いようです。
五合目の驚くべき植物たち
さて、富士山五合目といえば、登山口毎に4か所ありますが、その標高はまちまちです。高い方から並べると、富士宮口2380m、吉田口2305m、須走口1970m、御殿場口1440mとなり、御殿口はちょっと低いですが、標高2千m前後の亜高山帯に属する環境です。
他の山域で亜高山帯の標高であれば、もう少し森林が深くなりそうですが、独立峰の環境の厳しさか、富士山ではカラマツやコメツガ、シラビソなどの樹木は低木となり、森林限界の様相です。でも、ちょっと待てよ?
森林限界と聞くと、ワタクシたち山を歩くものは、ハイマツを連想しますが、地を這うように生えているのはカラマツやコメツガばかり。なんと、富士山にはこのハイマツが見られません。それは何故かとたずねたら…(ハイマツの実を食べるホシガラス 鳳凰三山)
ハイマツとは元来、亜寒帯気候の植物で、地球が冷涼だった氷期といわれる時代に分布域が南下して、その南限が日本だったといわれています。その後、地球が温暖化し、ハイマツの分布域は北へと後退し、日本ではアルプスなど標高2000m以上の高山帯に取り残されるのみとなったそうです。
ところが、氷期以降の火山活動で誕生した富士山や日光男体山には、このハイマツが見られず、森林限界では、山麓から上がってきたカラマツやコメツガなど本来はまっすぐ垂直に伸びる高木が、何とか厳しい環境に適応しようと低木化するという特異な現象なんだそうです。(地を這うダケカンバ 北岳)
森林限界に生きる野鳥たち
富士山五合目付近の亜高山帯に生息する野鳥をご紹介します。※注釈がないのは富士山五合目で撮影しました。
尺取り虫を捕らえたのはビンズイです。ヒバリに似た野鳥で、夏場には標高3千m近い高山帯にも顔を出しますが、冬場は丹沢の山麓でも見かけるオールラウンダーです。
かわいい幼鳥の世話に忙しいメボソムシクイです。ウグイスに似た姿で、薄暗い針葉樹林帯から聞こえるジュリジュリジュリジュリ…という鳴き声が特徴です。(カンバの枝先でさえずるメボソクシクイ 北岳)
樹間に垣間見るちょっと大柄な野鳥はホシガラスです。こちらも標高3千mはお手の物。ハイマツなど針葉樹の松ぼっくりが好物ですが、時には昆虫なども捕食します。冬場は丹沢など低山で越冬する場合もあるようです。
鳴き声はカラスの仲間らしく枝先や飛びながらグワァ~と鳴いています。(カンバの枝に止まるホシガラスのつがい? 常念山脈)
青く美しい姿はルリビタキのオスです。(冬場は山麓で越冬ちう 奥三河)
野鳥あるあるで、華やかなオスに対してメスはかなり地味な色をしています。夏場は亜高山帯、冬場は山麓や平地の森、都市公園で越冬します。(地味で悪かったな。ゴルァ! 八ヶ岳)
小さくて鳴き声も地味なキクイダタキです。(すばしっこくて、なかなか撮るのが難しい…orz 仙丈ケ岳)
ミソサザイやエナガと並び日本最小の野鳥といわれています。最初、その名を聞いたときは、木を食って叩く凶暴な鳥かと思ったのですが、「菊戴」と漢字表記されるように、頭部に黄色い冠羽があって、たまに菊の花のように広がるそうですよ。いつか見てみたいなぁ…
木の芽をモグモグ食べるウソ(サクラ類の木の芽が大好物 丹沢)
オスは頬から胸の羽が朱色になります。ウソとは古語で口笛のことで、鳴き声がフィーフィーと口笛のように聞こえます。
桜などの木の芽が大好物なので、桜の名所などでは害鳥扱いされていることもあります。(こちらはメスです。 丹沢)
神社に興味がある人はご存じかもしれませんが、各地の天満宮で行われる「鷽替え」とは、日頃私たちが何気についている嘘を木彫りのウソに託し、新しい木彫りのウソと交換することで、誠に交換してもらうという神事です。(毎年1月25日の初天神)このほか、高山鳥としておなじみのイワヒバリやカヤクグリなども見かけますし、逆に公園や住宅地にも飛んでくるシジュウカラも見かけます。これらは別の機会でご紹介できると思いますので、今回は割愛させていただきます。
富士山の雷鳥異聞
高山鳥の代表といえば、ライチョウでしょう。ところが、我が国最高峰の富士山には、ライチョウが生息していません。(中央アルプスでは絶滅後、復活を果たしました。 木曽駒ヶ岳)
冒頭でお話ししましたハイマツ同様に、ライチョウも氷期に日本へ分布したものが、温暖化により高山にのみ取り残されたことが定説ですので、比較的新しい時代に誕生した富士山には、元々ライチョウが生息していないことになります。
ところが、昭和30年代の半ばから約10年間。富士山にはライチョウが生息していました。
これは、ライチョウの生息域の拡大を狙って、日本アルプスなど他の山域から移植させる試みで、富士山には北アルプス白馬岳からライチョウが運ばれて放鳥されました。ちなみに、同じ時期に南アルプス北岳から奥秩父の金峰山にもライチョウが運ばれて放鳥されたそうです。
一時は繁殖も確認され、富士山には最大10羽以上の個体が生息し、移植の試みは成功したかと思われましたが、富士山も金峰山も10年後には目撃情報が途絶え、その前後で絶滅してしまったと推測されています。
金峰山は標高もやや低く、外敵の侵入が容易かったのではないかと推測されますが、富士山はライチョウの拠り所であるハイマツがないことが、やはり外敵から身を隠す都合上、致命的だったようです。
近年、一度絶滅した中央アルプスや個体数が激減した南アルプス北岳に同様の試みが行われ、成果があがっているようです。八ヶ岳や白山など、かつてライチョウが生息していた山域にもライチョウが復活するといいですね。(初秋、幼鳥もかなり大きくなりました。 鹿島槍ヶ岳)
さて、今後も富士山の山麓を歩いて、動植物を観察していきたいと思っています。その中から驚くべき出会いがあるかもしれません。全滅したと思しきライチョウなのか?ツチノコなどUMAなのか?さらにはこの世のものではないものか…
今回もご笑覧いただきまして、ありがとうございました。