こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。
弊社のスタッフ4人はそれぞれ離れて暮らしているため、重要な決め事をするときにはオンラインでミーティングをします。それぞれ年齢差も勤続年数の差もありますが、社長(私)以外の序列は無く対等な関係で、収益に対する報酬の割合や仕事の担当などについて、全員が合意することを目指して話し合っています。
スタッフが私に対して要望や意見を言うことは少ないのですが、中に一人、時々私に交渉を持ちかけるスタッフがいます。例えば「もう少し自分の給与を上げてほしい」といったことです。彼は普段は温和で押し出しが弱いのですが、言いたいことははっきり言う性格のようです。もちろん、私も言う通りに応じるのではなく、業績や仕事の負担度合い、貢献度を説明しながら交渉に応じています。
みなさんは経営者や上司として自分が管理する立場にあるとき、スタッフから交渉を受けることについてどう思うでしょうか。お互いの意見や利害が一致しないときに譲り合って議論や交渉を避ける傾向にある私たち日本人にとって、正面から交渉をされると「挑まれた」と不愉快に感じる方も多いのではないでしょうか。
私は、そんな彼をむしろ頼もしく感じます。というのも、交渉によって気づかされることも多いからです。
今回は交渉について書きます。まずは「依頼」と「交渉」の違いについて明らかにしておきましょう。
依頼は、何か要望があるときに相手にお願いすることです。必ずしも相手が何かしら損や負担をするわけではありません。一方で交渉は、お互いの利害が一致しないときに話し合いによって合意を目指すことです。
交渉によって、より合理的な組織へ
私は何事にも合理性を求めるタイプで、慣習だからとか多くの人がそうしているからという理由で行われていることがあれば、それは合理的なのかと一度は疑ってみる癖があります。弊社でのさまざまな仕事のやり方についても、業界の慣習は参考にせずにそのように決めてきました。
スタッフが私に交渉をもちかけたことのひとつに、利益の分配方針があります。
弊社では通販と2つの実店舗があり、毎月各店の売上を集計しています。競い合うためではありません。各店舗の目標売上金額を決めて、それに向けて達成状況を確認するためです。
それとは別に、私の知人や生徒への個人的な販売は私の売上にすると、開業当初から決めていました。理由として、顧客が私から買えば私の利益となり店舗で買えば会社(スタッフ全員の)売上になるのであれば、私は顧客に対して店舗に行かずに自分から直接購入するように期待するからです。そして顧客に対して店舗よりも私から買ってください、と言うことがあるとすれば、それは会社にとっても顧客にとってもまったく合理性がないからです。もちろん、心の広い人であれば個人販売も会社の利益として全員で分け合うことでしょうが、私はそこまでできた人間ではありません。
彼の要望は、店舗で依頼された件については私が利益を全額受け取るのではなく、一定割合を会社に還元してほしいというものでした。そうでないと彼の報酬につながらない接客に対しては力が入らないし、輸入代行を勧める動機にならないからということです。確かにその通りだと感じました。顧客と私にとって合理的な判断も、彼にとっては合理性がなかったのです。その点が私には見えていなかったことに、気付かされました。
交渉によって少しでも多く得る
もう一つ最近交渉をされたことに、中古品の買い取り金額があります。
弊社では中古楽器を買い取りしており、中古品を売却したい顧客は買い値や購入年、状態を記入することで買取価格が自動計算される算定表を利用して金額を確認した上で持ち込んでもらっています。もちろん査定表は目安でしかなく、実際の価格は市場の相場価格や弊社の需要を考慮して提案しています。ほとんどのお客さまはこちらが提案した金額で納得していただいています。
しかしあるお客さまは、査定表の金額の3桁以下を切り捨てて買い取り金額を提案したところ、「査定表より低い理由は何でしょうか、査定表の金額通りに買い取ってほしい」と交渉をされました。私はその時に合理的な説明ができなかったので、お客さまの要望通り、数百円を上乗せして買い取りました。買い取り金額は双方の利害が不一致するため、「なんとなく」は通用しません。きちんと説明できないのであれば譲るべきだと考えました。
このような金額交渉を欲深い、相手に失礼だと感じる方もいるかもしれませんが、私としては、またこのお客さまのことを「少しでも多く得たいと考える頼もしく合理的な人だな」と感じた次第です。
積極的に交渉をしよう!
私は一人の音楽家でもあるので、出演料に納得がいかない場合は交渉をするようにしています。出演料には相場はなく、需給関係で決まります。極端に言えば実力がなくても人気があれば出演料は高くなります。
そのような相場のない世界においては、よほど芸術に理解のある依頼主でなければ双方の利害は一致しないため、事務所に所属しない音楽家は常に交渉によって出演料を高めていかなければいけません。もちろん分不相応な金額を要求すれば他の誰かに仕事が流れるだけなので、自分の市場価値を理解して、相手に妥当な金額だと思わせる説得力が必要でしょう。小さなプラスアルファで良いのです。交通費を加算してもらう、源泉所得税を外税にしてもらうだけでも所得に大きな違いを生みます。
交渉することで相手に「面倒臭い人だな」という印象を与えないためには、合理的な理由や相手が譲歩することによる双方のメリットを感じてもらうことが必要です。一方で交渉を受ける立場としては、「交渉をしても良いのだ」という雰囲気を作ることが大事です。「この人は頑固だから交渉は時間の無駄だ」と思わせてしまうと、組織は硬直化し、不満はたまるばかりでしょう。
一方で何事も八百屋の値段交渉のようにいちいち交渉しなければいけないのでは、双方にとって不効率であること極まりません。弊社でも値下げ交渉には応じていません。しっかりとしたルールや約束事を決めて双方が従い、その上で合理性を欠く場合には交渉の余地を残す程度が良いかと思います。