hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

パキスタンからの輸入でビジネスの常識を破壊された話

こんにちは! ケルトの笛演奏家で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が、起業やビジネスに関するアイデアや経験を皆さんとシェアします。

私はアイルランド音楽で演奏されている様々な楽器を世界各国から輸入して販売しています。輸入業は為替の影響を直接受けるため、価格は常に不安定です。特に昨年からは急激な円安に苦しめられてきました。そんな中、より安い仕入れ先を求めてパキスタン製の楽器の輸入に手を出した失敗談をお話します。この件は書こうか迷うほどの痛い失敗だったのですが、面白いネタでもあるため、大公開することにしました。

アイルランド伝統楽器業界の真実

アイルランドの伝統音楽は今や世界中で楽しまれています。世界中にギネスビール(黒ビール)を売るアイリッシュ・パブがありますし、その土地にはだいたい、アイルランド音楽を愛好する人がいるのです。弊社では開業当初は主にアイルランドの楽器店から卸売をしてもらい商品を仕入れていました。しかし、その頃に訪れたスコットランドの楽器小売店の店主から、アコーディオンや弦楽器を中国から仕入れているという話を聞き、アジアでの仕入れ先を探していました。アジアからヨーロッパを経由して日本に仕入れるよりも原価を抑えられると考えたためです。その数年後に中国の貿易会社と繋がることができ、現在では弊社の商品の一部は中国でOEM生産(弊社のブランドとして生産すること)をしています。しかし、中国国内では打楽器の製造工場を突き止めることができず、継続してアイルランドから購入していました。

それから数年経ち、まったく同じデザインのハンドメイド・ティン・ホイッスル(笛)がアイルランドやスペインやアメリカなど色々な国で、異なる商品名で販売されていることに気がつきました。それらは比較的高品質で、価格が安めであることも共通していました。もしかして、これらは同じ工場でOEM生産されているのでは? という勘が働きました。しかしインターネットで検索しても何も手がかりを得ることはできませんでした。業界の秘密なのですから、当然です。

そんな折に、台湾で私と同じようなアイルランド音楽の楽器店をしている友人が、打楽器と管楽器をパキスタンの工場に発注できるということをつきとめました。カタログにはアイルランド音楽の様々な楽器が掲載されていました。友人は、台湾島をあしらったロゴのついて同じデザインのティン・ホイッスルのサンプルを見せてくれました。品質はまずまず良いものでした。私は、このビジネスを始めて十数年目にして、ようやく工場を突き止めた! という感動と、これで円安コスト増から解放される、という希望を感じていました。

工場に連絡を取る…最初に感じた違和感

私はカタログに掲載されているアドレスにメールを送りました。すぐに返信が来て、What’s Appというチャットアプリでやりとりをすることになりました。そのやりとりの中で、世界中に楽器をOEMで提供していることを明かしてくれ、大量のアイルランド音楽の笛や太鼓が山積みになっている写真を送ってくれました。私は、新たなビジネスチャンスの予感にとても興奮していました。しかしここから、違和感のある出来事が多発します。

・カタログの写真と品名が異なる(そして、どちらが正しいのかわからない)

・質問していることに答えない。しつこく聞くと、ようやく答えてくれる。

・英語の書き方がストレートで命令口調(ネイティブではないので仕方ないかもしれない)

・すぐに電話(What’s Appのビデオ通話機能)をかけてくる

・英語の訛りがひどくて意思疎通が難しい

・約束の商品完成日に無断で遅れる (そしてすぐにビデオ通話で釈明しようとする)

・約束の出荷日に無断で遅れる

コミュニケーション・スタイルがこれまでの経験と全く異なり、意思疎通が難しいのです。まったく知り合いのいないパキスタン人との取引ですし、商品が届くまでは不安でならなかったです。

このメーカーはアメリカやヨーロッパの下請け工場として大量に生産しており、弊社のような小口の注文には対応していないのですが、初回はサンプル扱いということで100万円程度の少量のオーダーに対応してもらえました。

送金に苦労

パキスタンへの送金はとても大変でした。普段の海外送金にはWISEを使っているのですが、パキスタンはWISEの送金対象国外で、市中の銀行もテロ資金対策とのことで海外送金を行なっていませんでした。そこでWestern Unionというサービスを利用しようとしたのですが、Western Unionの送金には大阪に行って現金を送らなくてはいけないということで不便に感じ、またレートも良くなかったためSBIレミットというサービスを利用しました。

このサービスは、事前に自分のアカウントに資金を入金しておき、オンラインで送金ができます。ただし、問題がありました。相手はUS$での支払いを希望しており、インボイスもドル表記だったのですが、SBIレミットはパキスタンにUS$を送ることができません。送金ができる唯一の通貨は現地通貨のルピーです。相手は渋っていたのですが、それしか手段がないことを伝えると、承諾してくれました。そこで、US$をルピーに変換した金額で3回に分けて送金しました。

小分けにしたのは一度に送金できる限度額があったからですが、セキュリティの上でも大金を一度に送るよりもよかったと思います。最初の送金が届いたことを確認して2回目を送りました。

受け取り側としても手間があり、自分の銀行口座に直接入金されるのではなく、現地の代理店に行って送金番号と身分証を提出して現金で受け取るようです。あちら側にもリスクのある送金方法だと思いますが、国際金融網の発達してない国ではよくあることです。

その後、納品されたが…

 約束の納期を2ヶ月も過ぎて商品が届きました。発送が遅れたことに加えて、船便で送られたので、長い日数を要したことも理由です。開けてみると、驚くようなことばかりでした。

・インボイスと内容品の数量が合わない

・インボイスの金額がカタログよりも高いものがあった

・インボイスの商品の数量が違う

・インボイスの数量 × 金額 の計算が合わない(Excelのはずなのに…?

・インボイスの宛名がデタラメ(税関で止められた)

・注文した商品が入っていない                       

・オーダーしていない商品が大量に入っている

・カタログとデザインや仕様が全く異なる

・一部商品が破損している

・一部商品の品質があきれるほど酷い(ハープなどはアマチュアの工作レベル)

・同じ商品でも品質が安定していない

・送料が過大に請求されている

もう、すべてにおいて間違っている、何も信用できないという感じです。輸入業をやってきて経験したこともないような仕事の質の低さに呆れ果てて、私は初めて、かなりキツめな英文を書くことになりました。こちらがクレームを入れると、すぐにビデオ通話をかけてきます。通話では記録が残らないので、受けずに、あくまでチャットメッセージでやりとりしました。

私がどんなにキツく書いても「のれんに腕押し」状態で、絶対に謝りません

結局、余分に入っていた商品はサンプルとして送ったのだということがわかり、足りない商品については再度送ってもらうことになりましたが、その際の送料はあちらに負担してもらうように交渉しました。ただし、その商品にかかる消費税は二重に請求されているので相手側の過失ということで次回オーダー時に精算してもらうことにしました。

非常に骨の折れる、その割に利益の少ない取引でした。

パキスタン貿易のその後 

パキスタンのメーカーが詐欺的だとか、約束を守らない、ということはひとつもありません。きちんと送ってはくれます。ただ、そのプロセスの全ての点において品質が悪いのです。これはとてもストレスのかかることでした。

ただしすべてが粗悪というわけではなく、良いものもありました。粗悪品は原価を下回る赤字価格で売り捌きました。品質が受け入れられるものについては、一般的な価格を設定して販売しました。

トータルではマイナスです。その上に、今後は300万円以上のオーダーにすること、という条件をつけられたので、パキスタンの工場との取引は事実上、見送りとなりました。これまで貿易商を10年以上やってきて、パキスタンには手を出すまい、と思っていたのに、手を出して、案の定痛い目に遭ってしまったのです。

しかし、それから半年ほど経ち、「大口注文の穴ができたから、小ロットで受け付ける」という連絡が入りました。失敗を経験値に、今後はうまく軌道に乗せられるのか、再び試練が待ち受けているのか? 私はもちろん、乗ることにしました。手痛い失敗の後にこそ、チャンスは生まれるものですから。