Naoya Hanaoka

京都にあるブティックホテルのHOTEL SHE, KYOTOにいます。旅の目的地にしたい素敵なホテルを紹介しています。(https://twitter.com/naoya_hanaoka

ホテルシーキョウトの生存戦略【ホテルとお酒 Vol.03】

こんばんは。HOTEL SHE, KYOTOの花岡です。

本日はコロナ渦中でのホテル経営の少し生々しい話をしようと思います。ただしホテル業界でなくても、飲食や小売などサービス業を営まれている方にも参考となるよう、具体的な実践例と抽象的な考え方について記していきます。

さて、ホテルが再開してから1ヶ月近く経とうとしています。ありがたいことに毎日数組のお客さまには足を運んで頂いておりますが、やはりまだまだ旅行需要は戻らず、関西圏でも不要不急の外出は控えている方が多い印象です。

もちろんこれは大変素晴らしいことであり、私自身もそのように心がけています。

ただホテル事業者としては依然として苦しい状況が続いており、どうにかお客様に安心して来館頂ける準備は万端にし、適切な範囲で足を運んで頂きたいわけです。

1日あたりに提供できる客室数は通常稼働の50%、ただし仮にその半数の客室数が埋まったとしても例年通りの客室価格だと経営的には赤字になってしまいます。詰まるところ単純で、宿泊に何かしらの付加価値をつけて単価をアップしないと、ホテル経営としてとてもまずいことになるのです。

 

窮地にこそ新しいアイデアは生まれる

よく「ピンチはチャンスだ」と言われますが、現状はホテル業界にとってこれまでにない大ピンチです。新しい時代が訪れようとする時、その向かい風さえコントロールして空高く飛び立つこともできるし、目に見えないウイルスだったり政府だったり、誰かのせいばかりにしてずっと風が止むのを待つこともできます。

少し話は変わりますが、先日大好きな映画の『LA LA LAND』を観ていました。劇中、頻繁にジャズミュージックの話が出てくるのですが、気になって調べているとジャズの発祥の歴史がとても興味深いものでした。

大雑把に話すと、ジャズがアメリカに広がったきっかけは二つあって、一つは黒人の人種差別。奴隷解放されても働き手のない彼らは、ちょうど南北戦争後で安価で叩き売りにされていたマーチングバンドの楽器を購入したそうです。でも譜面は読めないからアドリブで練習をはじめ、そこからジャズの原型が生まれたのです。

二つ目のきっかけは「ビール=ドイツ=悪!」というプロパガンダ によって施行された禁酒法。これまで通り自宅でお酒が飲めなくなった人々は地下の酒場に集まって、それによって手軽に演奏を始められるジャズは一気にポピュラーな音楽スタイルになったと言われています。

ジャズミュージックはあくまで一例ですが、これまでも人類はどうしようもない苦境が訪れた時にこそアイデアを生みだし、そして文化として継承してきました。凄くカッコつけた話をすると、100年前のアメリカでジャズが生まれたように、自分たちも苦境の中でこそ新しい種を見つけて、100年後に少しでも意味のあるようなクリエイションをしたいと思うのです。

 

宿泊だけにこだわらない、懐の広さと思い切り

では、ホテルシーキョウトはどのようなアイデアで乗り切ろうとしているかと言うと、「脱・宿泊業」です。

これはコロナ渦中前から企ててはいたのですが、ホテル空間を使って”宿泊以外”の価値提供ができないかとずっと考えていました。

そこで、テーマパークに遊びに行くような、濃度の高いエンタメ体験をホテルで提供するためのプロジェクト『泊まれる演劇』をスタートしました。ホテルシーキョウトを架空のモーテルに見立てて、映画のようなサスペンス劇にお客さまも登場人物の一人として参加する演目を制作しました。

本来は6月に初演を迎える予定だったのですが、残念ながら4月上旬に無期限延期を決定。その決定を下したのとほぼ同時に、オンライン上で「泊まれる演劇」を開催することに決めて、ゴールデンウィークの初演のチケット500枚はたった1時間で完売しました。

オンライン演劇なので当然お客さまは宿泊しませんし、接客サービスもバーでのお酒提供もありません。ですが、ホテルという空間の素晴らしさをお客さまに届け、”エンターテイメント”という手法でビジネスとしても大成功を収めることができました。

 

常識は無視して、誰かが喜んでくれるものだけを作る

『泊まれる演劇』はあくまで宿泊サービスがエンターテイメント / オンラインサービスへと代替した一例ですが、きっと新しい時代のホテルが提供するサービスは必ずしも宿泊や接客、飲食に限ることはないと思うのです。

そしてこれはホテル業界に限ったことではなく、あらゆるビジネスにおいて同様です。

これまでの常識を意識的にでも無視して、多少の業界ルールを破ったとしてでも、お客さまが喜んでくれる価値を真摯に提供することが新しい時代で求められると思うのです。