hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

音楽家がレッスンでビジネスを構築する方法(3)

こんにちは! 和歌山県の山間部で自主隔離生活をしているケルトの笛のhataoです。

和歌山県といえば、梅。

大きな「紀州南高梅」を漬けた梅干や梅酒は全国でも有名ですね。

私の住む田舎の家には3本の古い梅の木があり、たっぷりと実をつけました。先日、人生で初めて「高枝切りはさみ」と「3mくらいの脚立」を買って、梅を10キロも収穫しました。収穫した梅は知人と分け合い、シロップやジャムに加工して、日々の食卓で楽しんでいます。

学生のベンチャー起業に出資しました

緊急事態宣言が明けて、世の中が少し落ち着いてきました。しばらく前に書いていた連載「音楽家がレッスンでビジネスを構築する方法」のシリーズを久しぶりに書きます。

昨年連載していた頃とは状況が変わり、コロナウィルス流行以降、音楽家は前のようにはレッスンができなくなってしまいました。さらに悪いことに、私が演奏するのは管楽器。フルートは他のどの種類の管楽器よりも飛沫が遠くに飛ぶそうです。友人のフルート講師はフェイスシールドを着けたり生徒との間にビニールの仕切りを設置したりしてレッスン再開をしていますが、安全性を気にする生徒も多いことでしょう。多くの音楽講師が今後もオンライン・レッスンを並行して継続することと思われます。

私は隔離生活中なので、県をまたぐレッスンは休止しており、自宅に来てくださる生徒さんのみ受け入れています。オンライン・レッスンは、リクエストがあれば受け付けますが、積極的に募集はしていません。感染リスクが完全になくなったわけではありませんし、この隔離生活中に時間をたっぷりかけて、これまでできなかった本や教材の執筆に集中したいと考えているからです。

そんなおり、とある大学生から連絡をもらいました。

アイルランド音楽の楽器のレッスン・ビデオ配信サービスをするので協力してほしいというのです。詳しく聞くと、日本人講師による各種楽器のレッスンを撮影し、サブスクリプションまたは買い切り制で、オンラインで販売したいとのこと。

私も以前からそのようなサービスを始めたいと思いながらも、着手できないまま何年も経ってしまっていました。自分にデジタル面の技術力がないことと、そのような技術力のあるエンジニアとも出会えなかったからです。今の時流の中、このビジネスには大きなチャンスがあるに違いないと確信し、自分自身が講師として参加することと、返済不要で100万円を提供することを約束しました。

私は金融商品や自分のビジネスに投資したことはありますが、人に投資をするのは初めて。そこで、円ジェル投資家のブログを読んで注意すべきことを予測して、ゆくゆくトラブルが生じないように、契約書を交わしました。

ビデオ教材販売の可能性

日本ではまだまだオンライン学習が一般的ではありませんが、音楽の世界では今のように感染症が流行る何年も前からレッスン・ビデオの販売サービスがありました。

私がヨーロッパの伝統音楽を演奏し始めた2000年頃、日本にはまだ講師が少なく、習おうと思えばヨーロッパに行く以外に方法がありませんでした。しかしこの20年間で書籍、映像教材は驚くほど充実し、今や自宅にいながら現地と変わらないレッスンを、しかも破格の値段で受講できるのが当然となりました。しかしそのようなオンライン・レッスンは、日本では普及していません。英語で受講することがネックになっているのでしょう。外国での成功例のように、日本人講師による日本語でのレッスンには、まだ見ぬ潜在的な需要があるはずです。

今回大学生が立ち上げるサービスは、まずはフィドル(ヴァイオリン)、ギター、フルート、ティン・ホイッスルの4コースで、各コース15分ほどのレッスン・ビデオを20本、合計で80本製作することになりました。サービス開始後にマーケットの反応を見て、私が追加投資をするか検討します。

投資資金は、経費を差し引いた粗利のうち一定割合を、サービス開始直後から受け取って回収します。おそらく投資額を全額回収するまでに2年くらいかかると見ています。その間も利益を元手に新たに撮影しビデオ教材を蓄積させてゆくことでコンテンツが充実し、競合サービスが出ることを牽制し、ユーザー数が増えてゆくことを狙っています。

CDは古びてゆきますが音楽教材は古びませんし、レッスン・ビデオ販売はCDや書籍のように増刷しなくても永遠に販売を継続ができるストック型ビジネスです。このようなレッスン・システムができれば、各地でもっとたくさんの人が音楽を始めることとと思います。

四方良しの仕組みづくり

今回のビジネスモデルには、投資家の私、開発者の大学生、ビデオ講座をする講師、お客様の4つの利害関係者がいます。ビジネスの仕組みづくりは、すべての関係者がハッピーになることが大事です。

まず投資家と開発者の関係ですが、大学生はエンジニアとしてサービスの設計開発をしてサービス運営を行い、私は講師謝礼や編集者への支払いや機材費、スタジオ費用など必要なお金を提供します。

起業に際してまとまった資金を用意できない彼と、そのようなサービスを提供したいが技術力がない私、ということでお互いの利害が一致しました。私はいま演奏家や講師としての活動に加えて自分の楽器店経営で手一杯で、運営に時間を割くことはできません。そのため今回は共同経営ではなく、経営には手も口も出さず、お金だけを出します。

講師はこのジャンルではよく知られているプロ奏者に依頼しました。講師への謝礼は一回きりの支払いですが、全国での知名度がさらに上がることや今後の継続的な依頼を考えると、Win-Winなのではないかと思います。

ユーザーにとっては、国内の人気講師に、マン・ツー・マンよりもリーズナブルな価格で、自分のペースで学習をすることができる点がメリットです。価格づけに関して私は口を出しませんが、対面レッスンを考えると驚くほど安い値段で提供することになりそうです。

アイルランド音楽のプロ奏者は大都市に偏在しているので、地方の学習者の需要を満たす画期的な学習方法になると見込んでいます。

コースの増設や書籍との連動でより強固なモデルに

先日私の撮影したビデオの編集が終わりました。製作したのは全くの初心者を想定した内容で、マン・ツー・マンレッスンであれば1時間のレッスンを月2回、半年分受講する程度のボリュームです。各楽器とも今後、中級コースの製作を予定しています。

動画配信で課金するサービス・プラットフォームを手に入れるわけですから、内容はこれだけにとどまらず、私が演奏する他の種類の管楽器のコースや講演、演奏動画の販売、外国の講師に依頼して字幕をつけて販売するなど、様々な可能性も視野に入れています。

また、このビデオは私が現在執筆中の楽器教則本と連動することを前提に教程をデザインしました。書籍の章立てとビデオのチャプターが対応し、お互いの内容を補完しあえるように作っています。これによって、それぞれの利用者が行き来する仕組みを作りました。私が経営する楽器店や教室でも強力にプロモーションをし、このサービスのユーザーが楽器店を利用する流れを作ってゆきます。

コロナ時代は自分が動いてレッスンをすることが困難です。そのため、書籍やビデオを通じて対面レッスンでは出会えない多くの人に影響力を及ぼすやり方を模索すべきでしょう。

コース設計や教材製作、資金面など最初に解決すべきが大きいですが、手間をかけて大きく成長させることで、安定した実りを長くにわたり得ることができます。

まさに、梅の木を育てるような仕事なのです。