hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

お客さんを怒鳴りつけたカフェ・マスターの話

こんにちは! 楽器店を3店舗経営している音楽家のhataoです。本連載では独立起業やビジネスをテーマに日々の気づきや考え方をお伝えしています。

接客業でのできごと

接客業をしているみなさん、お客さんにイライラすることってありますか。理不尽な要求をしてくるお客さん、不機嫌なお客さん、態度や言葉遣いの悪いお客さん……。そんなお客さんにもニコニコと接客するのが自分の務めと思って我慢をしてストレスをためている方が多いのではないでしょうか。

いっそ怒りをお客さんにぶつけてしまいたい? 今回はそれを実行してしまったカフェ・マスターのお話です。

素敵なカフェで起きた、突然のトラブル

盛夏の8月、私は避暑のために実家がある札幌に1ヶ月間帰省して、在宅でリモートワークをしていました。実家では仕事ばかりの日々だったので、最後の1週間はレンタカーで旅行を楽しむことにしました。いつもなら外国人であふれかえる観光地はどこも空いていて、疫病のパンデミックも悪い事ばかりではありませんでした。

旅行中にGoogleで検索してふらりと立ち寄ったカフェで、トラブルは起きました。

まだ新しそうな、ナチュラル・テイストの戸建てのカフェ。アーリー・アメリカン・スタイルを思わせる白い壁と木造ポーチのアプローチで、いかにも今風の人気がありそうな外観でした。

お店に入ると白髪の上品な雰囲気の中年男性マスターと女性店員で切り盛りしており、私達以外にも何人かの客がいました。コーヒー専門店らしく豆の種類が豊富で様々な淹れ方を選べるので、マスターにおすすめを聞くと丁寧に説明してくれました。私達はコーヒーとケーキを頼んで、楽しんでいました。

店内の大きなガラス窓越しに若いカップルがお店の裏庭を歩いているのが見えました。2人は写真を撮ったり、庭を楽しんでいるふうでした。2人がお店に入るやいなや、マスターが詰め寄りました。「お前ら許可もなく庭に入って写真を撮っただろう! 失礼じゃないか!」

異様な様子に一瞬お店が静まり返り、BGMのジャズがやけに響きました。2人は小声で謝り、退店するそぶりもなく席について注文をしました。マスターもまた2人を追い出す風でもなく、メニューを見せて淡々と接客をしました。

あんなことがあったのにお店に残ってコーヒーを楽しもうというお客さんと、そつなく接客をするマスター。さっきの出来事は嘘だったかのように元の雰囲気にもどりましたが、私は居心地が悪くなり、そそくさとコーヒーを終わらせるとお店を後にしました。

一日ひきずった後味の悪さ

それから観光地を見て回ったのですが、マスターの表情や声が脳裏に染み付いて、一日中モヤモヤしっぱなしでした。私はホテルに付くと、カフェのホームページを探してメールフォームから苦情を書いて送りました。

「今日の昼に利用したものです。店の裏を歩いてから入店したカップルのお客さんをどなりつける場面にたまたま遭遇しました。

私たちが怒られたわけではないのですが、大変不愉快で、コーヒーの味や雰囲気を楽しむどころではありませんでした。せっかくの楽しい旅行気分は台無しになり、美しい風景を見ても楽しめませんでした。

そもそも客に裏庭に入って欲しくないのであれば、裏庭への道に立入禁止の看板など置くべきです。観光地にあるカフェですから、初めてのお客さんはどこが入り口か分からず、たまたま裏庭に入ってしまうこともあるかもしれません。

仮に100%お客さんに非があったとしても、あの伝え方がベストだったのでしょうか? 攻撃的なタメ口で目を剥いて。あれはお客に対する態度ではありません。お客さんの行為が間違っていることを伝えるのであれば、怒らずに冷静に理由を丁寧に説明するとか、スタッフを遣って注意してもらうとか方法がなかったのでしょうか。

私は旅行者ですから次に来ることはもうありませんが、とても嫌な気持ちになったので、他の利用客のためにも今後このような振る舞いを謹んでいただきたいと思いお伝えします。」

怒りの伝え方でお店の明暗は分かれる

メールを送った後に何日か待って返信が無ければ、レビューサイトでこのトラブルがあったことを書いても良いと思っていました。マスターが自分の問題に気づくことがなければ、お店とお客さん双方とって得るものがないと思ったからです。

翌朝メールの返信が届きました。内容は簡潔なもので、不快にさせて申し訳ございませんでした、と謝罪があるだけでした。マスターが自分の行いについて本当はどう思っているのかはわかりませんが、この経験を無駄にしないでいただきたいと思いつつ終えることにしました。

あとでレビューサイトを読むと、外国人や未就学児童の入店を拒否するなどトラブルになっているようでした。観光地の人気店ということで接客に対するおごりがあったのかもしれません。

しかし不快な感情を持ったお客さんはレビューサイトで逆襲をしたり他人に悪口をふれることもありえます。今の時代、客商売をする者にとって評判が下がることは恐ろしいでしょう。

接客をしているとイライラをお客さんやスタッフにぶつけたくなることもあります。しかし怒りは自分の身を滅ぼすことになりかねません。要求を怒りでしか伝えられない子供とは違い、大人が怒りを表すことはみっともないのです。怒りをコントロールできなければ、精神的に未熟だったり情緒に問題があるとみなされてしまうでしょう。

怒りの原因になるトラブルを未然に予防し、トラブルが発生したときには冷静に解決し、同じトラブルが二度と起こらないように対策を施す。これを確実に行うことがリスク管理の上で大切だと学んだ経験でした。