こんにちは! ケルト音楽専門の楽器店を経営している、ケルトの笛のhataoです。
先日ある知人との会話の中で「現代はオタクが強い時代ですね」という言葉をいただきました。自分のことを考えてもまさにその通りだなあと思い、このことについて掘り下げてみたいと思います。
オタクとは、趣味を突き詰めること
「オタク」という言葉はずいぶん昔、私が高校生だった90年代から一般的に使われていました。当時はゲームや美少女アニメに熱狂しているネクラな男というネガティブなイメージで使われていた言葉です。
クラスには一定数そういう男子がおり、学校に漫画を持ち込んで内輪のオタク話で盛り上がる……。そんな光景は、皆さんも見たことがあるのではないでしょうか。
他にも鉄道オタクとか、プラモ・オタク、ミニタリー・オタクなど色々なジャンルがありましたが、いずれも世間からは冷遇される対象だったように記憶しています。簡単に言えば、確実に異性にモテない趣味です。
それから20年以上。
コミケやコスプレ、オタ活と国籍も年齢も性別も関係なくオタク趣味を楽しめる時代になっているとは思いもしませんでした。
何しろ日本政府が「クールジャパン」と言って積極的に外国にオタク趣味をPRしているのですから、オクタの地位は明らかに向上しました。私の最寄り駅のそばにアニメ専門店がありますが、毎日学生や大人で賑わっています。オタク活動をするのに人目を気にしなくてもいいなんて、よい時代になりました。
学生時代、私はアニメやゲームなどのサブカル系のオタクではありませんでしたが、レゴブロックやガンダムのプラモデル、ミニ四駆など収集癖があり、RPGゲームやシミュレーション・ゲームなど熱中しがちな性格でした。大人になり、そのままの情熱を音楽に注ぎ込んでいるように思います。
例えばケルト音楽の手持ちの音源をデータでコレクションして、楽器別のアルファベット順に整理して曲名も入力してすべて管理したり、興味のある教則本を世界中から取り寄せたり、興味のある楽器職人のことを調べて楽器を取り寄せたりということを、20年前からしていました。
これらは現在も継続しており、20年も続けるとその蓄積たるや膨大になります。おそらく楽曲は数万曲分あり、図書も大きな本棚が2つほどになりました。書籍の大半は収まりきらずに電子化しています。
いま私が楽器店をしているのは、この延長でもあります。
楽器販売は、もともとは自分用として買った楽器を、オークションなどで中古販売するところから始まりました。それが商売の種になったのです。
オタクには2種類ある。消費者になるか、生産者になるか。
「サブカル(二流の文化)」と言われたゲームやアニメは、今や日本を代表する国民的なメインカルチャーとなりました。電車の中で漫画やゲームに熱中するサラリーマンの姿は珍しい風景ではなくなりました。
しかし、その道を「極める」ほどの人は、どれほどいるでしょうか?
極めるというのは、例えばYouTubeで延々と2時間、ひとつのゲームの話を面白おかしくできるとか、そのゲームの大会で優勝するとか、二次創作をしてお金を稼ぐほどの人気が出るということを想定します。それがほんの人握りであることは確かでしょう。
ここにビジネス・チャンスが生まれます。アニメやゲームでは、本当に好きであっても、ただただそれを消費して楽しむ人と、自分で作り始めてしまう人がいます。最初はヘタクソでしょうが、学びを繰り返してゆくうちに人を楽しませられるものができる人が生まれます。あの米津玄師さんも最初はアマチュアのボーカロイド・プロデューサーでした。
私の演奏しているケルト音楽では、ヨーロッパの最新の動向を常にチェックして、CDを取り寄せ、動画を試聴する熱心なファンの方と、自分で楽器を手に持って人前で演奏活動をする方がいます。もちろん、消費者があってこその業界ですから、そのどちらにも優劣はありません。私だって、これまでケルト音楽には何百万円と費やしてきたでしょう。
しかし、もしあなたが「自分が大好きなことが仕事になったら」と夢想しているのでしたら、今日から考え方を切り替えるべきです。
単純に言えば、買ったり追っかけをしたりする消費のはインプット、創作したり研究発表したりするのはアウトプットです。いきなり商品を作って売ったり楽器を持って人前で演奏しなくても、たとえば大好きなことについてブログを書くとか動画で話をするとか、お金も技術もいらない表現方法から始めてみてはいかがでしょうか。
とことんシェアをすることで喜びが広がる
オタクの行動の源泉は「好奇心」と「愛情」です。
興味の対象について深く広く知りたい、常に触れていたい、どっぷりとのその世界に浸かりたい…。それがコレクションしたり調べたりする行動に繋がります。
私はそうしてコレクションしたり調べたことを、多くの人とシェアしたいと思います。シンプルに、自分が良いと思うものを人にも良いと思ってほしいからです。
「幸せは分け合うほどに増えていく」という言葉があります。知識や情報のシェアにはお金は要りません。シェアをして自分が損することもありません。
例えば好きなアーテイストの新しいCDが出ると分かればすぐに情報をSNSでシェアする。そのアーティストのインタビューを翻訳して要約をブログに載せる。国内盤が出る前に個人輸入してレビューを書く。もし国内盤が出ないのであればファン仲間の分を共同購入する。
こんなちょっとしたことでも「ただのファン」からは一歩抜きん出て、その世界で目立つことができます。
私の情熱の対象は「ケルトの笛」ですから、笛について調べたことや最新のニュースを自分のSNSアカウントで即座にシェアしたり、本にまとめて出版したりしています。
そうして自分から積極的に動くことで自分のフォロワーが増えてゆきます。ここでのフォロワーとはSNSのフォロワー数のことではなく、同じように熱病に感染して、自分をお手本に能動的に行動をする人のことです。そうやって仲間が増えてゆけば、その業界はもっともっと楽しくなります。
極めたオタクには誰も追随できない
最近私は、ティン・ホイッスルという小さな縦笛を100種類あまり集めて計測して、発表する長期計画を実行中です。
ティン・ホイッスルには決まった規格がないので、それぞれデザインがバラバラで、色・素材・形状などすべてが異なります。そういったデータを専門的な機械で計測して、データの違いが演奏性や音色に与える影響について調べています。
その上で、演奏動画を撮影して、データを載せてYouTubeで1本の笛につき1本の動画を製作して発表していきます。こういった試みは世界では行われていないので、日本国内よりも圧倒的に愛好家が多い海外を意識して、動画は全英語で製作しています。この手のマニアックな動画にはニュース性が不要ですから自分のペースで発表すれば良いですし、データは永遠に不変ですから、何年も見られ続ける価値があると確信しています。
その情熱の源泉は「自分の好きなことで人に喜ばれたい」、それだけです。この動画を見た人が笛選びの参考になれればと思っています。
他にも、Amazon Musicでケルト音楽の膨大なプレイリストを製作して、公開しました。楽器ごとで数十時間分の曲をリストアップしています。こんなことをすると当店のCDの売上に影響が出ると思うのが普通でしょうが、もうCDの時代ではないことは承知の上で、この音楽が好きな人に喜んでほしいという気持ちで行っています。
ビジネスの原動力がオタク趣味の人は、儲かるとか儲からないとか関係なく、好奇心と愛情で周りを巻き込んでビジネスを発展させていきます。
私のビジネスの強みは、すなわち私のオタク趣味です。将来、市場が拡大して大手が参入しても、ただ「儲かるから」だけでは私のビジネスのシェアを奪うことはできませんし、ファンはお金儲け臭を嗅ぎ分けて嫌いますから、そうそう簡単に参入できません。
仮に大手が資金力や人員を総動員してスケール戦略でシェアを奪ったとして、私のビジネスはマニアックなポジションを確立していますから、続けてゆくことができるのです。
かくして「オタクが強い時代」、というのはビジネスにおいても通用するトレンドなのです。