hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

自社オリジナル商品を持つメリット 〜「どこでもパイプス」を例に〜

こんにちは! ケルト音楽専門の輸入楽器店を経営している音楽家のhataoです。

こちらの連載では、ベンチャー零細企業を経営する上での私の経験やアイデアをシェアしています。

前回の記事では当店のような小売業がオリジナル商品の開発を続けている理由についてお話をしました。それは主に「為替価格の変動リスク」「仕入元の都合によるリスク」に対応するためだと述べました。環境要因に左右されずに商品仕入れの主導権を握ることが原動力となったのです。

そうしていくつかの商品を開発し販売した経験から、オリジナル商品を持つことには、絶大なメリットがあることを感じています。

オリジナル商品を持つことのメリット

それは、価格やプロダクトの決定権を完全に自分が持てるということです。

まず価格についてお話しましょう。

商品の仕入元がある以上は、自社と仕入元の両者によって決められた価格で取り引きをしなくてはいけません。よほどの大量仕入れでなければ、価格の決定権は仕入元が握っています。値上げすると言われれば従うほかないでしょう。また仕入元との専売契約を結んでいるのでなければ、同じ商品を同業他店が取り扱う可能性があります。現代では消費者が海外から直接購入することも容易です。価格はこれらのバランスを考慮して決定する必要があります。最悪な場合には他店との価格競争に引きずり込まれ、利益をすり減らすという恐れがあります。

自社で開発した商品が市場にないユニークなものであれば、価格競争からは自由になることができます。通常、小売店が商品を仕入れるまでには製造者のほかに問屋や仲介業者など複数の業者が関わっていることが多く、中間費用が上乗せされています。

一方でオリジナル商品では、製造者と直接取り引きをすることにより中間費用を省略して原価を低く抑えることができます。利益率を高め、状況によっては小売価格を下げることも可能となるので、価格競争力が高まります。

二つ目のメリットはプロダクトの決定権を持てることです。

複数の業者に卸している商品であれば、製造者は一つの取引先の意向だけを尊重することはできませんが、オリジナル商品は製造者と直接やりとりをして開発するため、意思決定のスピードが速く、それは商品デザインの改善、ロゴの微調整、発注から納品までのプロセス、商品管理の方法など様々な点において有利に働きます。

実例 オリジナルの「バグパイプ」を開発

実例をご紹介しましょう。当店の人気商品に、「どこでもパイプス」があります。ヨーロッパの伝統楽器「バグパイプ」をドイツ在住の職人とともに共同開発したオリジナル商品です。

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=DW_iMN58590&w=725&h=408]

開発の背景には、バグパイプは日本でも広く知られているものの、楽しむまでに多くのハードルがあるという状況がありました。それは以下のようなものです。

(1)値段が高い。

(2)購入方法がわかりにくく、海外に発注する際の英語でのやりとり必要。

(3)受注生産のために注文してからの待ち時間が長い。

(4)教室や教本などが少なく練習が難しい。

(5)リードやバッグのメンテナンスができない。

(6)音量が大きくて自宅で練習できない。

(7)楽器が重たくて持ち運びにくく、演奏において体力の消耗が激しい。

(8)伝統音楽で一番重要な楽器だけに、きまりが細かくて厳しそうである。

当店ではここに着目し、日本でもバグパイプを気軽に楽しんで頂くためにこれらのハードルを解消する必要があると考えました。

そこで以前に日本の楽器イベントで知り合ったドイツ在住のバグパイプ職人に当店のオリジナル楽器開発の相談をし、理想の楽器のアイデアを伝え、いくつもの試作を経て、完成したのが「どこでもパイプス」です。

楽器の特徴を簡単にご紹介すると、小さな音量で、軽く、体力がなくても楽しめ、アンサンブルへの汎用性が高く、デザイン性が良く、低価格・高品質なバグパイプです。

その特徴を生かして場所を選ばず楽しんでいただきたい、どんな音楽にも応用してもらいたい、そんな思いで「どこでもパイプス」と命名しました。

この商品により、上記のハードルはすべて解決されました。

(1)値段が高い。

→楽器としての質は確保しながら、シンプルなデザインを採用することでバグパイプとしては比較的低価格な10万円台を実現しました。

(2)購入方法がわかりにくく、海外に発注する際の英語でのやりとり必要。

→当店が代理店となるので常時購入でき、特注品へのご要望も日本語で可能です。

(3)受注生産のために注文してからの待ち時間が長い。

→定番モデルは常時在庫をストックしています。

(4)教室や教本などが少なく練習が難しい。

→従来のバグパイプから運指を変更し、直感的に操作しやすい運指になったため、すぐに習得が可能です。また、私がこの楽器専用の無料教則ビデオや曲集を制作しました。

(5)リードやバッグのメンテナンスができない。

→調整が容易で耐久性が高いプラスティックリードを使用しています。修理・調整が必要な場合は当店で取り次ぎをし、初期不良や破損は無償で保証しています。

(6)音量が大きくて自宅で練習できない。

→音量を控えめに設計しており、室内での演奏はもちろん、アンサンブルにもよく溶け合います。

(7)楽器が重たくて持ち運びにくく、演奏において体力の消耗が激しい。

→楽器の設計をシンプルにし、軽めの木材を利用していることで軽量化を実現。演奏時の息の消耗も少なめに設計しています。

(8)伝統音楽で一番重要な楽器だけに、きまりが細かくて厳しそうである。

→このバグパイプはまったく新しい楽器ですので、誰に気兼ねすることなく、好きな曲を自由なスタイルで演奏できます。

いかがでしょう、ここまで読んで、楽器をしたことのない方でも「できるかも!」と思ったのではないでしょうか。

自社で開発した商品ですから、商品について熟知しており、お客様にも説得力と自信を持ってプレゼンテーションすることができます。

商品の詳細は以下の販売ページでご覧になれます。

https://celtnofue.com/instrument/dokodemo_pipes.html

商品発表後、改良を重ねる

「どこでもパイプス」は2016年の発表後、改良を重ねていきました。より機能的で、操作性が良く、衛生的でメンテナンスがしやすくなりました。

さらなる革新は、「パーツのバラ売り」を可能にしたことです。
従来のバグパイプは楽器全体で購入するものでしたが、「どこでもパイプス」ではバッグ、メロディ管(チャンター)、伴奏管(ドローン)などパーツを個別に購入していただき、組み立てた状態で商品が届きます。

実は「バグパイプ」といっても音色や音量や運指に様々なタイプの楽器があります。「どこでもパイプス」では、異なるバグパイプの部品の規格を共通にし、部品だけを付け替えて演奏することができるようになっています。つまり、異なる種類のバグパイプを演奏したくなったときに、共通の部品であるバッグや吹き口は買わなくても済み、経済的かつ効率的なのです。

以上のような商品は私の知る範囲では世界になく、大変画期的であり、日本人にとってバグパイプをより親しみやすいものにしたと考えています。

現在、「どこでもパイプス」は多くのご注文をいただいており、また特注品のご要望も多く、頻繁に予約待ちをいただく状態となっています。

オリジナル商品のお話、まだ続きます!

今回は実例として「どこでもパイプス」をご紹介しました。このように、小売店がオリジナル商品を持つことで、その独自性、市場優位性を高めることができます。次回も、当店の他の実例をご紹介し、オリジナル商品開発についてお伝えしていきたいと思っています。どうぞお楽しみに!