hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

年収も貯金額も未知数? ひとり社長のお財布事情。

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。

今回は、自分だけが社員の「ひとり会社」を経営する私が、ひとり社長にありがちなお財布事情について赤裸々にお話しします。

個人事業主から会社経営者へ

今のように楽器店を経営する前、私は音楽家として楽器のレッスンと演奏を行っていました。その頃の私の財布事情は極めてシンプルでした。1回レッスンをして4,000円、演奏をして5,000円〜数万円の謝礼をいただきます。それ以外に自分が制作したCDや楽譜を販売して得た売上金があり、それらの合計が私の売上でした。支出としては家賃や水道光熱費の生活費のほかに、交通費や衣装代や楽器代、自分が勉強するためのレッスン代や楽譜代などがありました。売上から経費を引いた金額が収入。なんと分かりやすいのでしょう。この時代は個人事業主として白色で確定申告をしていたのですが、家計簿のようにエクセルで収支をまとめればよかったので、すぐに終わらせることができました。

現在私はこれらの音楽家としての仕事も継続しながら、楽器店経営の事業を行っています。自分自身は今でも音楽家が本業で楽器店は副業だと考えているのですが、いつしか多くの時間を楽器ではなくPCと向き合いながら過ごすようになり、楽器店からの収入のほうが音楽家としての収入を遥かに上まわってしまいました。音楽家としての売上は、楽器店の会社の売上に含めています。

ところでみなさんは普段、自分の年収や貯金額を意識することはあまりないかと思います。あるとすれば、年収を厳しい目で判断される婚活や住宅ローンの申請の際でしょうか。私はどちらもやっていないのですが、たまにアンケートで年収欄を書くときに自分の年収と貯金額がよくわからなくなります。それはどういったことでしょうか?

会社の財布で牛乳を買ってはいけない!?

個人事業主時代は、自分の生活費と事業費は分けていませんでした。貯金を使って仕入れをして、売上が入ったら自分の銀行口座に入金。確定申告では単純に仕事上の経費と売上だけを申告すればよかったのです。おそらく個人事業を営むみなさんは、よほど会計に対してしっかりした考えのある方でなければ、生活用と事業用の財布は分けていないのではないでしょうか。

一方で法人というのは、法律上は経営者と会社はそれぞれが異なる人格とされています。だから、法人名義で不動産や車などの財産を所有したり銀行口座を持つことができるのです。私は「合同会社ケルトの笛屋さん」という会社法人の経営者ですが、私と会社は別人格なので、それぞれの資産は会計上別のものとして扱われます。

私は会社設立時に資本金100万円を用意して、法人銀行口座も開設しました。顧問税理士から、「ひとり社長であっても、生活用口座と事業用口座は分けてください。公私混同を避けられますし、会計作業も楽です」と言われていたからです。最初は2つの口座をきっちりと分けて、現金も混同しないつもりでいました。

しかし初年度から、法人口座は健康保険料の自動引き落とし以外では使わなくなり、以前と同じように個人の銀行口座で仕入れをし、売上が入金されるままとなってしまいました。法人口座のセキュリティが厳しく、オンライン・バンキングが使いにくかったから……というのは単なる言い訳にしかなりません。それよりも、レッスンや演奏の売上を自分の財布に入れずに封筒に保管しておき、わざわざATMで法人銀行口座に預金しに行くというようなやり方はあまりにもナンセンスに思えたのです。

かくして私の預金通帳は、商品の仕入れ100万円とスーパーでの牛乳の支払い200円が横並びするような醜いものとなってしまいました。これは違法だとか税務署に見つかると処罰されるといったものではありません。きちんと帳簿をつけて辻褄が合えば問題ないのですが、これが自分の貯金額が分からない原因となっています。

自分の貯金額と年収がわからない!?

個人事業主の時代は「売上―経費―控除=課税所得」だったので、自分の年収が正確に把握できました。個人事業のまま売上が増えると、累進課税によって所得税の税率が高くなり、また健康保険も高額になっていきます。そこで法人という別人格を作り、法人から自分に毎月の役員報酬が支払われる形にすると、所得税・保険料が安く抑えられるというわけです。もちろん所得税のほかに法人税もかかってくるのですが、仮に課税所得を1,000万円とした場合、個人事業主の所得税は33%、これに対して法人税は最大でも22.3%というように、法人税の税率の方が低いため、ある程度以上の所得を超えると法人化したほうが得という仕組みになっています。これが、多くの自営業者が「ひとり会社」として法人化する理由です。

私は役員報酬を月20万円と定めました。これにより健康保険料は法人化前に月9万円ほど支払っていたのが6万円程度(会社と個人とで3万円ずつ)とずいぶんと安くなりました。しかし私の年収は、正確には240万円ということになります。個人事業主時代からはずいぶんと下がりました。結婚相談所では相手にもされない年収ですね(涙)。

また、貯金額もよく分からなくなってしまいました。銀行口座にあるお金は仕入れに使うこともできますすが、プライベートな支出に使おうと思えばできないこともありません。この境目が曖昧になることが、法人と個人の資産を混ぜることのデメリットです。先日は老後資金のお話しをしましたが、現在ある預金額のすべてをプライベートな資産だと考えると将来設計を誤りかねません。私はこの銀行預金から仕入れをしてスタッフへの給与を支払うので、月によって支払いが重なったりすると一気に数百万円も貯金額が下がるということもありえます。どの時点を取るかによって貯金額が上下に大きくふれるので、結局、貯金額もよくわからないのです。また、一時的に現金が減っていても在庫高に変わっただけなので、ゆくゆく商品が売れてまた現金となって増えて戻ってきます。ですから、貯金額を聞かれたときには「現金は○万円で金融資産は○万円だけど、そのほかに在庫高が○万円あって〜」と、妙な言い方をしなくてはならず、経営者でない一般的な経済感覚の人には理解されないでしょう。

ひとり社長は節制と自己管理を

読者に私のように法人化を計画している個人経営者がいれば、私を反面教師としてきちんと事業と生活費の財布を分けることを薦めます。特に自己管理ができないタイプの人であれば、月々の役員報酬を超えて支出したり、事業用の貯金から巨額な個人的な支払いをしたりすることが予想され、気がつくと事業資金がショートしてしまう恐れがあります。

私は本当に「ざっくり」で、出費が重なると月に500万円くらい一気に減ってしまうことがあるので、そんな月でも余裕があるように貯金額には常に気を配っています。貯金は心の安心につながりますから。

それではまた次回!