hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

納品した100万円の商品に傷が! 高額商品のトラブルにどう対応する?

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。

私はこのビジネスを営んで十余年、さまざまな困難に出会ってきました。今回はその中でも最も金額の大きなトラブルが発生してしまいました。トラブルに私がどう対処したのか、そしてトラブルは回避できたのか、考えます。

納品した100万円の商品に傷が!

弊社では数千〜数万円程度の比較的安い価格帯の楽器を取り扱っています。その中では例外的に高額な商品が、アメリカ製のアイリッシュ・ハープです。近年の円安の影響を受けてその価格は跳ね上がり、弊社の最高級品ではついに100万円を超えてしまいました。先日その最高級ハープを納品したお客様から、楽器が届いた当日に傷が報告されました。この個体は私が直々に空港まで行って引き取った商品で、その翌日にスタッフの検品を経て、運送会社で遠く離れたお客様に納品したものです。

このメーカーの品質は非常に高く、また事務対応においても完璧でこれまで一度もミスがないため、私としては数ある取引先の中でも最も高く評価しています。このような故障の報告は、もちろん初めてです。自動車が買える値段の商品に故障があったことを知ったお客様のショックはいかばかりかと思いますが、私も大きな動揺を覚えました。

不可解な傷

このお客様は、たくさんの生徒さんを紹介くださったハープ講師のM先生をからのご紹介いただきました。そのため、故障の報告は講師のM先生を通じて受け取りました。私はM先生にこのような事態を起こしてしまったことをお詫びするとともに、お客様の連絡手段としてLINEを直接ご紹介いただき、ご本人から発見の状況を詳しく伺いました。

傷があったのはハープ本体の下部とハープに取り付ける4本の脚のうち2本でした。写真を見る限りこれらは何か硬いものにぶつけたような打痕で、本体の下部はひび割れて今にもかけらが取れてしまいそうに見えました。

この脚は着脱できる仕様になっており、弊社への入荷時と弊社からの発送時は取り外していた状態でケースに入れて発送しています。ですので、本体と脚の、しかも同じ方向に傷がついているということは、これらを組み立てた状態で何かにぶつけたとしか考えられません。脚は、輸送中は分解してケースに入れていましたから、輸送中の事故ではありません。ということは事故が起きたのはアメリカの工場を出荷する前か、弊社のスタッフの検品中か、お客様のところに届いてからか、その3つタイミングのどれかということになります。

私はこの三者に詳しくお話しを聞きました。アメリカのメーカー担当者は、製造時から出荷前に何人もの製造責任者のチェックを経ているので、このようなあからさまな故障を見逃すことはありえないと言います。弊社スタッフにも開梱や検品や出荷までの状況を聞きましたが、その過程で何かにぶつけたことはないとのことです。お客様にもご家族含めどなたが開梱したかなど発見に至る状況を詳しく伺いました。受け取ったその日に見つかったため、もちろんお客様の問題でないことは確かです。せめて弊社の入荷時と出荷前に詳細な写真でも撮影しておけば手がかりになったのですが、そのような証拠となるものはなく、原因はまったく解明できませんでした。

謝罪のタイミングと対応の申し出

 私は、お客様の連絡先をいただいてすぐにLINEで謝罪し、事態が解決するまで原因の究明と対応に誠意を持ってあたりますとお伝えしました。また、このような問題のある商品を送ってしまった以上は、弊社が全責任を持ってお客様のご要望通りにすると伝えました。

その時提案した対応とはA・返品/返金対応する、B・代わりの品物を再度輸入して納品する、C・弊社の責任において修理して、さらに値引きして一部返金する、という3択でした。お客様は長く待った楽器なので、なるべく修理してこの楽器を使いたいとおっしゃいました。つまりCを選ばれました。

私はメーカーの担当者にも事故状況と弊社の対応を伝え、相談に乗ってもらいました。担当者によると、このような事故が発生した場合、すぐに謝罪はせずにまずはお客様の困難な状況に共感を示し、お客様と同じ目線で事故原因の究明に当たるそうです。その結果明らかに売り手に問題があれば修理など対応するが、どちら側に問題があったか不明な場合は双方で半々の責任にするということでした。

日米で異なる顧客との力関係

日本の常識である「お客様は神様です」という言葉は、誤解が広まったものだとよく言われます。しかし日本では今でも取引で何らかの問題が発生した場合、売り手が無制限に責任を負うことが求められていると感じています。

例えば問題のある商品を販売したとき、その返品にかかる費用を売り手が全額負担することはもちろん、そのトラブルによって買い手に損失が生じた場合は(例えばお客様がプロの音楽家でレッスンや演奏ができず収入に影響が出たなど)、その損失分も売り手が負担しなくてはいけないと一般的に考えられているのではないでしょうか。

そのような対応を怠ったとき売り手は悪徳業者としてネットで悪評が立ち、信頼を失います。私はそのような事態を最も恐れています。信頼を失うことは、より大きな金銭的損失を広げることに直結するからです。そのため、真っ先に謝罪をして全責任を弊社が負うことを自ら提案しました。

しかしこのことをアメリカの担当者に伝えると、半ば呆れながら「日本は今でもそのような商習慣なのですね」と言われてしまいました。アメリカでは、売り手と買い手は対等であり、何らかの問題が生じた場合は双方にとって最も合理的な方法で事態の解決を目指すそうです。

今回のケースでいえば、私が提案したA、Bともに弊社のダメージが非常に大きい選択です。ハープは大型商品のため往復送料は数万円と高くつきますし、このような事故商品はまともな値段では売れません。少なく見積もっても数十万円は損してしまうでしょう。Cの場合にも、修理費が安く収まったとしても100万円超の楽器ですから数万円の値引きではお客様は納得しないでしょう。いずれにしてもお客様には損失はなく、弊社には大きな損失が出ます。それが当たり前だと思われるかもしれませんが、これでは問題が起きた時のリスクが大きく、ビジネスを安定的に継続することが困難になります。

アメリカの担当者はこのようなケースの場合、どちらに問題があったかを完全に証明することができない以上は双方で修理費を負担するように顧客に提案するそうです。私にはそれは今の日本では現実的な解決手段とは思えませんでした。もしお客様がそれを承諾しなければ、さらに状況を悪化させると思われるからです。

意外な解決法、協力的なお客様に救われる

事態が紛糾しそうに見えたとき、救いが差し伸べられました。お客様の街に非常に腕のよいハープの修理士がおり、講師のM先生にご紹介いただき相談したところ、偶然にもお客様のすぐそばにお住まいで、その当日に引き取り、修理してくださることになったのです。修理費用は私の想像よりもかなり安くしていただき、完全に目立たなくなるほどに打痕を修理していただきました。そのスピード感と修理後の出来栄えにお客様は大満足のご様子でした。

ハープが再びお客様のところに納品されたあと、私はお客様に値引きについて率直なご希望をお知らせください、と伝えると、誠実に対応してくれたので今回はこれで矛を収めるとのありがたいお言葉をいただき、私は追加の費用支払いを免れることができました。今回想像された結末の中で、予想外に全員にとって最も良い着地点に収まることができたのです。

リスクをゼロにできないのなら、より合理的な解決法を用意しておく

今回のトラブルは防ぐことはできたのでしょうか?

入荷時と出荷時に弊社スタッフがあらゆる角度から商品を撮影すればよかったのでしょうか。では、その写真の商品がその個体であることをどうやって証明するのでしょう? 当日の新聞など日付を証明するものと一緒に撮る? でも同じ日に撮った違う個体である可能性はどう否定するのでしょうか? 楽器に消去不可能なシリアルナンバーをつける? そのように考えると、完全に弊社の責任を回避することはできないという結論になります。それ以前に、すべての商品にそのような手間をかけることは現実的ではありません。

出荷前の検品をしっかり行うことは当然としても、問題が起こってしまったとき、すぐに返金や交換といった対応を提案するのではなく、お客様にも協力していただき事態の解決を図ることを優先してはどうでしょうか。

例えばお客様にも行える簡単な調整や修理であれば、ビデオ通話を利用してスタッフ指導のもと作業を行っていただく、近くに修理できる環境があれば売り手が修理費用を負担してお客様のほうで修理に持ち込んでもらう、などです。このような対応は日本の常識から外れているかもしれませんが、双方が協力することによりお互いの損失が最小化できる方法を取ることは、ビジネスを継続する上で欠かせないと感じています。

今回のトラブルは私にとって大変な心労でしたが、大きな学びになりました。輸入業者としての経験値をさらに積んだ思いです。それでは、また次回!