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ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

40代経営者の考える「お金と幸福」

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアします。

今回は、『お金と幸福』について、私の人生経験と率直な気持ちをシェアします。
私は経済的に恵まれた家庭に育ち、幼少期はお金に苦労したことはありませんでしたが、音楽家としての道を選んだ後、芸術的に生きることと経済的自由の両立について深く考えるようになりました。

お金で苦労する人生は嫌だと思った

思い返せば私の家庭環境はとても恵まれていました。
典型的な昭和のサラリーマン家庭に生まれ育ち、専業主婦だった母親と兄弟との五人家族で何ひとつ不自由なく育ちました。当時は周りの家庭環境など知らなかったので、友達に比べてお小遣いが少ないなどと文句を言っていたものですが、大きな家を建てて三人の兄弟を大学まで行かせた父はかなり経済力があったのだと思います。そのため、小さい頃にお金苦労したという経験はありません。親は退職した今でも経済的に自立して生活しています。

そんな私は大学を卒業して音楽家として生きていきたいと思い、3年間だけアルバイトをして音楽家として生活が成り立たなかったら就職すると誓いを立て、フリーターとなりました。

当時は友人とハウスシェアしたり、祖母の家に転がり込んだりして家賃を抑えて、自炊をしてそれなりに収入の範囲内でやりくりしていました。この頃は親の援助はなくアルバイトも大した収入はありませんでしたが、借金をしたことも、貯金がピンチになったこともありません。それなりに堅実だったのでしょう。

それから結婚することになり就職をして会社員として働いたのですが、やはり音楽家になる夢を諦めきれず、26歳で会社員を辞めました。その頃になると多少は演奏やレッスンで稼げるようになっていたのですが、音楽稼業、特に私のやっているようなケルト音楽というニッチなジャンルでは、大成功は難しいことは明らかでした。当時50〜60代の先輩音楽家を見れば自分の将来像が想像ができました。音楽家という職業に昇給はなく、何歳になっても自分の実力と努力で稼がなくてはいけません。中年の彼らは、若い頃の私と同じようなギャラで演奏していました。

ある時、印象的な出来事がありました。ある演奏の仕事をしていた時、パートナーとして演奏していた50代くらいの先輩音楽家が主催者とお金のことで揉めたのです。それも数千円の違いで。私はそれを見て、みっともないな、自分はこうはなりたくないな……と思ったのでした。

音楽家でいるためには、自由であることが必要でした。練習時間、演奏依頼に応えられる時間、修行のための時間。しかし、自由であることとお金を稼ぐことを両立させるのは、とても難しい問いのように思えました。

40代でお金と自由の両方を手に入れた

その頃から私は、音楽家として活動する傍ら、自由を得るためにセールスを学びました。商品を仕入れて売る。商品を作って売る。単純なことです。セールスができれば、食べるのには困りません。仮に貯金が底をついても、セールスができれば再起できるのです。これほど自信になることはありません。

売れたらまた仕入れて、また売る。そのシンプルなサイクルをより速くより大きく回してゆくことで、収入はどんどん増えていきました。収入が増えると、それまで自分を忙しくさせていた瑣末な仕事を外注できるようになり、生まれた余暇の時間で本や楽譜やnoteを書いたり、レッスン動画やCDを作って販売したりしました。今ではさらにYouTubeの収入やPatreonのサポーター会員や、不動産や金融投資からの収入もあります。それぞれの収入は微々たるものでも、年を経るごとにそれぞれが成長していきました。複数の収入源を作ることで、仮に音楽が演奏できない身体になっても、楽器店経営が傾いても、生きていけるという安心感を持つことができました。

今は3つの店舗は全てスタッフに任せており、私は仕入れや原価計算、多少の会計、お客様への対応の一部を担当しています。これらの仕事は、パソコンがあればいつどこにいてもすることができますから、私はほとんど家を空けて毎週のように海外や色々な地方に滞在しています。

お金で買えるものはとても多い

「お金で買えないもの」で検索すると、様々な記事を読むことができます。代表的なものは「お金で愛情は買えない」「お金で健康は買えない」「お金で過去は変えられない」などです。当たり前です。お金は全知全能の神様ではないのですから。

しかし、こういった記事が書かれるのは、実際にはお金で買えるものはあまりに多いということを表しています。健康的な食生活、自由でゆとりのある暮らし、快適で安全な生活環境、良好な人間関係、経験と知識、ストレスフリーな生活、将来への安心。このように一見お金とは無関係に見えるようなものは、お金によって得ることができます。むしろお金がないと得られないものばかりです。お金持ちが豊かなのは、ただ物質的に豊かなのではなく、こういった快適さがもたらす精神的な豊かさを持っていることでもあるのです。

お金持ちは何重にも守られています。例えばお金持ちが車で交通事故を起こしたとしましょう。良い車であれば頑丈なので、自分の身体へのダメージはより少なくなります。良い保険に入っていれば、物損や健康被害に対して大きな保険金が支払われます。怪我をしても、良い医療を受けることができます。車はすぐに買い替えることができます。賠償責任が生じても支払って解決することができます。しかしお金がない人が事故を起こすと……まさに取り返しのつかないことになるでしょう。こういったことが、お金持ちとそうでない人との間に財産以上の格差を生んでいるのです。

お金と癒し

私は若い頃いつも人間関係のトラブルや悩み、将来への不安を抱えていました。それはお金の問題ではなく私の未熟さゆえなのでした。しかし40代の今、精神的にとても安定しています。その理由は、安定した経済基盤を手に入れたことが大きいと実感しています。健康さえ問題がなければ、このまま将来も幸せに生きていけるのだという確信です。

お金は豊かさをもたらすだけでなく、癒しを与えます。私は高校生の頃はネクラで目立たずブサイクで女性にモテず、勉強以外に取り柄のなかった人間でしたが、今は過去のことは前世の話だったのかな程度に思います。若い頃は他の音楽家の活躍が妬ましく思ったこともありましたが、今はどんどん活躍してほしいと思っています。若い頃に失敗した買い物や旅行や投資をしばらく悔やんでいましたが、今はそのくらいのお金はすぐに稼げるので、少しも悔しく思いません。お金を手にすることで、お金への執着はどんどん少なくなっていると感じています。豊かになったことが、過去の心の傷を癒してくれたのです。

Fireは人生のゴールか

40代まででやりたいこと、欲しいものは大抵手に入れました。欲しかった楽器をすべて買い、二店舗のリフォーム費用を支払い、家を買いリフォームし、田舎の別荘を4軒買い、キャンピングカーを買い、毎年何度も海外に行きました。全て現金払いです。豊かである現状には大いに満足しています。しかし、お金では満たされない思いや虚しさを感じることもあります。贅沢は飽きます。豪華温泉旅館も、3日もいたらご馳走ばかりで胃がおかしくなるかもしれません。

少し前、若い世代ではFIRE(早期リタイア)を目指す人が多いと聞きました。私は、仮に自分の楽器店が大手の楽器店に十分な価格で売却できるとしても、そうはせずに今と同じように音楽に関わって生きていたいと思います。それが自分を社会に繋ぎ止める唯一の方法であり、自分の能力を社会に役立てられる方法だと思うからです。これからの人生も、今のように自由な音楽家として生きていくことができれば、それが私にとっては一番幸せなのです。