hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

見知らぬ中国人に50万円を送金−どこまでリスクを取れるのか?

こんにちは! ケルトの笛演奏家で、ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が、起業やビジネスに関するアイデアや経験を皆さんとシェアします。

前回はパキスタン楽器の輸入ビジネスに手を出して手痛い失敗をしたエピソードをシェアしました。輸入ビジネスをしていると、様々なトラブルに見舞われます。弊社では問屋を通さずに直接取引をしており、有名な楽器メーカーとの取引もあれば、海外の知らない個人商店や職人との取引もあります。これまでの輸入関係の失敗では、お客様からの取り寄せ依頼で海外のアコーディオン販売店に楽器を注文したが支払い後に商品が送られてこない、ということがありました。数万円でも無駄にしたと思うと、それは辛いものです。それでも経営者たるもの、リスクを恐れるべきではないのです。そこで、今回はビジネスで取りうるリスクについてお話します。

中国メーカーへ送金手段がない!

数年前のことです。中国でティン・ホイッスル(アイルランドの縦笛)を製造している職人から、商品サンプルを送るから気に入ったら買ってほしいとのことで、笛が10本ほど送られてきました。近年中国製楽器は品質が良く、この職人の楽器を私はとても気に入ったのですが、似たデザインの他社の商品を取り扱っていたため購入は見送りました。その後、商品をサンプルとして店頭に展示していたところ、数年経ってお客様から取り寄せ依頼が入りました。昔とは状況が変わり、円安で欧米からの仕入れが厳しくなってきたことから、この夏に数年ぶりにWeChatで職人に連絡を取って、大口の発注をすることにしました。

問題は送金です。この職人は海外への販売実績がなく、国際取引に使える銀行口座も持っておらず、またPayPalやクレジットカードでの代金受け取り方法もないというのです。さらに、国際発送をしたこともなければインボイスを発行したこともないので、卸売割引を適用するから某有名中国オンライン・ショッピング・モールを通して買ってくれといいます。しかし、某モールで決済をするには中国国内の銀行口座かそれに紐づいたクレジットカードが必要です。これは初めてのケースで大変困りました。中国の雲南省に私が単身乗り込んで現金で支払って買って帰ろうかと本気で思ったほどです。

そんな時期に、Facebookでこの職人の笛を海外に発送しているというアカウントを見つけました。イニシャルTと名乗るその人物は流暢な英文で頻繁にFacebookのティン・ホイッスル・コミュニティに投稿を繰り返していたので、私は英文でメッセージを送りました。そして、私が個人の顧客ではなく楽器商であることと、職人とはすでに取引価格の合意ができていることを伝え、送金の代行をしてもらえないか交渉しました。

すると、いとも簡単に引き受けてくれることとなりました。方法はこうです。T氏が某オンライン・モールにダミーの発注をする。この時の合計金額は私が実際に職人に支払う金額にするが、内容品と数量は実際のものとは異なるでたらめのものである。モール側は注文金額と内容を職人に伝えるが実際の発送内容には関知しない。だから職人はモールに私の注文した商品を発送し、モールは日本にその商品を送るので、職人は国際貿易の複雑な取引事務を省略ができる、と。本当にそんな方法でうまくいくのか? 私は半信半疑ながらも、このT氏を信じることにしました。

同時に、職人にもT氏を通じて送金をすることを伝え、注文内容の通りに商品を送るようにと念を押しました。職人はT氏とは会ったことはないが、これまでも個人顧客への販売代行をしてくれていると答えました。もしもT氏が詐欺だったら? 職人とグルだったら? それはもちろん考えましたが、メッセージのやりとりからこの人たちは大丈夫だと直感しました。

T氏は中国内モンゴル自治区に住んでいるそうです。私は、職人の住所も、T氏の本名や素性も何も知らず、また調べようともしませんでした。試しに私はT氏が提供した国際銀行口座に、WISEから100中国元(2000円ほど)を送金してみました。資金はすぐに届きました。着金したのを確認して、私は取引金額の50万円をT氏に送金したのでした。

T氏とのMessengerでのやりとりは、最初は英語で、やがてすぐに中国語に変わりました。英語よりも中国語でやりとりしたほうが、より相手の性格や態度を感じることができます。その丁寧な連絡の様子に、私はまた信頼を深めたのでした。

そうして数日、商品が届きました。内容はとても正確で、また品質も素晴らしく、期待どおりのものでした。さらに嬉しいことに、原価計算をすると欧米から輸入していた同クラスの商品よりもずっと原価を抑えることができたのです。私はこのビジネスの将来性を確信しました。

リスクを取って挑戦する、それを繰り返す

ビジネスも金融投資も、「絶対に損しない」ことはありえません。どちらもリスクと成功を天秤にかけ、勝てる見込みがあれば挑戦することが求められます。挑戦なくして、成功もまたありえません。

大切なことは、失敗して再起不能になるような挑戦をしないことです。今回の50万円の送金には、相手が「ドロン」するというリスクはゼロではありませんでした。50万円といえば中国人の平均年収の1/4ですから、相当な大金です。それでも私は決断しました。仮に50万円を失っても−それは手痛い失敗ではありますが、再起不能になるほどではないからです。

新規のビジネスには常に予測不能な部分があるのですが、だからこそ他社が挑戦しておらず市場を独占できる可能性があるのです。たまに失敗して痛い目を見ることもあるでしょう。しかし、その失敗は糧となり、人間や機運を読む直感がさらに鋭くなるのです。失敗をすればするほど、勝率が高まります。

ただし気をつけたいことは、取れるリスクの程度が自分の器によって異なることです。売り上げ規模が数千万円台なら数十万円のリスクを、数億円規模なら数百万円のリスクをとることができ、それに見合ったリターンを見込むことができます。自分がどこまでならリスクを取れるのかを正しく知ることが大事なのです。