SHINGO KURONO

1985年生まれ。2006年フランスへ渡りデザインを学ぶ。帰国後国内のデザイン事務所で経験を積み、2015年独立、デザインプロジェクト humar.(ユーモア) に参加。プロダクト、グラフィック、WEBデザインなどジャンルレスにデザイン活動をしている。作る側とそれを使う側の新しいコミュニケーションを模索するTHE HOTEL LINKSや、お茶ブランドTheThéを運営。 http://www.shingokurono.com http://humar.co http://www.thehotellinks.co http://the2.co

100m走の選手がゴール手前で上半身を前に倒すというようなこと

いや、もしかするとまだ間に合うかもしれない。

それでもけっこう距離もあるし、どう考えても普通に歩いていたんじゃ間に合わない。

それでも、可能性はあるはずだ。

だいたいの場合、閉まる時間は押すものだ。

仮に間に合ったとしても、ゆっくりと選ぶ時間がないかもしれない。

それならばまた明日にでもゆっくり行くべきかもしれない。

そんな僕の葛藤をよそに、半蔵門線は青山一丁目の駅で十何人かの人を乗せ、表参道へと向かう。

渋谷駅に到着し、ホームで待つ人達がドアが開かれるのを今か今かと待ち構えている瞬間にも、僕はまだ迷っていた。

それでも、ドアが開くと同時に席から立ち上がっていて、15inchのMacBookと本が2冊、バッテリーとハードディスク、ペットボトルのポカリスエットを詰め込んだ思いリュックを背負い込んでいた。

たしか15か16番出口だ。

電車に乗り込む人々を文字通り擦り抜けて、左側に進む。

案内表示には「出口1〜8」と、黄色いベースにフルティガーの黒字で書かれていた。

そうだ、僕は大手町から乗り込んだから、いつもと反対方向だ。
時間がないと言っているのに、なんて単純なミスを犯してしまったのだろう。

反対方向に向きを変えて、スマホを見ながら歩くひとたちと、今日も一日働きづめだったのだろう、疲れた顔をして、頭をぼりぼりと掻きながら歩くサラリーマンの脇をくぐり抜けて15、もしくは16番出口に向かう。

毎回思うのだが、半蔵門線(田園都市線)からJRの方に向かう動線はもう少しどうにかならなかったのだろうか。

そして早歩きで歩みを進め、辿り着いた。
やっぱり思った通りだ。

営業時間21:00まで、とサイトには書いてあったが、まだ食品売り場は空いていて、ギリギリまで今日の夕食を選ぶひとで賑わっていた。

Shingo KURONO