小さな手から小さな封筒を受け取った。
ひとことの手紙だった。
「どうしたのこれ?」
突然渡された
彼女の真っ直ぐ過ぎるものに戸惑い、
それ隠したくて咄嗟に質問をした。
数秒の沈黙のあと
「んーだってね、かきたいとおもったから」
と彼女。
そんなことを聞いてしまった自分が恥ずかしくなり、
「そっか、宝物にするね。」と小さな声で返した。
教えてくれてありがとう。
彼女は私の手を引きながら
何度も私の名前をただ呼んでは私を見上げ、
ずっとニコニコ笑っている。
いつか彼女と同じ背丈の頃
こんな景色見上げていたなぁとフラッシュバックした。
その時も桜色が香っていたっけ。
手紙にあったクレヨンの感触は
沢山の思い出も香らせ、
苦しさに酷似した切なさの後に
心の底からホッとする何かを溢れさせた。
吸い込んだそれらはため息にかわり、
深呼吸に乗せてごまかした。
様々な想いや光景を巡らせながら手を引かれていると、
少しひんやり、でも心地良い風が吹いて空を仰いだ。
「なにがみえる?」
と彼女が聞く。
「ううん、きれいだなぁと思ってさ」
と返事をした。
彼女は背伸びをして小さな手を
空へめいいっぱい挙げた。
もう少し大きくなったら届くかもねと言うと
目を大きくしていた。
笑う私を覗き込む顔に
不意に涙を落としてしまいそうだったから
彼女の手を上に引き、空に少しだけ近づけて
一緒に見上げた。
届きそうか聞くと
彼女は嬉しそうにもう一回やってとせがんだ。
こんなこともあったなぁと目を細めた。
空にはいつもの夕陽が輝いていた。
「あのね、シンダララはね」
とおしゃべりがはじまる。
「んーっと……」と私、
「まじょがね」と彼女、
「シンデレラ?おひめさま?」
「そう シンダララ」
と彼女は照れてみんなが笑った。
日常の至福につつまれた4月2日。
たったひとことの
彼女からの手紙で届けられもの。
戸惑いながら受け取り
思い出して気づいた
とてもとてもシンプルなその感覚は、
まるであの時に吹いた風のように優しくて、
夕陽の空はあの日とかわらずとても大きかった。
振り返ると
風はまだ桜をほのかに揺らしている。
眩しい夕陽に目を閉じるふりをして
またごまかした。
「またおてがみかくね」
彼女は繋ぎ続けていた小さな手をそっと離した。
「ありがとう またね」
私は大きくなった手を振った。
ただ全部が痛いほど愛おしかった。
My dear.
Cherry blossoms are in full bloom.
I can not see thém without thinking of you.
I wanted to write down this feeling before I would forget.
No use thinking about it now.
But I am painfully aware of this invaluable treasure of mine.
It gave me strength.I owe you.
Masako Takano.
ps Your hands were special to me.