春、おしゃれの季節のきもの選び
2月も半ば、まだまだ寒いとはいえ少しずつ春の兆しを感じるようになってきました。芽吹きの季節はおしゃれも楽しいですよね。きものも洋服もモノトーンが多い私でも暖かくなってくると鮮やかな色を着たくなるから不思議です。
きものの柄といえば植物が多く描かれていますよね。特に多く見かける梅、桜、牡丹などはこれからシーズンを迎える花々。
花の季節の合わせて着よう!と思っている方もいらっしゃるかと思いますが、ちょっとストップ!きものの柄選びにはちょっとしたルールがあるのです。
基本は先取り。主役はあくまで実物の花!
実はきものの世界では「満開を迎えている花の柄は着ない」という暗黙のルールがあります。
なぜかというと、人が描いたきものの花よりも本物の花の方が美しいので本物の花よりも自分が目立ってしまうのは野暮だから、という考えからなんです。せっかく花見に来たのに満開の桜と競うように桜のきものを着るのは粋ではないということなんですね。
一見ちょっとややこしくも感じられますが、自然の美しさには勝てないと知っていた昔の人たちの間で自然に生まれたルールだと思うとなかなかおしゃれではありませんか?
そういうわけなので、花の季節よりも早い時期に先取りで着るのが基本とされています。例えば今なら咲き始めの梅がちょうど着られる頃。
反対に、満開の時期を避けるならば見頃を過ぎた水仙や椿なら良いのでは?と思われるかも知れませんが、それはあまりおしゃれではないんです。
枕草子のなかで清少納言が「葵祭が終わってからも干からびた葵の葉っぱをいつまでも飾っておくのは風情がない」と酷評する一説がありますが、日本の美意識には季節を過ぎたものは潔く片付けるのが良いという感覚があるんですね。今でも松の内を過ぎてもお正月飾りを出しっぱなしにしているとだらしがないように見えるのと同じでしょうか。
ただ、メインの柄ではなくワンポイントで取り入れるのは「名残り」といっておしゃれになるんです。これは上級者向きなので+αと考えましょう!
季節を着にせずに着られる柄の見分け方
ここまで読んで、うっかり季節外れの柄を着てしまいそうで不安…と思われた方もいらっしゃると思います。でも大丈夫。植物の柄でも季節を問わず着られる柄もあるんです。
たとえば前回の記事でコーディネートしたこの着物。梅の柄としてご紹介しましたが、赤い菊が一緒に描かれています。これは万寿菊(まんじゅぎく)と呼ばれる菊をデフォルメした柄でころんとしたフォルムがかわいらしい。梅=春、菊=秋なのでどちらの季節にも着られるんですよ。
他にも桜や牡丹と紅葉などの組み合わせはしばしば見られます。ちなみに、紅葉というと秋のイメージですが初夏の青々とした紅葉は青楓で呼ばれてこちらも好まれる柄なので季節が特定される色でなければいつの季節でも着て大丈夫です。
植物以外の柄を選べば間違える心配なし!
もうひとつ、絶対に季節を間違える心配がないのは植物以外の柄を選ぶこと。まぁ当たり前といえば当たり前なんですが、幾何学模様だったり扇や牛車といったモチーフを選べば季節を問わず着られて安心。縞や格子などは洋服でも着慣れている柄なのでビギナーさんにおすすめです。
その場合ひとつだけ気を付けていただきたいのは、縞や格子はカジュアルな柄だということ。シンプルで低コストで作れるこれらの柄は普段着用でフォーマルな席には似つかわしくありません。きちんとした席にほど失敗の少ない柄を選びたくなりますが、例えば結婚パーティなどのお呼ばれに縞の柄はふさわしくない場合があるのでご注意くださいね。(バーでの立食パーティなどカジュアルスタイルのパーティならOKな場合もあります)
基本的には好きなものを着てOK!
あぁ、やっぱりきもののルールって難しい!と思われた方もいるかも知れません。
確かに細かく挙げていけば注意すべき点はたくさんあります、しかしそれは歴史ゆえの細かさ。普段のおしゃれとしてきものを着る分には、お好きな柄を着て問題ありません。せっかくきものを着ているのにルールにとらわれておしゃれを楽しめなくなってしまっては元も子もありません。着たい柄を自由に着こなしてください。
きもの愛好家のなかにも、桜が大好きで一年中桜の柄の着物を着ていた人もいるくらいなんです。ルールは結婚式など自分以外の主役がいるシーンでだけ気を付けて、あとはあなたらしいおしゃれを楽しんでください。
先取りなどのルールができたのも、もともとは季節を楽しむため。梅のきものを今しか着られないのはつまり梅の季節を存分に楽しむということでもあるので、がんじがらめにならずに季節をまとう感覚で楽しんでくださいね♪