こんにちは! ケルト音楽専門の楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営している、フルート奏者のhataoです。この連載では私のようなスモールビジネス経営に興味のある方に向けて、私の経験やアイデアを発信しています。
個人事業主として楽器演奏や楽器販売業を営んできた私は昨年「合同会社ケルトの笛屋さん」として法人化し、今年8月末、無事に第一期目を終えることができました。法人化した経緯は昨年の記事をご参考ください。
「ひとり社長になりました! 法人登記の経験をシェア」
https://brew-by.com/18327
法人化すると節税になる理由とは
およそ15年間、音楽家と楽器販売業として個人事業を営んできた私が法人化をした最大の理由は、売上が大きくなるとともに各種税金の負担感とてつもなく大きく感じたためです。
私は税金について詳しいわけではありませんので受け売りになりますが、法人化すると以下のような理由により節税になると言われています。
まず所得税です。日本では収入に応じて税率が変わります(累進課税制といいます)。例えば年収300万円では税率10%=税額30万円が、年収900万円では33%=297万円となります。年収が3倍になっているのに対して、税額は10倍近くにもなっていることがわかります。
住民税は所得にかかわらず課税所得に対して税率10%で固定されています。健康保険料も所得に応じて一定の割合でかかり、徴収額の上限はおよそ100万円です。つまり個人事業がうまくいき年収4,000万円を超えると、所得税の最高税率は45%+住民税が10%、さらに他の各種税金や社会保険料と合わせて、稼ぎの大半を国に支払うことになります。
これに対して法人税は税率が20%前半であるため、個人事業主としての所得が増えると、ある時点で法人化したほうが税金を安く抑えることができるというわけです。人気のあるタレントや漫画家が、個人で活動していても自分の会社を持っているのには、こういった理由があります。
税制のほかにも、法人には個人事業主よりも幅広い経費が認められています。代表的なものとして、給与があります。自分一人の会社であっても、社長は会社から雇われているとみなされるため、自分の給与を経費に計上することができます。また、出張旅費規定を作れば、交通費やホテル代に加えて出張費としていくらか会社の経費に計上することができます。こういった経費は、個人事業主では認められていません。
法人化前後の税額を比較
個人事業主は、1月〜12月の所得をもとに翌年の税額が決まります。私が法人化したのは2021年9月で2021年は1〜8月しかデータがないため、法人化を決意するきっかけとなった2020年に対する税額のデータを見てみます。この年は、とにかく税金が高く、このままでは何も手元に残らないのではないかと感じた記憶があります。
21年に額が決まった年間の税金は、所得税は114万円。事業税は35.6万円。住民税は92.3万円。健康保険料は96.3,万円、年金は19万円、合計で357万円の税金を支払っていました。私が稼いだお金のうち300万円以上の大金を税金で支払っていると考えると、その高さが伝わるでしょう。
中でも毎月銀行口座から引き落とされる健康保険料は痛く、月によっては9万円を支払っていました。風邪も引かず年に数回歯科に通う程度の健康体の私にとっては、大きな出費でした。
続いて、法人化後の税額を見てみましょう。おおまかに法人税(地方含む)4万円、事業税1万円、住民税が都道府県・市町村の合計で20万円、それらを合わせて25万円ほどでした。健康保険料と厚生年金は合わせて毎月6万円程度を支払っており、合計で70万円ほどとなります。すると、すべてを合わせた税額は100万円程度ということになりました。個人事業主時代と比べて250万円の節税となりました。
さらに、法人化してから最長2年間は消費税の納税が免除されるため、弊社では1年間でおよそ200万円、2年間分で400万円の消費税を支払わなくて済むことになります。
なお税理士報酬については、個人事業主時代は確定申告の代行のみを依頼しており10万円ほど、現在は新しい税理士と契約を結び、毎月の顧問料(給与計算登録、源泉関係書類作成代行、年末調整代行を含む)と決算で45万円ほどです。税理士報酬はかなりの増額となりましたが、節税効果を考えると大満足です。
税額が安くなった理由は?
大きな要因は経費が積み上がったことです。中でも個人事業主時代に持っていた数千万円の在庫を、法人が原価で買い取ったという会計処理をするため、1期目は経費が通常よりもふくらみました。そのため、来期はここまで経費が大きくはならず、税額は増えることでしょう。これは、在庫を持って営業している人だけが享受できる節税です。
次に、小規模企業共済の控除です。小規模企業共済とは自営業者や中小企業経営者のための退職金積み立てで、掛け金を全額、課税所得から控除することができます。私は毎月5万円を積み立てているため、年間60万円が控除されました。
最後に、健康保険料が安くなったことです。健康保険料は課税所得に一定割合をかけて計算されるため、所得が増えるほど金額が高くなります。私は会社からもらう役員報酬を月に20万円(年収240万円)と定めたのですが、それは個人事業主時代よりもずっと低い所得であるため、それだけ健康保険料も安くなったということになります。
また、私個人の事情ではありますが、和歌山家に取得した別荘を登記上の本社住所として登録したため、自宅がある兵庫県と別荘がある和歌山県との交通費を全額経費にしたり、本社である別荘の改修費用を経費にすることが認められるようになりました。これは、個人事業主で単に家と別荘を持っている状態では決して認められないことです。なお、私自身はこの冬に住民票を本社がある和歌山県に移し、兵庫県の家は社宅兼倉庫として取得することになりますが、これも経費に計上することができます。このように法人という、自分以外の人格を得ることで、さまざまな動きが可能となりました。
個人としての確定申告は?
ひとり社長は、税制上は法人格という別の人格に雇用されている社員という体裁を取ります。決算は法人としての税の申告ですので、それとは別に社長個人としての確定申告がまた3月にあるのでは? と思いました。しかし顧問税理士によると、私のケースでは必要がないようです。
おそらく、本業とは別に副業を持っていたりとか、株の取引や中古品の売買など法人以外の収入源があれば申告が必要なのでしょうが、私は本業一本ですので、次の決算である来年の10月までは申告が必要ありません。正直なところ毎年の確定申告がとても気が重たかったので、年2回の申告にならずに済んだことには安心しています。
法人化で合法的な節税を
制度を利用して上手に節税し手元にお金を残すテクニックは、この重税国家の日本において法律で認められている私たちの権利です。稼ぐ力を手に入れた人は、この手を使わなくてはもったいないです。個人的には、あと2年くらい早く法人化していたらもっと節約できたのにと思っています。
一方で、法人になると法人住民税や税理士費用など個人事業主よりも大きな支出になることもあるので、実際に法人化したほうが得になるのかどうか、その判断は慎重に行ってください。
私はまだまだ法人化1年目。今後も気を引き詰めつつ、本誌でその後をご報告できればと思っています。