hatao

ケルト&北欧の笛奏者、音楽教師、音楽教材著者、楽器店経営者。 ハープと笛のhttp://hataonami.com、ケルトの笛屋さんhttp://celtnofue.com 演奏、教育、普及で音楽を広める。18年京都烏丸錦に、19年東京都ひばりヶ丘に日本初ケルト音楽専門の楽器店を開店。En한中 3か国語学習中。

スモールビジネスの「新規事業」の考え方 〜フリップヘッドの販売を開始〜

こんにちは! ケルトの笛奏者で、ケルト音楽専門楽器店「ケルトの笛屋さん」を経営しているhataoです。この連載では、スモールビジネスを営む私が起業やビジネスについてアイデアと経験をみなさんとシェアしています。

新規事業に乗り出しました

ケルト音楽専門の楽器店の弊社ですが、5月からケルトの楽器以外の販売事業を始めました。

それは、横に構えて演奏する管楽器フルートを、リコーダーのような縦笛に変えてしまう、ドイツ製の「Flipheadフリップ・ヘッド」という商品の販売です。


フルートという楽器は、筒に孔(吹き口)が空いているだけのシンプルな作りのため、リコーダーやハーモニカのような息を入れれば誰でも音を鳴らすことができる楽器とは異なり、唇の形を作って(アンブシュアと言います)息を整えなくては音を鳴らすことができません。良いアンブシュアを獲得するには身体的な条件と経験が必要で、これがフルートが難しいと言われる理由となっています。

Flipheadはフルートのマウスピース(頭部管)の代わりに挿すことができるマウスピースで、リコーダーのように息の流れを音に換える機構が備わっており、ただ息を入れるだけで発音が可能となります。

この商品は、フルートとほぼ同じ運指であるサクソフォン奏者が持ち替え楽器としてフルートを使う際に障壁となっていた発音の問題を克服することができるほか、身体的な原因でアンブシュアが作れない方や、学校教育などでこれからフルートを始めたい方の練習用楽器としても需要を見込んでいます。弊社ではFlipheadの日本で最初の専売契約を獲得し、販売を開始しました。

Flipheadを取り扱うことになった経緯

Flipheadを知ることになったのは、2年前のことです。リコーダーのように吹けるフルートがないかとお探しのお客様から、輸入代行の問い合わせをいただきました。
当時Flipheadはまだ輸出をしていなかったため販売を断られ、また弊社のカバーする領域とは少し異なる商品であることもあり、その時点では代理店をするという発想には至りませんでした。ところがちょうど2年経ちメーカーから海外展開の準備が整ったので、日本では最初に連絡をくれた弊社で取り扱ってほしいという申し出をもらいました。
この商品にどれほどの可能性があるのか私には判断ができませんでしたが、YouTubeの本人演奏のビデオを見たり、メールのやりとりの様子からこのビジネスの可能性を信じてみることにしました。ただし、弊社のメインの商品とは異なるジャンルのため、弊社の販売ページを間借りして私が副業として個人的に販売をするという体裁を取りました。

契約にあたって、こだわったこと


これまで数十の楽器工房と取引をしてきましたが、今回は代理店契約を結ぶにあたり、初めて専売契約を絶対条件としました。これまでの取引先とは専売契約を結んでこなかったので、他企業が参入するリスクは常にありました。しかしこれまで個人輸入を除いて、国内他社からの新規参入はありませんでした。それは、民族楽器というやや特殊な商品だったこと、また弊社がケルト音楽の分野での専門性を追求してきたからだと考えています。

今回はフルートという一般的な楽器であるため、大手の企業も参入してくることを警戒しました。資本力にモノを言わせる大企業に、弊社のような零細企業は太刀打ちできません。メーカーによると、ちょうど商談中に日本屈指の音楽機材販売会社が商談を持ちかけてきたそうですが、弊社との商談中のため取引をお断りしたと聞きました。弊社を選んでくれたのは、タイミングが良かったとしか思えません。メーカーとしては日本で販売を展開するにあたってより販売力のある会社と提携したいでしょうから、一度弊社に卸売して終わりではなく、成り行きを見守りあまりに販売が遅ければ取引先を変える可能性があるということを伝えられました。

私としてもいつまでも在庫を抱えたくはないので、最初の在庫は半年で売り切りたいと考えており、それが達成できない場合には他社に専売権と在庫を譲り渡したいという提案をしています。

ビジネスは金融投資と似ている

新規事業に乗り出すかどうかを検討するにあたり、最初の仕入れの原価と、それを全て売り切った際の売上金との比率で、投資収益率を計算してリスク判断することができます。

仮に200万円投資して、見込まれる税別売上が300万円つまり粗利が100万であれば、投資収益率(ROI)は50%となります。株式の長期投資では10%を達成できれば良い成績だと言われていますので、50%は非常に高い収益率です。そうして得た粗利も含めて次回は300万円を投資すれば、また450万円になって帰ってくる…。実際のビジネスはここまで単純化できませんが、「雪だるま式に資金を増やす」ことにおいては投資と同じ考え方が適用できます。これはあくまで例であり、Flipheadの投資収益率ではないことはお断りしておきます。

私の投資金額は、初期オーダーは最低ロットとして定められていたマウスピース数十個と楽器本体とマウスピースのセットが数本、購入額に送料と税金など諸経費を合わせて170万円ほどとなりました。経費が想定していたよりもかさみました。

販売価格の設定は任されていましたが、メーカーのホームページでは日本からも個人輸入することができるため、これより若干安い価格としました。そうでなければ、私を素通りして直輸入する消費者も出てくると考えたためです。この価格設定の場合、初回仕入れの7割の在庫を販売して初めて利益が出るような計算となりました。原価計算をしてみて、これは苦しい投資だなと感じました。また、少ないながら広告予算も考えていたため、初回の仕入ではそれほど儲からないと思われました。
原価計算を素直に伝えると、メーカー側は日本からの個人輸入を受け付け停止する提案をしてくれました。メーカーとしても、ユーザーが弊社を通じて買ってくれたほうが手間が省けるメリットがあります。

プロダクト・ローンチについて

発売するにあたり、対象とするマーケットに向けて大々的に広告を打って華々しく発売を印象付けることもできるのですが、私は自社のホームページに販売ページを作り、それを自社のSNSで告知するという地味な方法で滑り出しました。現状は販売を私一人で行なっており万全のサポート体制が取れないので、注文が殺到したり、問題が連続して起きた際に責任を持って対応ができないと考えたためです。

また、インフルエンサーに試供品を送りプロモーション・ビデオを作成することを考えているのですが、公開までには数週間かかると見込んでいるため、発売後も断続的にPRをしていくつもりでいます。ある程度販売が好調になったら、さらに広告予算を積んでいこうとも考えています。

積極的に新規事業展開する

これまで、楽器店の韓国進出、アイルランド音楽のビデオ教材の配信サービスへの投資など、積極的に投資を行なってきました。うまく行ったこともあれば、失敗したこともありますが、どれも良い学びの機会となりました。ビジネスを続けることは容易ではなく、続けられるだけでも価値があることですが、新しいことを始めなければ事業はマンネリ化し、やがて顧客に飽きられ、自分より革新的な新規参入を許し、やがて事業の衰退を招きます。コンビニを例に取っても、常に同じ業態でそこに存在していますが、コンビニという「箱」の中で扱う商品やサービスは目まぐるしく変化しています。

本業の調子が良くて資金を増やすことができたとしても、インフレの進む現在の状況では、現金の価値は日々失われていきます。通帳の預金額は、使わなければただの数字です。死に金とならないよう、私は常に資金を動かしていくことを心がけ、効果的な投資先にアンテナを張っています。これが明日のビジネスを作り、未来にさらに大きく稼ぐチャンスになると考えています。